「バーチャルマラソン」が盛況だ。スマホアプリを使って、参加者それぞれが自由なコース・スタート時間で走る。スポーツライターの酒井政人氏は「各地のマラソン大会が中止・延期になったことによる反動ですが、トップ選手や箱根駅伝の調整に影響が出るおそれがある。そもそも、なぜドーム球場での野球はOKで、屋外でのマラソンはNGか。コロナ対策という名の規制は、果たして適切なのか」と苦言を呈する――。
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■東京マラソンも延期、大規模マラソンはいつから開催できるのか?

来たる2021年のことを想像して、笑顔になる市民ランナーはほとんどいないだろう。

別府大分毎日マラソンは21年2月7日に予定していた第70回大会の延期を決定。22年2月6日に日程変更した。実行委員会によると、「新型コロナウイルス感染拡大の収束の見通しがつかず、選手及び関係者の感染防止を徹底できないこと」などが延期の理由だった。同マラソンは参加資格の基準が高く、市民ランナーにとっては“憧れの大会”だけに、ショックを受けた本気ランナーは少なくないだろう。

そして、東京マラソンも21年3月7日の実施を断念した。今年はエリートの部のみで開催したが、コロナ禍によってスポンサー収入が減少。21年10月17日に開催することで、約3万8000人の定員を減らさないかたちを目指すという。

政府はスポーツイベントの人数上限を11月末まで50%としており、12月以降のあり方は検討中だ。来夏に延期した東京五輪までは、スポーツイベントでクラスターを発生させるわけにはいかないという必死さを感じさせる。

■急増中マラソンの「バーチャル大会」とは

リアル大会は延期される別府大分毎日マラソンだが、後述するようなスマートフォンアプリを活用した「リモートマラソン 別大チャレンジ2021」(仮称)を開催予定。東京マラソンも、21年3月上旬に1週間かけて、世界各国から参加可能なバーチャルマラソンや都内におけるランニングイベントを実施する予定だ。

例年この11月に開催される参加者1万人以上の大規模フルマラソン大会(富士山、金沢、ぐんま、いびがわ、横浜など)も今回はオンラインでの開催に変更した。

このように最近はバーチャル大会が急増している。多くの場合、「TATTA」など指定されたスマホアプリを使用。GPSでの計測になるため、スタート時間、コースなどはランナー自身が自由に選ぶことができる。開催期間も1〜4週間と長いのが特徴だ。リアル大会のエントリー費(フルマラソン)は1万〜2万円が相場だが、オンライン開催は通常の1〜2割に設定している大会が多い。

11月22日には全国初となる「オンラインLIVEマラソンJAPAN」も開催される。同日同時刻に全国一斉に参加者がスタートするイベントだ。走っている人自身は観られないかもしれないが、開会式、ウォームアップ、途中経過、表彰式をスタジオからLIVE配信するという。通信環境のよい走行可能なコースならどこを走ってもOKで、全国のランナーとつながることができるのはなかなか面白い。5kmごとに、自分のタップと順位がリアルタイムでスマホに表示される。参加費は1500円で、定員は5000人だ。

昨年まではごくわずかだったバーチャル大会がコロナ禍で急成長を遂げている。しかし、沿道から多くの声援が送られる中、同じゴールを目指す仲間たちとともに、道路のど真ん中を堂々と走りたいというランナーの欲求は消えることがないだろう。

■リアル大会も少しずつ開催されるようになってきた

ただ、ありがたいことに、最近はリアル大会も少しずつ開催されるようになってきた。

スポーツイベントのタイム計測を行っている計測工房の調査によると、コロナ前の2019年は国内で参加者5000人以上のマラソン大会は161大会あり、そのうち1万人以上は66大会あったという。コロナ後は大半が中止や延期に追い込まれたが、その流れが少しずつ変わってきている。

例えば、今年3月8日にエリートの部のみで行われた名古屋ウィメンズマラソンは、21年3月14日に一般の部を含めての開催が予定されている。ただし、規模を縮小する。チャリティー(前回は定員3000人)、ハートサポートランナー(同1000人)、海外(同3000人)の募集は行わず、チャレンジ枠3500人、宿泊付き3000人、一般4500人の合計1万1000人+エリートの部(前年は114人が出場)となる。ただし、参加費は2万6000円で前年(1万3850円)からほぼ倍増する。

■コロナ禍でドームの野球がOKで、屋外のマラソンがNGな理由は?

ただ、不思議なのは屋外で行うマラソンが1万人規模の大会をここまで開催できなかったことだ。

たとえばプロ野球は6月19日に無観客で開幕すると、7月10日からは入場者の上限を5000人で開催。政府のイベント開催制限緩和方針を受けて、9月19日からは入場制限を引き上げた。収容率は30〜40%ほどで、各試合で1万5000人から2万人前後を集客している。

プロ野球は12球団中6球団の本拠地がドーム球場だ。広い空間とはいえ、屋内となる。一方のマラソン大会は屋外でのイベントだ。スタート時の密を避ければ、プロ野球観戦ほどリスクがあるとは思えない。しかし、1万人を超えるようなランニングイベントが年内に行われる予定はない。

写真=iStock.com/adamkaz
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■なぜアウトドアのマラソンはダメなのか、その理由とは?

プロ野球やJリーグなどプロスポーツ団体は、観客を入れないと収入を確保できない。選手に年俸を支払い、経営の黒字化を目指すには、1人でも多くの観客を入れたいという気持ちが強くなる。

一方、マラソン大会は公道を使用し、地方自治体が主催・共催することが多い。収入を確保する必要性は低く、マラソン大会を開催することで、クラスターが発生した場合は責任を追及される可能性がある。リスクを背負ってまでやりたくない、というのが本音だろう。

いま国は「GoToトラベル」を実施して、国内旅行者の活性化を狙っている。しかし、大型スポーツイベントの“解禁”には至っていない。

先日行われた、正月恒例の箱根駅伝の予選会も無観客で開催された。人気コンテンツということもあり箱根駅伝も開催する方向で進んでいるが、多くのロードレースは軒並み開催中止になっている。箱根駅伝を目指す選手たちは11月にハーフマラソンを走ることが多いが、今冬は出場できるレースがない。市民ランナーの楽しみが奪われただけでなく、トップ選手もトレーニングや調整面で影響が出ている。

コロナ対策という名の「規制」は、果たして「適切」といえるのか。ウィズコロナ時代の取り組みを真剣に考える時期がやってきたようだ。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)