猪口 真 / 株式会社パトス

写真拡大

若者離れや女性離れ、昭和のレジャーなど、散々な言われ方をしてきたゴルフ。コロナ禍によって一時期は休業を余儀なくされたところも少なくなく、高齢者の多いメンバーコースには、もう人は戻らないのではないかと言う人もいるほどであった。

ところが、逆に人が増えだしたゴルフ場が出てきた。一時は「石田純一ショック」もあり、ピンチが続いていたとの話も聞いたが、県またぎがOKとされたあたりから、人が戻りだしたようだ。

「GoTo」が始まる前までは、コロナ禍で出かけるところもなくなったのだが、逆に三蜜を避けることができる屋外スポーツのゴルフには追い風になったのだろう。

実際、2020年のゴルフ場の倒産数は過去最少だという。バブル崩壊後、ゴルフ場の倒産は右肩上がりで増え続けた。2002年には、108件にも達したほどだ。

確かに、コロナ禍で、ゴルフ場のローカルルールをいち早く変更したところは多い。バンカーレーキは使わず足でならし、できるだけ接触をしないスタイルを推奨した。またレストランも営業停止を余儀なくなれたため、原則スループレーとし、これまで1日かかっていたゴルフが早ければ半日できるようになった。

今年から、グリーンのピンは抜かなくてもよく、ドロップも簡単になったなど、全体的にルールが見直されたこともゴルフが注目される一因ともなった。

もともと、ゴルフ場は若者(特に女性)をいかに呼び込むかの対策は試行錯誤していた。これまで来場者の中心となっていた団塊世代が歳をとり、会社のお金を使ったゴルフもできなくなり、体力的にもつらくなってきたこと。さらに、ボリュームゾーンとなる団塊ジュニアの給与も伸び悩み、世代交代がうまくいってない状況などが背景にあり、ゴルフ場(ゴルフ関連市場)においては、20〜30歳代のゴルフ場への呼び込みは死活問題でもあった。

ここ何年にもおいて、平日を中心に割引券を配り、GPS付きのキャディカートを導入し、セルフプレー中心に変え、これまでのレディースティに加え、さらに前方に初心者用のティマークを設置したりして、なりふりかまわない対応をしてきた。

また、いわゆる「会員」はプレー以上に敷居が高かった。ただでさえ高額な会員権に加えて、「名義変更費用」などという、初心者にとっては意味の分からないお金が、高いところでは今でも数百万以上するところもあり、とうてい手の出せるものではなかった。

これも最近は様相が変わっている。PGMなどを中心に、ゴルフ場の新規募集という形をとることで、これまででは考えられない費用でメンバーになることができるようになってきた。

静岡のあるゴルフ場では、新規のメンバーを増やすために、会員権の売買ではなく、新規募集という形で集めた。自社のWebサイトを中心とした営業だったにもかかわらず、予定数のメンバーを確保し、今ではさらに10万円上乗せして販売を続けている。

これは、費用対効果を考えた購入者もいるだろうが、好みのコースのメンバーとなり、会員同士の交流含めたメンバーライフを楽しみたいというニーズがあるという何よりの証拠だろう。

こうした偶然(?)が重なり、出かけられないストレス解消のニーズも重なり、往年のゴルファーだけではなく、20歳代、30歳代の若者もゴルフ場に行くようになった。

さすがに、5月前後までは前年比で大きく落ち込んでいたが、8月は前年費でプラスに転じるゴルフ場も多くあるという。ゴルフやグローブなどの消耗品も売り上げが増加しているらしい。

反面、来場者数が増えても、平均単価は大きく下がっている。昨年あたりまでは、一人1万円近かった単価も、ある調査によれば、1000円程度減少しているという。それも当然だろう。セルフプレーに昼食の伴わないスループレー、さらにコンペが減少し、そのパーティ収入もないとなれば売上が下がるのは当然だ。ゴルフ場では完全にセルフプレーが主流だ。個人的にはプレーも早くなるし、余計な動きも減るキャディさん付のほうが良いが、料金も安く、気軽に行きたいという人にとっては、迷いなくセルフプレーを選択するのだろう。その証拠に、今年に入って、キャディフィの減少は大きい。

こういう状況をゴルフ場はどう見ているのだろう。

社会が変わり、遊び方の考え方がまったく変わった。といえば簡単だが、コロナ禍において、タイムリーな対策を打ち出したところが、やはり来場者を伸ばしているといえるだろう。

残念ながら、ゴルフ場が飲食やパーティで儲かる時代は終わってしまったのを自覚する必要があるのだろう。ゴルフ場の顧客が抱く価値が変わったのだ。じり貧であったゴルフ関連市場が、奇しくもコロナ禍で復活したかたちにはなったが、これまでのビジネスモデルではまったく通用しなくなったのは明らかだ。

ただし、最初はいいが、やがて慣れてくれば、芝の状態や他のメンバーのマナー、接客のクオリティは気になってくるものだ。余計なサービスはそぎ落としながらも、基本的な純粋にスポーツとして楽しめる良質な環境を提供し続けることが必要なのは言うまでもない。