もう一度乗りたい!良くも悪くもイタリア車のスゴさを痛感したアルファロメオ「155」

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先進技術を搭載した新型車が続々と誕生する一方、ここへきて1980年代後半から’90年代にかけて発売された中古車の人気も高まっています。本企画では、そんな人気のヤングタイマーの中から、モータージャーナリストの岡崎五朗さんがもう一度乗りたい、記憶に残る旧車の魅力を解き明かしていきます。

今回採り上げるのは、イタリアの名門・アルファロメオが1992年に世に送り出した「155」。奇抜なスタイリングを持つ個性派ながら、モータースポーツの世界でも大活躍した、走りのいいFFミドルセダンでした。

■カッコ良く見え始めた“きっかけ”はDTMマシン

ーー今回フォーカスするのは、かつて岡崎家のガレージにも収まっていたアルファロメオの155です。

岡崎:155はウチの親父が買ったんだけど、結構、運転させてもらった思い出深いクルマだね。

ーー155の魅力といえば、やはりデザインでしょうか? パッと見ただけでは、違和感を覚える風変わりなルックスでしたよね。

岡崎:確かに、初めて見た時は「このクルマは一体なんだ!?」と感じたね。

世の中には、“大人の飲み物”とか“大人の食べ物”、そして“大人の嗜好品”などと呼ばれるものがある。例えば、子どもはコーヒーを飲むと「苦い!」と感じるから、ミルクや砂糖を入れ、苦みを抑えたコーヒー牛乳にしてあげる。でもそのうち「やはりコーヒーはブラックが美味いな」ということになり、さらには「浅煎りの酸味が好きだ」とか「深煎りの苦味が好きなんだよね」と語れるようになっていく。成長するに連れ、味覚というものが変わっていくんだね。逆に口当たりがいいものは、舌の肥えた大人にはちょっと物足りなくなっていく。

同様に155は、クルマに対する経験値が増え、あの違和感を乗り越えられるようになると、がぜん魅力的に思えてくる存在。見慣れると「めちゃくちゃカッコいいじゃん!」と感じられるクルマだったね。

ーー155がカッコ良く見え始めた“きっかけ”みたいなものはありましたか?

岡崎:なんといっても、DTM(ドイツツーリングカー選手権)の参戦マシンだろうね。オーバーフェンダーが大きく張り出したあのマシンを見て、「あ、155ってカッコいいかも」と思ったんだ。そしてその後、ウチにある普通の155を見続けているうちに、どんどん好きになっていった感じだね。

実は155のデザインについては、面白い逸話があるんだ。あるモータージャーナリストが155を初めて見た時に感想を求められ、答えに困っていたら、デザイナーがひと言「君のその疑問は時間が解決してくれる」と返したんだって。すごい話だよね(笑)。

つまり155のデザインは、世に出た時が最も旬というわけではなく、人々が徐々にカッコ良く感じられるよう、あらかじめ計算されていたようなんだ。

ーーモデルライフ全体を俯瞰してのデザインというわけですか。

岡崎:最近のクルマでいうと、「マツダ3」のリアフェンダーにも同様の意図が感じられる。ひと目見ただけでは違和感を覚えるけれど、それが心のどこかで引っかかりとなり、見慣れるに連れて違和感が魅力へと変わっていく。155やマツダ3は、あえてそういうデザインにチャレンジしたんだ。逆にいうと、155やマツダ3をカッコいいと感じられる人は、クルマのデザインに対して舌が肥えているといえるかもね。

■スポルティーバのルックスにスーパーの足回りがベスト

ーーデザインはとても印象的だった155ですが、乗り味はいかがでしたか?

岡崎:ウチにあったのはマイナーチェンジ(1995年)後のモデル。2リッター4気筒の“ツインスパーク”エンジンに5速MTを組み合わせた、ラグジュアリーな仕立ての「スーパー」というグレードだった。タイヤとホイールのサイズは15インチと、あまり“頑張った”仕様ではなかったから、ものすごく乗り心地が良かったのを覚えている。サスペンションがきちんとストロークして、とても滑らかな乗り味だったんだ。

それと、シフトフィールが絶品だった。次のギヤへと吸い込まれるかのようなスムーズさを持ちながら、節度感もしっかりあるというMTの理想形だったね。仲のいいモータージャーナリストの言葉を借りるなら「機械との対話を楽しめるフィーリング」といった感じ。手に伝わってくる感触を頼りに、シフトレバーに掛ける力などを加減しながら変速していくという、まさにクルマとのやり取りを楽しめるものだったね。

ーースポーティなクルマというと、シフトストロークが短く詰められているものが多いのですが、155は決してそうではありませんでした。

岡崎:そうそう、むしろストロークは長いくらい。それと、155のスーパーはシフトノブがウッド製だったんだけど、そうしたMTの特性に合わせ、ノブの重さが吟味されていたように思う。カー用品店などで売られている軽いノブに替えたら、あの吸い込まれるような感覚が希薄になるからね。今思えば、155はシフトノブひとつにまで、走りの気持ち良さを追求するためのこだわりが詰まっていたんだ。

新車を買ったらすぐに、ショックアブソーバーやホイール、シフトノブなどを自分好みに替えないと気が済まないという人も多い。確かにそれもアリなんだけど、アルファロメオやBMWといった走りの“味”をウリにしているメーカーのクルマは、まずしばらくオリジナルのままで乗って、その良さを味わってもらいたいな。それくらい、走りへのこだわりが随所に詰まっているからね。

ーーDTMでのイメージが強かったせいか、その後、ラグジュアリーな155のスーパーは販売面で苦戦。日本でも1996年に、2リッターのツインスパーク搭載車、2.5リッターのV6エンジン搭載車、2リッターターボに4WDを組み合わせた「Q4」の3モデルすべてが、DTMマシンを想起させる仕立ての「スポルティーバ」仕様となります。

岡崎:乗り味に関しては、ツインスパークを積むスーパー仕様が断然良かったと思う。16インチのタイヤとホイール、そしてローダウンサスペンションを組み込んだスポルティーバ仕様は乗り心地がとても硬く、特に重いV6エンジン搭載車は明らかにシャーシが負けていたからね。

それに対し、スーパー仕様の足回りは、典型的なイタリア車のそれ。しっかりストロークする分、ロールもするんだけど、上手にタイヤを接地させて気持ち良く曲がっていくセッティングだった。もしも、ルックスはDTMマシンのようなスポルティーバ仕様で、足回りはスーパー仕様の組み合わせがあれば、最高だったんだけどね(苦笑)。

■エアコンの温度センサーが付いてなかった!

ーー155の時代にはだいぶマシにはなっていましたが、それでもまだ、当時のイタリア車というと大なり小なりトラブルが多かったですよね。五朗さんも何か経験されましたか?

岡崎:日本向けの155にはオートエアコンが付いていたんだけど、ウチのは納車された時からその調子が悪かった。暑いなと思って設定温度を20℃くらいまで下げても涼しい風が出て来なくて、一番下の“Lo”まで下げるとようやく涼しい風が出てくるという状態だったんだ。

なので、1カ月点検の際、ディーラーのメカニックさんにチェックを依頼したところ、なんと「温度センサーが付いていませんでした」というじゃない! おまけに修理を依頼すると、今度は「パーツをイタリア本国から取り寄せます」ということになり、結局、1カ月くらいクルマを預けることになってしまった。イタリア車は修理に1カ月かかるから1カ月点検っていうんじゃないかって、親父たちと笑い話にしていたくらいだよ(苦笑)。あと、トランクリッド左右の“チリ”と呼ばれるすき間も、1cmとはいわないけれど、5mm以上は左右で大きさが違っていたね。

ーーだからといって、155が嫌になるってことはなかったんですね。

岡崎:そうした問題って、直そうと思えば直る些細なもの。だから個人的には全く気にならなかったね。けれど、それを嫌だと思う人なら、やはりイタリア車はハードルが高いと感じたんじゃないかな。

155は欠点も多かったけれど、カッコいいデザインと吹け上がりの心地いいエンジン、そして気持ちのいいシフトフィールが備わっていた。おまけに、キャビンやラゲッジスペースが広く、思いのほか“使える”クルマだったね。確かに、当時のイタリア車ってダメなところが多かったけれど、逆にスゴいなぁと感心させられる部分も多かったのが、155というクルマだったね。

コメント/岡崎五朗 文責/上村浩紀

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。