撮影当時は16歳だった!蒔田彩珠

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 河瀬直美監督の最新作『朝が来る』(公開中)で、子供を身ごもってしまった少女の苦悩と葛藤の日々をリアルに演じた女優の蒔田彩珠(18)。8年前、ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」で今も師と仰ぐ是枝裕和監督と出会い、以降、同監督の作品をはじめ、さまざまな映画・ドラマで演技を磨き、2018年には『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で共演の南沙良とともに報知映画賞新人賞、高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞するなど、若手演技派女優として着実にキャリアを積み重ねてきた。そして今回、名匠・河瀬監督のもとで「さらに成長できたと思います」と声を弾ませる蒔田が、これまでの歩みを振り返るとともに、撮影当時16歳だった本作への並々ならぬ思い、女優としての心構えについて思いの丈を語った。

 カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌ2020」に選出された本作は、『あん』『光』などの河瀬監督が、直木賞作家・辻村深月の同名ベストセラー小説を映画化した社会派ドラマ 。特別養子縁組で男児を家族に迎えた栗原佐都子(永作博美)と夫の清和(井浦新)は、朝斗と名付けた息子の成長を見守りながら平穏な毎日を過ごしていた。だが、ある日突然、栗原夫妻のもとに、14歳で妊娠・出産を経験した朝斗の産みの親・片倉ひかり(蒔田)を名乗る謎の女から「子供を返してほしい」という電話がかかってくる。

■“役を積む”ことで学んだ新たな世界

 1日で読み終えるほど原作の面白さに没頭し、「この役は誰にも渡したくない」という強い意志のもと、オーディションに臨んだという蒔田。「ひかりと自分は似ている部分があると思いましたし、彼女に起こったことは、誰にでも起こり得ることだと思います。そういった意味では、ひかりはとてもリアルな存在でした。あとは、河瀬監督だから、とことん役に没頭できると思いました」と当時の思いを振り返る。

 河瀬監督といえば、“役を積む”という独自の演出方法で、どこまでもリアリティーを追求することで知られている。役者はリアルな状況で登場人物と同じ体験をし、その人物になっていくという“積み上げ”が要求されるのだ。もちろん撮影は順撮りで行われ、中学時代にひかりが過ごした奈良のシーンからスタートした。「一軒家をお借りして、家族を演じる皆さんと本番の日まで普通に生活し、地元の中学校にも通わせていただき、授業を受けたり、卓球部の部活に参加したり、友達と遊んだり、ひかりとして生きました。出産する広島の施設でも同じように皆さんと過ごし、横浜のパートでは、実際に新聞配達もやらせていただきました」

 約3か月間、ひかりとして生活した蒔田は、 “役を作る”のではなく“役を積む”という意味を全身で実感していた。「今まで経験したことのない感覚でしたね。ひかりのまま撮影に臨んだので、お芝居している感覚が全くなくて、演じることが難しいということはあまり思いませんでした。ただ、苦悩に満ちたひかりの物語を生きなければならなかったので、心がずっと苦しかったです」。役者としては最高の環境が用意されているようにも思えるが、あの壮絶な半生をリアルに体感した蒔田のメンタルに改めて驚かされる。

■信条は、役に対して「雑」にならないこと

 今や次世代を担う若手実力派女優の一人として注目される蒔田だが、この世界を目指した理由は、意外にも素朴なものだった。「兄が子役でCMのお仕事を先に始めたんですが、テレビに映っている姿を見て、『わたしもテレビに出たい!』と思ったのがきっかけでした。7歳で子役デビューして、10歳のときに出演させていただいた『ゴーイング マイ ホーム』が大きな転機になりました。是枝監督の現場で初めてお芝居をすることが『楽しい!』って心から思えて……。そこで全てが決まりました。よし、女優さんになるぞって」

 その後も、脇役ではあるが、映画『海よりもまだ深く』『三度目の殺人』『万引き家族』など、是枝作品に次々と出演。「今回、河瀬監督の作品に出演することが決定したときも、『決まったよ!』って報告したら、『大丈夫、がんばれ!』って励ましてくれました。もう、わたしにとってはお父さんみたいな存在ですね」と嬉しそうに笑顔を見せる。

 名監督との出会いも、実力派女優には欠かせない要素の一つだが、そういった意味では、このタイミングで河瀬監督の作品に出演できたことも、大きなターニングポイントになったのではないだろうか。「河瀬監督が『こうしてほしい』という思いとわたしの思いが一致していたので、何かをさせられているという感覚は全くなかったです。役を生きることはもとより、どんな役にもいろんな過去や背景があることを『しっかり考え抜く』ということを改めて学ばせていただきました」

 河瀬監督の胸を借りて、また一つ成長を遂げた蒔田。演じることにますます貪欲さを見せながらも、より真摯(しんし)であることを肝に銘じる。「演じる上で、役に対して『雑にならない』こと。アバウトな捉え方ではなく、その人物の性格を深く考えたり、過去の出来事や周囲の人との関係性を考えたり、とにかく丁寧に役に取り組んでいきたいですね」。では、キラキラの青春映画のヒロイン役が舞い込んできたら? 「わたしにとってはまさに挑戦です(笑)。でも、いつかそういう役が来るかもしれないので、そのときは頑張りたいです!」と目を輝かせていた。(取材・文:坂田正樹)