収入のない学生でも20歳になったら国民年金に加入する義務がある。だが、仕組みを習わないまま大人になってしまうことが多い。何をどう教えるべきか?(写真:irohana/PIXTA)

読者の皆さんの中には「息子・娘が大学生」という親もいらっしゃると思います。大学生の子どもとはいえ、20歳になれば国民年金に加入しなければなりません。60歳になるまで40年間、国民年金に被保険者として加入する義務がありますが、子どもたちは「年金」について、どれくらい知っていますか?

今回は、「20歳を迎えようとする子ども」を持つ親が、「年金」について何をどう教えるべきなのか、ポイントをまとめてみます。

年金って、そもそも何?」にどう答えるか

20歳前後の息子や娘たちがまず疑問に感じているのは、

「新聞やニュースでもよく報道されているけど、年金って、そもそも何?」

といった根本的なことかもしれません。改めて「年金」とは何でしょうか。根本的なことを、どう伝えますか?

年金とは、毎年、定期的、継続的に受けられるお金を指します。その内容によって生涯受けられたり、有期で受けられたりしますが、支払いが1回限りの一時金とは異なるお金です。

年金の仕組みは、働いて収入を得られるときには被保険者として保険料を払い、働いて稼ぐことができなくなったときに受給者として年金を受けます。このような日本の公的年金制度は、原則として、社会保険方式で運営されており、「働いている間に保険料をどれくらい納めたか」で将来の年金の受給可否や受給額が変わることになります。

最近は働く高齢者が増えていますが、高齢で働くことができなくなったときに老齢年金が支給されます。多くの高齢者はこの老齢年金を受給しています。

この老齢年金を一般的に「年金」ということが多いですが、ほかの種類の年金もあります。病気やケガによって障害が残り、働くことが難しくなった場合には「障害年金」が支給されます。また、自分が死亡した後に遺された家族が生活に困らないように支給される「遺族年金」もあります。障害年金や遺族年金は若い世代でも受給することができます。

ここまで、まずは年金の基本について息子や娘に伝えてはいかがでしょうか。20歳の大学生でも国民年金に加入すると、被保険者として保険料を払う立場になり、国民年金の「第1号被保険者」として月額1万6540円(2020年度)の保険料の納付義務が発生します。

1991年3月以前は一定の学生は国民年金に加入義務がありませんでした。そのため、今20歳になる子どもの親世代には学生時代に未加入だった人もいると思いますが、親自身の学生時代とは異なることを踏まえ、子どもには年金制度の加入者になったという自覚も持つように伝えましょう。

大学生は「年金」について、次のような素朴な疑問を持つことも少なくありません。

「高校を卒業して働き始めた友達は『20歳になる前から年金保険料を払っている』というけど、自分も払わなくていいのかな?」

20歳になったら国民年金第1号被保険者となる大学生とは違って、20歳前から会社員となっている人は厚生年金被保険者となり、同時に国民年金第2号被保険者となっています。この場合は20歳前でも年金制度に加入することになり、毎月の給与や夏・冬の賞与から厚生年金保険料として引かれています。代わりに1万6540円の国民年金保険料は払いません。厚生年金保険料の額は給与や賞与の額に比例します。

学生など勤めていない20歳未満の人の場合は保険料を納める必要がなく、20歳になって初めて第1号被保険者として加入することになりますが、その後卒業して就職すると、厚生年金被保険者・国民年金第2号被保険者になります。

学生のほか自営業者などもなる第1号被保険者、会社員等の第2号被保険者があり、ほかにも、結婚し、第2号被保険者に扶養される場合の第3号被保険者もあります(第3号被保険者は保険料の負担はありません)。このように国民年金の被保険者の種別は1つではありません。

今の20歳の大学生は、大学生のうちに第1号被保険者となり、卒業して就職すると、第2号被保険者に切り変わるという経験をすることになります。その後、独立、結婚、再就職などを契機に、さらに切り変わることもあるので若いうちから種別についての理解も必要となるでしょう。

20歳になったら役所で手続きが必要なのか?

20歳の誕生日を控えて、次のような疑問を抱く大学生も多くいます。

「そういえば、大学の先輩は『国民年金の加入手続きに役所へ行ってきた』と言っていた。自分も20歳になったらすぐ行かないといけないのかな?」

20歳になった大学生は、国民年金に加入するための手続きは必要でしょうか。かつては必要でしたが、2019年10月より、20歳になると自動的に国民年金の被保険者になりますので、加入そのものの手続きは不要となりました。第1号被保険者としての加入の処理が完了すると、そのお知らせと国民年金保険料の納付書が届き、別途年金手帳も送られてきます(年金手帳は2022年4月より廃止され、基礎年金番号通知書に切り替えられます)。

第1号被保険者として加入完了すれば、いよいよ国民年金保険料を毎月納付する必要がありますが、

「学生で収入が少ないし、毎月1万6000円なんて払えない」
「どうせ払えないなら、このまま放置しよう」

という大学生が少なくありません。しかし、何もせずに放置すると未納期間扱いとなり、デメリットがあります。

国民年金制度の老齢年金である老齢基礎年金を受給するには、保険料納付済期間、保険料免除期間などの受給資格期間が合計で10年(120月)以上必要です。

10年に満たなければ、将来65歳からの老齢基礎年金は1円も受けられません。保険料を納めずに放置し、未納期間のままでは、その受給資格期間に含まれません。もし収入が少なくて保険料が払えない場合、学生であれば学生納付特例を申請すれば保険料の納付猶予を受けることができます。納付猶予を受けた期間は、保険料免除期間として受給資格期間に算入されます。

国民年金への加入そのものの手続きは不要になりましたが、学生納付特例は手続きをしないと納付猶予が受けられないので、気をつけてください。20歳を迎えると、国民年金に加入したことのお知らせと一緒に学生納付特例の案内も届きます。同一世帯の家族の所得要件は問われず、本人が学生で、また本人の前年の所得が「118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等」以下であれば、学生納付特例を受けられます。

「未納期間だけはつくるな」と教えるべき

20歳の大学生の子どもに収入がないと、その国民年金保険料を収入のある親が支払うこともあるでしょう。税法上、親が生計を一にしている子の保険料を代わりに払った場合、当該保険料分について税金の計算では社会保険料控除の対象となり、収入のある親の節税になります。

ただ、20歳になったこと、年金の被保険者となったことに対する自覚を持ってもらうためにも、子どもが自分自身で保険料を払ったり、学生納付特例の申請をしたりするほうが望ましいのではないでしょうか。

学生納付特例については、4年制大学の大学生で、浪人・留年等がなければ、2年生のときに20歳になってから、4年生まで受けられることになります。その申請は「年度ごと」なので、忘れずに行う必要があります。親世代にとっても年金制度は複雑に見えるかもしれませんが、未納期間だけはつくらないように子どもに教えるべきです。なお、学生納付特例で猶予を受けた保険料は10年以内に納付(追納)することができます。

学生納付特例については、2014年4月以降、過去2年分までさかのぼって申請することもできるようになりました。そうなると、

「だったら、すぐ申請しなくても、後でまとめて申請しよう」

と思うかもしれません。しかし、年度単位の学生納付特例の場合は、学年が上がるたびに早めに申請を行う必要があります。前述のように年金には高齢期の老齢年金だけではなく、障害年金や遺族年金もあります。

障害年金の受給のためには、一定の例外を除き、「初診日の前日時点」における保険料の納付要件を満たしている必要があり、学生納付特例を申請せず、保険料も納めずにいたため未納期間が多い場合は年金が受けられなくなる恐れがあります(遺族年金の場合は「初診日」を「死亡日」に置き換えて考えます)。

「初診日の前日」までに学生納付特例を申請すれば受給の納付要件を満たすための保険料免除期間に算入されますが、初診日の当日に過去2年分の申請を行っても、その学生期間は保険料免除期間には算入されないことになります。つまり、初診日当日以降の申請では未納期間と同様の扱いとなってしまいます。

「ねんきん定期便」の活用法も伝えておく

20歳で国民年金の被保険者となり、自分で年金についての手続きをするようになると、

「あの日に払ったはずの保険料はちゃんと払ったことになっているかな?」
「学生納付特例の申請は認められて保険料は本当に猶予されているかな?」

などと気になることでしょう。

年金制度の被保険者になると、毎年誕生月に「ねんきん定期便」が届きます。インターネットで「ねんきんネット」を利用することもできます。親の世代が20歳の頃にはどちらもありませんでした。今の時代に20歳になる人たちは、これらを活用して年金記録の確認ができるので、記録に間違いがないかどうか確認する癖をつけておくことも大事でしょう。

以上、「年金」について20歳になるわが子に伝えるべきことはいくつもありますが、ぜひ親子で対話する機会を設けてください。それをきっかけにして、子どもは自分の将来の備えを始めることになるでしょう。