リモートワーク…大分県から東京に月2、3回通う生活は快適か

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新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

交通の便の悪い都心の外れで生活する

集中から分散へ。それでは、どんな街がポスト・コロナの時代には市民権を得ていくのでしょうか。テーマは「生活」です。

まず、働き方の状況によって住む場所が変わるのは大前提と言えましょう。たとえばテレワークは週2、3日程度で、残りは都心で働く、というのであれば、あまり遠くには住まず、交通の利便性も重視して街を選ぶようにすべきです。ただし、これまでのように会社ファーストだけでの家選びから、条件はだいぶ緩やかになってくるはずです。必ずしも駅徒歩5分以内である必要はありません。街を楽しむという観点で言えば、オールドタウンなどは住みやすいかもしれません。

月に4、5回程度、都心の会社に出社するだけのテレワークが基本だと住む場所の選択肢は広がる。(※写真はイメージです/PIXTA)

東京の下町は不動産価格が手頃であるのに、風情があってけっこう楽しめる街が多いです。葛飾の柴又に住んで、寅さんになった気分で下町情緒を楽しんでもよいですし、入谷や千住など浅草や上野に簡単にアクセスできるようなエリアに住んで、夏の昼下がり縁側で将棋を指すなどという生活を楽しめるかもしれません。

世田谷や杉並といった山の手地区でも、意外と交通の便の悪いところはたくさんあります。杉並は鉄道路線が東西にしかないですし、世田谷でもバスしか交通手段がないところはいくらでもあります。毎日バスで最寄り駅まで通勤するのは苦痛ですが、週の半分くらいであれば、それほどの負担ではありません。こうしたエリアは、やはり世田谷、杉並ブランドですので環境も良いです。ところが交通の便が悪いところは、賃貸価格が目に見えて落ちます。狙い目といってよいのではないでしょうか。

いっぽう、月3、4回程度、都心の会社に通勤すればよく、基本はテレワークというような仕事になった場合は、さらに選択肢が広がります。大都市圏には、ここ数十年の間で、しっかりとした都市機能を持った衛星都市がいくつも誕生しています。これらの都市は、これまではしょせんはベッドタウンにすぎないという面もありましたが、一日を快適に過ごせる機能を意外と持ち合わせている街も数多く形成されています。

こうした衛星都市は、多くは都心まで通勤で1時間を超え1時間半程度はかかるところが多く、都心居住の進展で家選びの基準から徐々に外されてきました。ところが通勤に費やす時間は大幅に減り、生活ファーストを前面に出しての家選びとなると、ポイントは高くなります。

集中から分散、郊外衛星都市が復活する

まずは不動産価格が安いということです。平成バブル期にはこうした衛星都市の不動産価格も高騰しました。横浜のだいぶ奥のほう、たとえば栄区や金沢区、泉区といった住宅地でも1億円を超える物件がごく普通に出回っていましたが、現在は中古物件であれば1000万円台でも手に入ります。都市機能の多くは横浜に揃っていますので、平常時は横浜に遊びに行く生活を堪能できます。同じ神奈川なら相模原や横須賀、藤沢や小田原といった衛星都市を基点に生活構築することが可能となります。

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

また千葉なら、船橋や柏、松戸、埼玉なら大宮や浦和、春日部や川越を中心とした生活が送れます。これまでは横浜や船橋から、電車を乗り換えて東京にアクセスしなければならなかったのですが、ポスト・コロナでは最寄りの生活圏にこういった衛星都市があれば、毎日の生活にはあまり事欠かないということになります。

そうした意味ではポスト・コロナにおいては、これら衛星都市がどこまで人々を惹きつけるようなレイヤーを構築できるかが鍵となりそうです。それはただ単に劇場だとか展示場、体育館や図書館といったハコモノがあるだけに限らず、市民サービスや生活支援、災害対応、子育て、教育などあらゆる分野での居心地の良さの構築が問われてくる、と言えるでしょう。

そして差別化のヒントは、トヨタ自動車が裾野市で計画しているような、たとえば「道」といった、あるテーマをもとに徹底して街中にレイヤーを構築することなのです。こうした取り組みを成し遂げることで、衛星都市の中には今まで以上に魅力を増し、平成初期の頃以上に価値を高め、復権を果たすところが出てくるのではないかと期待しています。

さらにテレワークの領域を離れ、リモートワーク、つまり基本的には都心に行くことはなく、仕事は限りなくリモートワークですませることができるようになると、これまでの家選びとはおそらくまったく異なる街を選ぶ人が出てくると思われます。地方都市への人の逆流です。

地方都市の魅力はさまざまです。物価が安い、ということに加えて、不動産価格も大都市圏に比べれば格段に安いといえます。自然が豊かというのも場所によりますが、おおむねそうでしょう。人情がある、これも地域柄がありますので何とも言えませんが、少なくとも都会のような希薄な人間関係ではないでしょう。これまではこうした魅力的な要素は、人によって感じ方は違う、あるいは合う、合わないの違いこそあれ、地方都市の魅力でした。

ただこれまでは移住、定住を考える場合、なかなか地元に満足できるような仕事がない、というのがネックでした。必然としてまだ本格的にやってみたこともない農業に徒手空拳で挑戦する、2、3年で失敗、挫折。周囲との人間関係もうまくいかなくなって失意のもと、都会に帰る、というパターンが多かったようです。

大分県国東半島から東京に通う生活

ところが、ポスト・コロナの世界では、慣れない地域で職探しをすることがありません。自分の得意な領域の仕事を、自然環境が豊かで食べ物がおいしく、何といっても物価が安い地方ですることができるようになるのです。ついでに広い敷地で、家庭菜園でもやれば、収穫したトマトやキュウリ、ナスなどで食卓が賑わいます。子供たちもマンション生活で階下の住戸に気を使うこともなく、のびのびと暮らすことができます。地方都市はポスト・コロナでは俄然、注目の住宅地に化ける可能性が大いにあると言えましょう。

地方都市での家選びは完全な生活ファーストとなります。ただ旅行気分で選択するのではなく、その地域で仕事をしながら暮らすことになれば、当然仕事がしやすい環境にあるかはひじょうに重要な要素となります。つまり、Wi-Fiなどのネット環境が整っているのは言うまでもなく、社会インフラとしてのレイヤーがどれだけ整っているかが勝負となります。

ネットで何でも注文ができる。何もわからない地域の決め事でもネット検索をすれば、一発で理解できる。こちらからの情報発信にもちゃんと対応してくれるところがある。街は開放的でよそ者に対しても親切に対応してくれることは、これまでの移住でも大事なポイントでしたが、これからの「親切」は、生身の親切に加えて、こうしたソフトウェア、通信技術の整備にあるのです。

私が知り合った方に、大分県の国東半島にお住まいの方がいます。この方、もともとは東京のマスメディアの方でした。ところが、今はご家族の健康を第一に考えた結果、現在の国東に居を移され、今でもメディア関連の仕事をされています。

その方が言うには、仕事はどこでもできる、国東に来て、地元でいろいろな活動をしながらときたまメディアの仕事で東京にも行かれるそうです。

彼に言わせれば、国東から東京はけっして遠くないということです。大分空港へは車で20分程度、そこから飛行機で1時間40分。羽田空港から都心まで30分。都合3時間以内で、東京のスタジオに座っている。毎日はできないけれど、月に2、3回なら十分可能だと言います。往復で6時間はかかりますが、月3回なら18時間。サラリーマン時代は毎日往復で3時間。月に直せば20日通って60時間。実は国東にいるほうが、月に42時間も通勤時間が節約できる上に、精神衛生上も平穏を保つことができる、と言います。

集中から分散へ。住むところは自分の好みで選ぶ、生活ファーストは、ポスト・コロナの時代には着実に訪れてきそうです。

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役