年収800万円と聞くと、裕福な暮らしを送っているイメージを持たれる人も多いのではないでしょうか。

確かに十分な手取り額があり、生活は裕福とはいえ、高収入だからこそ高額な税負担を抱えることになります。

さらに、2018年の税制改正で、年収850万円以上の会社員は、実質的な増税になりました。そのため、年収800万円を超えた場合、節税対策を意識しておくといいでしょう。

本記事では、年収800万円の人の生活スタイルや税金事情のほか、会社員でもできる節税対策をご紹介します。

年収800万円の人はどのような生活を送っている?


給与所得者の10人に1人が年収800万円以上

国税庁「民間給与実態統計調査」(2018年)によると、年収800万円以上の人は487万人で、全体の9.8% です。給与所得者の10人に1人が年収800万円以上という結果になります。

また、同調査によると、2018年の平均年収は441万円です。平均年収のおよそ倍近くの年収800万円であれば、豊かな暮らしぶりになるだろうと予測できます。

○年収800万円以上はどのくらいいる?

年収800万円以上の割合を見ると、年収800万円台は2.9% 、年収900万円台は1.9% です。年収1,000万超の人は全体の6.9% になります(※1)。高額な年収を稼ぐ人はいるけれど、やはり、年収の金額が上がるにつれてその割合が減ることから、高収入を得ることは難しいことがわかります。

○知らないと損をする? 年収800万円の人の手取り額と税金事情

一般的な会社員は、給料から所得税などの税金や社会保険料などが控除されて手取り額が決まります。住民税は一律で10% ですが、所得税は累進課税のため、年収が高いほど課税率が上がります。

○年収800万円の人の手取り額は?

年収800万円で独身の場合、手取り額は税金や社会保険料を控除すると約589万円。賞与の額は会社にもよりますが、ここでは年間賞与を手取り約70万円で計算すると、月収で約43万2,000円です。扶養家族がいる場合は、配偶者控除や扶養控除が適用されますので、月の手取り額はやや上がります。

年収800万円と900万円では、所得税課税額に大きな差が出る?

日本の所得税は累進課税制度をとっているため、所得額が上がるほど段階的に税率は高くなります。所得税の税率は、5〜45% の7段階に区分されています。

例えば、課税所得のうち1,000円超194万9,000円以下の部分の税率は5% 、195万円超329万9,000円以下の部分の税率は10% 、330万円超694万9,000円以下の部分の税率は20% 、695万円超899万9,000円以下の部分の税率は23% となります。

なお、課税所得は年収の額面ではなく、所得控除などを計算した上で求められます。

所得税額は、下記の「所得税の速算表」を使っても計算することが可能です。控除額とは、所得税を簡単に算出するために使用するもので、「課税所得×税率-控除額」で所得税額を算出できます。

■所得税の速算表(※2)

収入が上がるほど、段階的に税率は上がっていきますので、年収800万円と年収900万円では税率の面では負担額の差がやや大きくなります。

収入の増加と同時に、税負担も増えます


年収800万円の貯蓄事情と生活スタイルは?

高収入に分類される年収800万円ですが、その生活スタイルは独身と子供がいる家庭では大きく変わります。それでは、具体的に独身の場合と既婚の場合の貯蓄額や、生活スタイルについて見ていきましょう。

○貯蓄は毎月どのくらいしている?

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」(2019年)によると、年収800万円の23.1% の人が毎月6万6,666〜9万9,333円を貯蓄へ回していることがわかりました。

次いで17.9% の人が貯蓄しなかったと回答しており、年収を使いきっている人も多いという結果です。3番目に多かった16.7% の人は、毎月5万3,333円〜6万6,000円を貯蓄しています。(※3)

理想の貯金額は手取り収入の10〜20% といわれていますので、さすがに年収800万円の人はしっかりと貯金できている人が多いようです。

○独身と子供がいる家庭の生活水準の違いは?

平均年収の倍近くある年収800万円であれば、独身の場合はかなり余裕のある生活を送れるだろうと予想できます。毎月の手取り額43万2,000円想定で、1ヵ月の生活費のモデルケースを見てみましょう(※4)。

<独身の生活費の内訳例>

家賃 : 12万円

食費 : 5万円

水道光熱費 : 1万5,000円

通信費 : 1万3,000円

交際費 : 5万円

日用品代 : 1万5,000円

保険料 : 1万5,000円

貯金 : 10万円

その他 : 5万4,000円

趣味や娯楽、交際費にお金をかけても、大きな無駄遣いをしなければ、年間120万円の貯蓄が可能です。

一方、子供が2人いる家庭の場合の、1ヵ月の生活費のモデルケースを見てみましょう。扶養する家族がいる場合、扶養控除や配偶者控除があり、手取り額はやや多くなります。ここでは、生活水準の比較をするため、独身の場合と同じく手取り額を約43万2,000円として内訳を考えます。

<4人家族の生活費の内訳例(子供が小学生で想定)>

住宅ローン : 12万円

食費 : 8万円

水道光熱費 : 2万1,000円

通信費 : 1万5,000円

交際費 : 2万円

日用品代 : 1万3,000円

教育費 : 4万円

保険料 : 1万7,000円

貯金 : 7万6,000円

その他 : 3万円

年収800万円稼ぐ人の平均年齢は、47.7歳です。その場合、小学生以上の子供を持つ場合が多いため、教育費にお金がかかってきます。

また、その年齢になると、賃貸ではなく持ち家の割合が増えますので、住宅ローンや修繕費の積み立ても必要になります。教育費の比重が増えていくため、交際費などは年収600万円の頃とそれほど変わらないことも多いようです。

年収800万円の貯蓄事情と生活スタイルについて紹介しました


年収800万円に達したら節税対策を意識しよう

2018年の税制改正により、2020年4月以降は、年収850万円以上の人の所得税が増税されました。そのため、年収800万円を超えたら、節税対策を意識して備えておくことをおすすめします。

控除の申請や非課税の制度を賢く活用すれば、手取り額を増やすことが可能です。

○知っておくべき節税対策の方法

会社員の場合は、給料から税金と社会保険料が控除されて、会社から市区町村や年金事務所に納められています。そのため、自分で納税している意識が希薄となり、節税対策と聞いてもピンとこないかもしれませんが、会社員でもできる節税対策はいろいろあります。

確定申告や書類の作成が必要になるなど手間がかかりますが、申告しなければ減税されませんから、各種控除の手続きをチェックして、上手に活用しましょう。

・ふるさと納税(寄付金控除)

ふるさと納税は、全国各地の自治体から寄付先を選んで寄付した後、確定申告またはワンストップ特例制度の手続きを行うことで、寄付金控除が受けられる制度です。控除上限額内の2,000円を超える分は、所得税と住民税の控除が受けられます。

・生命保険控除、地震保険控除

生命保険料や地震保険料を支払っている場合は、所得から一定額の控除が受けられます。会社員であれば、どちらも年末調整時に保険会社から送られてくる証明書と「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記載し、会社に提出することで手続きが行えます。個人事業主や自営業、年金生活者の人は各自で確定申告が必要です。

・住宅ローン減税制度

住宅ローン減税制度は、住宅ローンを組んで自宅を新築および購入した人が、10年間(2019年10月〜2020年12月に購入した方は13年間)受けられる減税措置です。会社員の場合は、購入した最初の年に確定申告を行い、翌年以降は会社に必要書類を提出すれば年末調整で手続きができます。

・医療費控除

医療費控除は、1月1日から12月31日までの年間で支払った医療費が、一定額を超えた場合に手続きすると控除が受けられる制度です。医療費控除の限度額は200万円までで、「1年間に支払った医療費-保険などの各種補填金-10万円」分の額が所得控除されます。医療費控除は会社の年末調整では行われないので、各自で確定申告をする必要があります。

・雑損控除

雑損控除は、自然災害や盗難の被害に遭ったとき、所定の金額を所得控除できる制度です。各自で確定申告が必要となります。災害関連での支出の場合は、申告書に支出金額を証明する書類や領収書、給料所得がある場合は給料所得の源泉徴収票の原本も必要ですので用意しておきましょう。

・災害減免法による所得税の軽減免除

災害減免額は、災害で住宅や家財の時価2分の1以上の損失があり、災害に遭った年の所得金額の合計が1,000万円以下の場合、その年の所得税が軽減、または免除されるというものです。確定申告時に損失額の明細書を作成して提出します。

・扶養控除

扶養控除は、配偶者や子供や両親を扶養している場合、所得税と住民税を軽減できる制度です。控除額は38万〜63万円の幅があり、扶養者の年齢や収入状況などによって控除額が異なります。例えば、夫婦共働きの子供の場合、15歳以下の子供には控除がないためどちらの扶養でも構いませんが、16歳以上の場合は収入が高いほうの扶養に入れるといいでしょう。

・iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、自分で行う、自分のための年金の積立制度です。掛け金、運用益、給付の受取時に所得控除があり、税金が安くなります。運用益に税金がかからないこともメリットです。

・つみたてNISA

つみたてNISAは、長期の積立・分散投資を支援するための非課税制度です。毎年40万円まで投資が可能で、最長20年、投資から得た利益に税金がかかりません。証券会社では100円以上、銀行では1,000円以上からという設定が多く、少額から毎月投資が可能です。

・財形貯蓄

財形貯蓄とは、給料天引きでお金を積み立てる制度です。ただし、勤め先の会社が財形貯蓄制度を導入していない場合は利用できません。財形貯蓄制度には、お金の使用目的が異なる「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類があります。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄を合わせて、元金550万円までの利子にかかる税金が非課税になります。

財形年金貯蓄は、年金の支払い終了まで非課税措置が継続されますので、老後が安定するでしょう。

年収800万円を超えたら国の制度を活用して節税

年収800万円は、毎月安定した貯蓄を行うことができ、豊かな生活を送れますが、税負担は大きくなります。

国の制度をうまく活用することで、所得税や住民税の控除や還付を受けられるため、節税対策を行うことが大切です。手取り額を増やすためにも、年収800万円を超えたら、早めに節税対策を意識しましょう。