1年で一番過ごしやすいとも言えるこの季節、積極的に出かけたいのはやまやまだが、例年どおり出歩くわけにもいかず、自ずと足が向くのは映画館だ。緊急事態宣言が発令されてから劇場通いができなかった約2ヵ月間を取り返すべく、新作をチェックしているが、今年も洋邦問わず良作が多く、映画ファンとしては嬉しい限り。

折しも、『鬼滅の刃』劇場版の公開が始まったばかりで、家族連れで鑑賞してきたという人も多いかと思うが、同じくシネコンでひっそりと上映されている『星の子』を私からはオススメしておきたい。

映画『星の子』公式サイト
https://hoshi-no-ko.jp/

天才子役として名を馳せたものの、長らく学業に専念していたため、芦田愛菜さんが6年ぶりに実写映画主演という最初の触れ込みの時点では「へ〜」という感じだったのだが、《新興宗教に傾倒する両親のもとに育った少女》という設定を聞いた瞬間、俄然興味を持ってしまった。

思春期に、某新興宗教団体による事件が相次ぎ、関連するニュースやドキュメンタリーなどをフィクション、ノンフィクション問わず見すぎてしまった名残なのか、カルト教団が出てくる映画やドラマなどのエンタメ作品に割と目がない。

元々ホラー映画好きというのもあるけれど、恐いもの見たさや好奇心もあるし、得体のしれないものに対しての畏怖もある。見終わったあとちょっと落ち込むかな?という想いもあったのだが、期待していたグロテスクさやおどろおどろしさよりも、安心や腹落ち感がより濃厚に残る、予想以上の超良作だった。


未熟児で生まれ、病弱だった主人公・ちひろ(芦田愛菜)に両親が四苦八苦するシーンで物語は始まる。
顔は湿疹だらけで痛々しく、何をしても泣き止まない赤ちゃんを前に途方に暮れてしまった父(永瀬正敏)と母(原田知世)が手にしたのは、特別な効能があるという「金星のめぐみ」という水だった。

その水を患部にあてると湿疹がみるみるうちに引いていき、笑顔を見せるちひろに歓喜する両親が、「金星のめぐみ」のほかにも宇宙のパワーを持つ商品を手がける宗教団体「ひかりの星」の熱心な信者になる様を描いたオープニングは白眉だ。

まだ口もきけない赤ちゃんが、どこかしら体の調子がつらくて泣き続けていたら、すがるものを求めるのは親心として至極当然のこと。そりゃ「何としてでも治してあげたい」と願うでしょうよ……!

たとえば医者にかかっても、食事療法を試しても、メディアで話題になっている健康法を取り入れてみてもダメで絶望しているところに、もし一抹の希望があるとしたら?

「それ、新興宗教が出してるやつでしょ、怪しいじゃん」と判断をくだせるほどに冷静でいられるかどうか。痛いところを突かれるとかよく言ったもので、ゾクっとすると同時に「ああ、絶対この作品好きだわ」と確信するほどに完全に私の心は掴まれてしまった。

正直に言ってしまうと、このテの作品に対する関心は、根底に偏見と下世話な野次馬精神がある。だから、ちひろが両親から折檻を受けていても、同級生からいじめにあっていてもショックは受けないだろうと踏んでいた。

だって今まで見てきたカルト関連の作品のほとんどは、それに準じる描写があったし、本作品も似たようなものじゃないかという気がしていたからだ。しかし、両親はちひろのことをとても大事にしているし、ちひろも両親のことが大好きで、抑圧されている様子はない。

世俗と切り離されているのかと思えば、全然そんなことはなくて、学校にも毎日通っているし、奇異の目に晒されているわけでもない。「金星のめぐみ」のペットポトルを堂々と机の上に出して、授業中も水分補給している。何より歴代好きになってきたのはイケメンばかりという、どちらかというとミーハーな普通の15歳の女の子だ。

かといって、何の問題もなくすべてがうまく機能しているわけではない。少し年が離れた姉のまーちゃん(蒔田彩珠)は、その宗教が原因で傷つけられ親と不仲になっているし、両親も相当お布施に次ぎこんだようで、ちひろの日常生活にも綻びが見え隠れしている。

親戚ともひと悶着あったのだろう、雄三おじさん(大友康平)の言動が一番真っ当だし、怪しげな宗教にハマっている人に目を覚ましてもらいたいというのは常識人の正論だろう。ただ、執拗に勧誘してくるとか、加害性を持つわけでもない、しかもそこに幸せを見出している人に「現実を見ろ」と迫っても、暖簾に腕押しなのだろうとも思う。

あまりにも月並みな言い方ですごく陳腐になってしまうのだけど、家族や親子のことって当人にしか分からないものだからね、と納得すると同時にモヤモヤしてしまう部分だ。

似たような経験がある人にとっては、グサっとくるであろう展開もあるし、終始息苦しさも感じるのだけれど、一番惹きつけられたのは幼馴染のなべちゃんと、その彼氏の新村くんの関係性がもたらす心地よさだ。

この年頃の男女差ってこんな感じだったっけなあ、と遠い昔を思い出す(結局思い出せなかったけど)のだけど、なべちゃんは現代っ子らしくクールで大人びていて、新村くんは若干幼い。

だけど、二人に共通するのは、ちひろに対して程よくデリカシーがなくて、ずけずけと物を言うところだ。「その水高いんでしょ?」とか「騙されてるかもよ?」とは言うものの、ちひろのことを必要以上に色眼鏡で見たりはしないし、腫れ物に触るような扱いもしない。

多様性について語るとき、たとえばジェンダーや人種、政治的信条が異なる相手に対しても、真っ向から否定するのではなく、違いを受け入れましょうというのは、ある程度浸透してきたようにも思う。

たとえそれが新興宗教だったとしても、信仰が異なる相手の人格を否定せず、フラットに付き合うちひろの友人たちはすごくアップデートされた価値観が自然に身についていて、もしかして令和的ってこういうことなのかもしれないなと目からウロコが落ちたのだ。配慮や思いやりだけが人を救うわけじゃなくて、適度な無関心と無神経も必要だよね、と腑に落ちる感覚があった。

とはいうものの、「ひかりの星」に関する描写はハッキリ言ってどれも怖い。
ちひろの両親が日々捧げる儀式も不気味だし、他の信者と交流する様子や、団体の幹部が放つオーラからも狂気をひしひしと感じる。中盤以降は、どうかちひろが傷つかないでほしい、とハラハラしてお腹が痛くなってしまったが、エンドロールが流れた瞬間、私が見ていたのはとてもやさしい世界だったのかも、と物語の本質に気付いた気がした。

激しく感情を表出するとか、物語に大きなうねりを生み出すわけではない、芦田愛菜さんの控えめな演技には逆に貫禄を感じたし、若手俳優からベテラン勢まで、脇を固める役者陣もみな素晴らしい。ちひろもまーちゃんも、なべちゃんも新村くんも、誰もが居心地の良い日々を過ごしているといいな、とすべての登場人物を愛おしく思い返している。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。