企業で約30年間キャリアを重ねてきたミドルに「何もない」ということはありえません(写真:Greyscale/PIXTA)

このまま会社に残ってもいいことはなさそう。でも、早期退職・独立して食っていけるだけの実績もスキルも自分にはない……。そんな50代会社員は決して少なくないはず。

しかし、ミドルの転職・独立事情に詳しいFeelWorksの前川孝雄氏は、「企業で約30年間キャリアを重ねてきたミドルに『何もない』ということはありえません。蓄えられた知恵、磨かれてきたスキルが何かしら必ずある」と断言する。そこで前川氏の新著『50歳からの幸せな独立戦略』から、社外でも通用する「自分の強み」の見つけ方について紹介する。

「営業ができる」「経理ができる」は強みになるのか?

独立を目指すミドルにとって重要なのは、なんといっても自分の強みを見つけ、それを磨いていくことです。自分の強みに関してはもう十分わかっている、と思っている人も多いかもしれませんね。

「営業畑で20年以上やってきた。強みといったら営業ができること。それしかないよ」

「経理のスペシャリストとしてキャリアを重ねてきたのだから、経理スキルが強みなのは自明だろう」……。

このように、第一線で働いてきたミドルには十分なキャリアがあるからこそ、「強みなんて今さら見つけるまでもない」と考えてしまいがちです。

しかし、私に言わせれば、企業ミドルの中で「自分の強み」を正しく理解している人は多くありません。営業でキャリアを重ね、結果を出してきたといっても、それは会社の看板があってこそかもしれませんし、経理ができるといっても、企業の中で分業化された業務の一部しか知らないということもよくあります。独立後、個人で中小企業を対象にビジネスを展開するとするならば、それらがそのまま強みになるとは限りません。むしろ通用しないことのほうが多いでしょう。

とはいえ、「長年やってきたことが強みにならないなんて……」と嘆く必要はありません。20〜30年にわたり、さまざまな苦労や工夫、努力を重ねながら働いてきた人に何の強みもないということもまたありえないからです。

では、「営業ができる」「経理ができる」が強みだと安易に思い込んでいる人の問題点は、どこにあるのでしょうか。そもそも、「営業ができる」「経理ができる」では、スモールビジネスを展開していくための強みとしては大雑把すぎるというのが1つ。もっと自分のやってきたことを丁寧に棚卸ししないと、あなただからこその強みは見えてきません。

加えて、独立後の主要な顧客である中小企業のニーズが反映されていないことも問題です。ニーズがあればこその強みだからです。もちろん大企業を顧客とする場合もあるでしょうが、業務委託でもといた企業を顧客とする場合以外は、大企業は取引先の企業や個人に対する条件を厳しく設けている場合も多く、そもそも顧客とすることが難しいでしょう。 

さらにいえば、企業内での評価と社会での評価というのは別物だという視点も抜けています。会社の中では評価されていた経験やスキルがひとたび社外に出るとあまり評価されないというケースは往々にしてありますし、その逆もまたしかりです。

「他流試合」を通して自分の強みを再発見する

つまり、独立することを目標に決めた段階で、自分自身の強みを再発見することが必要になるのです。そして、それは自分1人で考えているだけでは見えてきません。他業界や中小企業の実際のニーズもわからずにあれこれ考えていても、机上の空論にすぎないからです。

ここで取り組むべきなのは他流試合。できれば会社を辞める前に、副業制度などを利用して会社の外に飛び出してみましょう。会社が副業を認めていないならば、正規の副業でなくても構いません。報酬ゼロの丁稚奉公でもよいですし、プロボノや週末ボランティアでもOK。

とにかく一度、会社の枠を出て、中小企業などの現場で仕事を経験してみるのです。そこであなたは、これまでのやり方が社外の現場やボランティアの現場ではそのまま通用しないことに気づくでしょう。同時に、「ここを改善すればもっと効率的になるのに」と気づくことも多々あるはずです。

この一連の気づきが自分の強みの再発見へとつながっていくのです。

例えば、「商品も顧客層も営業活動のスケールも異なる中小企業の現場に、大企業の営業システムをそのまま持ち込むことはできないが、自分がやってきた顧客データをエクセルで管理・分析し、営業活動に活用する手法は十分応用できる」といった発見があったとしましょう。それこそがあなたにとっての「強み」候補です。

次に、あなたが顧客データの管理・分析・活用に関して、どのような工夫を重ねてきたか、活用するにあたっての課題をどう克服してきたかなどを整理します。そして他流試合の現場で提案してみるのです。

もちろん最初からすべてうまくいくとは限りません。しかし、同じ業務に関して多くの経験を重ねてきたあなたには、改善点のありかや改善方法などを見出すセンスが身についているはず。それは大きなアドバンテージになります。

すごい経験より大切なのは希少性

「エクセルを使った顧客データの管理・分析・活用なんて、誰でも当たり前にやっていることだし、そんなことが強みになるの?」と感じた人も多いかもしれません。


しかし、独立で強みになるのは「すごい経験」ではありません。何億円の売り上げを上げたとか、会社全体の人事制度改革のリーダーを務めたといった派手な実績は必要ないのです。むしろその手法を独立したあとの顧客候補企業で応用できないなら、派手な実績に意味はありません。

大切なのは、もといた企業においては「普通の経験」にすぎなくても、それがピンポイントでこれからターゲットとする顧客のニーズに嵌(は)まるかどうかということです。勤めていた企業にとっての当たり前が、ほかの企業にとっても当たり前だとは限りません。「そんなやり方があったのか!」という発見につながることが多々あります。