DCMホールディングスによる島忠の買収に待ったをかけたニトリ(左写真は記者撮影、右写真の撮影は尾形文繁)

ホームセンター業界の再編に家具の盟主が「待った」――。

国内家具最大手のニトリホールディングスが、ホームセンターと家具店を展開する島忠に対し、TOB(株式公開買い付け)での買収を検討していることが明らかになった。

島忠をめぐっては、ホームセンター業界2位のDCMホールディングスが完全子会社化に向けて10月5日から11月16日までの予定でTOBを実施中だ。そこにニトリが割り込んでTOBを提案すれば、島忠をめぐる争奪戦という異例の事態へと発展する。

友好的TOBが一転、争奪戦に

ニトリによる島忠のTOBに関する報道が駆けめぐった10月21日朝。両社はほぼ同じタイミングでコメントを発表した。ニトリは「島忠も含め、M&Aを通じた成長の可能性を日々検討している」と含みを持たせたが、島忠は「具体的な提案は受領していない」とコメントした。

関係者は「不確定要素はあるが、交渉を進めているのは事実。当然ニトリはDCMよりも高い価格を提示するから、DCMがどこまで応戦できるか次第だ」と明かす。

DCMが島忠のTOBを発表したのは10月2日のことだった。会見で島忠の岡野恭明社長は「DCMの完全子会社になるが、両社はどちらが上も下もなく対等の精神による経営統合」と語り、両社同意の下での友好的TOBであることを強調していた。

業界7位の島忠の買収をDCMが決めた背景には、ホームセンター業界で活発化する再編の動きがあった。ホームセンターの市場規模は20年前から4兆円前後で推移する一方、店舗数は増え続けており、各社は生き残りをかけて規模拡大などを進めてきた。

業界3位のコーナン商事は2019年にプロ用建材資材卸の建デポをLIXILから買収し、2020年2月には関東地盤のドイトをドン・キホーテの親会社から事業買収。2020年6月には業界11位のアークランドサカモトが、同6位のLIXILビバを買収すると発表した。

こうした一連の動きにDCMも影響され、島忠との経営統合を持ちかけた。両社は統合によりプライベートブランド(PB)商品の開発などを強化する方針を掲げた。さらにDCMは2019年度にカインズへと明け渡した売上高業界首位の座も、島忠の買収で奪還する算段だった。

しかし、ニトリの参戦によって、これらの構想は根底から崩れることになりかねない。

ニトリは1967年に似鳥昭雄・現会長が北海道で創業。1990年代半ばに本州進出を果たして以降、一気に家具業界で圧倒的首位へ登り詰めた。だが、意外にも「小売り企業のM&Aは過去にない」(同社広報)という。

島忠買収で売上高1兆円達成も

ニトリはこれまで、2000年に家具製造のマルミツ、2011年にカーテンの仕入れや製造を手がけるホーム・デコなどを連結子会社化したほか、2017年に中古住宅リフォームのカチタスの株式を34%取得している。製造機能の増強を主眼としたM&Aには積極的だった一方、販売面では「ニトリ」やインテリア雑貨の「デコホーム」、アパレルの「N+」などの業態はいずれも一から自社で開発し、店舗網を広げていった。


DCMホールディングスによる島忠買収を発表したDCMHDの石黒靖規社長(右)と島忠の岡野恭明社長(左、記者撮影)

とはいえ、今後の事業拡大の方向性を考えれば、ニトリがこのタイミングで小売り企業買収に打って出ることは不思議ではない。同社は従来、2022年に1000店・売上高1兆円、2032年に3000店・売上高3兆円の中期目標を掲げてきた。

しかし、2021年2月期の会社予想では666店、売上高7026億円(2020年2月期は607店、売上高6422億円)にとどまる。主力の国内既存店の販売は好調だが、拡大をもくろんだ中国で人材育成などが追いつかず事業を立て直し中であることや、国内の新規出店余地が限られてきたことが、目標に対して成長ペースが追いついていない背景にある。もし島忠(2020年8月期の店舗数60店、売上高1535億円)を傘下に収めることができれば、2022年中に売上高1兆円の達成も射程圏に入ってくる。

島忠買収の果実として数値目標の達成以上に魅力的なのが、首都圏の店舗網を一気に手中に収められることだ。島忠の店舗の9割超は東京・神奈川・埼玉・千葉に集中し、自社物件も多数保有する。

有価証券報告書によると、島忠は2019年8月末時点で埼玉・東京・神奈川などに、総資産の4割に相当する954億円の土地を有する。別の家具小売店の中堅社員は「島忠は都市部の利便性が高い、希少な立地に駐車場を併設した大型店を複数構えている。その店の屋号がニトリに変わっても違和感はあまりない」と語る。

地方のロードサイドに大量出店してきたニトリだが、この数年は家具・生活雑貨の購買需要が大きいニューファミリー層や若者が多く住む首都圏での出店を加速している。ただ、地方と比べ、都市部での出店は高額な賃料や物件取得費が店舗の収益性を高める上でネックとなっていた。島忠の保有する首都圏の店舗が手に入れば、出店候補地の確保に向けて家主や地主と交渉する手間や時間も省ける。

「割安な買収」がニトリを触発

島忠に目を付けた裏には、ニトリの経営陣がホームセンターのビジネスモデルを熟知している事情もあるだろう。似鳥会長は2016年からホームセンター3位のコーナン商事の社外取締役を務めている。さらに長年、ニトリの店舗開発を主導してきた須藤文弘副社長はもともと島忠出身で、島忠関西の代表取締役を務めた経歴を持つ。ニトリにとって家具事業とのシナジーを模索するうえでもホームセンターは未知の業態ではまったくないのだ。


ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は「数年前から投資の準備はしてきた」と話す(記者撮影)

ニトリは不況時こそ投資を拡大させる経営でも有名だ。同社の2020年8月末時点の自己資本比率は81.6%、現預金は2330億円と5年前比で6倍超に積み上がり、投資余力は十分だ。

似鳥会長は2019年7月の決算会見で「淘汰時代が始まればチャンス。数年前から投資の準備はしてきた」と発言。さらに10月2日に開かれた決算会見でも「コロナを契機に業界でも良いところと悪いところが分かれ、寡占化の時代に入ってきた」と強調していた。コロナ禍の今こそ、家具業界にとどまらず小売市場全体でのシェアを一段と高める「攻め時」とみているわけだ。

ただ、気になるのは島忠買収へ本格的な検討に入ったタイミングだ。ニトリはDCMがすでにTOBを実施しているさなかに交渉を進めているもようだが、それはDCMが提示した島忠の買収価格が影響している。

DCMと島忠が急接近したのはコロナ禍の5月中旬。目的は「意見交換」(DCMの石黒社長)だったが、6月には本格的な買収交渉へと移行した。しかしTOB価格が折り合わず、1株3800円から始まった価格交渉は最終的にTOBに関する報道の出る直前の株価(9月18日終値)に45.93%のプレミアムをつけた4200円で合意に至った。

会見でDCMの石黒靖規社長は「完全子会社化を前提としたTOBなら(1株4200円は市場から)評価してもらえると認識している」と語ったが、このTOB価格では買収額は最大1630億円となる。それ対し、島忠は純資産が1815億円あるため、負ののれんが約200億円発生する計算だ。

7月にアークランドサカモトに買収されたLIXILビバの場合、買収額は1100億円で、のれんは約420億円だった。こうした事情に加え、前述の帳簿価額で954億円にのぼる土地の含み益なども考慮すれば、純資産と比べて十分に高い買収価格をつけたLIXILビバのケースと比べ、島忠の買収価格は安すぎるというわけだ。

そして10月に公表されたDCMの島忠買収価格が、「自分たちなら、より高値で島忠を買える」とニトリの背中を後押しした側面はあるだろう。

旧村上ファンド系も「割安」と指摘

島忠の業績は数年前から店舗販売の不振で頭打ちだったが、強固な財務基盤を源泉とした積極的な株主還元が多くの投資家達を引きつけてきた。特に外国人投資家や機関投資家など「モノ言う株主」が多く、村上世彰氏が実質支配する投資会社・シティインデックスイレブンスもその1社だ。

同社は10月21日、島忠株を8.38%保有していることを明らかにし、島忠に対して「公開買い付け価格が会社の本来価値と比べて割安ではないか」「なぜ買い手を広く募らなかったのか」などとただす書簡を10月14日付で送っていたことも公表した。

東洋経済の取材に応じた村上氏は書簡を送った意図について、「会社を売却すると決めた以上、(島忠の)取締役会はベストプライスを追求する責務がある」と指摘。ニトリが名乗り出る可能性があることに関しては、「同業での買収合戦が起きるのは良いこと。大きくて強い会社が残ることが日本経済にとっても望ましい」と述べた。

一連の報道を受け、島忠の株価は22日終値で4810円まで上昇しており、DCMはTOB価格(4200円)を引き上げなければ買収成立は難しいだろう。とはいえニトリも法外な買収価格では、物流拠点の再整備など従来計画していた投資を見直す必要性が出てしまうため、価格設定の見極めが難しいところだ。

「お値段以上」の買い物ができるのはDCMか、それともニトリか。島忠の行方に市場関係者の大きな注目が集まっている。