東京・目黒のミシュラン一つ星レストラン「ラッセ」のオーナーシェフ・村山太一氏は、2017年からサイゼリヤ五反田西口店でアルバイトをしている。そのバイト経験はレストランの生産性を劇的に改善させ、コロナ禍でも黒字を達成した。そんな村山氏にサイゼリヤの正垣泰彦会長が伝えたかったこととは--。(第2回/全2回)

※本稿は、村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Pyrosky
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pyrosky

■八百屋とアサリ屋があったからサイゼのメニューが生まれた

【村山】前回お話に出た1号店は、今は「サイゼリヤ1号店教育記念館」になっていますが、何回か行きました。正垣会長の本に書いてあったように、八百屋さんがいまだに玄関を塞いでて、横のほうまで野菜がずらっと並んでるので、面白いなと思いました。

【正垣】八百屋が野菜を並べてるから、店の入口がわからない。だからお客なんて入ってこない。だけどこれ、エネルギーがやってることでしょう?

最高のことが起きてるんだよ。だから八百屋のものでトップ商品つくってやろうと思ったんだよ。それがサラダ。あと、アサリ屋がいるから、アサリでトップ商品をつくってやろうと。これがボンゴレになる。

野菜サラダとボンゴレがどんどん出るものだから、ウチは2階の小さな10何坪の店だから、八百屋とアサリ屋が倉庫になったわけ。夜中になくなったら、鍵開けて入って冷蔵庫を開ける。

もっとすごいことは、ウチの店の下を通る人に、八百屋のあんちゃんとアサリ屋が「ここ美味しいから入ったほうがいい」って客引きしてくれる。だからお客がバンバン来るようになったんです。

■一番大事なことは全部身近にある

【正垣】要するに、今あなたがいる所が最高の場所で、一番大事なのは、嫌なことが起こっても、それって全部いいことなの。それを活かせばいい。アサリと八百屋の持っている野菜。それを活かしたから自然とイタリア料理になっちゃった。

あと一つ、本八幡の一番街でどういう店を出したらみんなが嫌がらないかって言ったら、イタリア料理だったの。焼肉屋も洋食も和食もラーメンも全部あるわけ。だから誰にも文句言われないイタリア料理にしたの。

【村山】なるほど。

【正垣】だから自分で考えることなんてないんだよ。一番大事なことは、全部身近にあるの。これをやればいい。

■コロナ期間中も仕事が楽しかった

【村山】僕もイタリア料理をやり始めたきっかけが、その前はずっと料亭の茶会席だったんですけど、すごいよそ行きの料理だったんです。でもピザを食べたときに、友達同士で食べながら、どんちゃん騒ぎできた。親しみやすさとか、みんなで一つのものをつっつき合いながら食べるっていう。あれにすごい感動した覚えがあって、それでイタリアに行ってみたんです。

村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

【正垣】そういうのも、原因があるわけ。それはあなたの考え方なの。何が大事かって言ったら、考え方を教えること。教えるだけじゃ理屈だから、それで楽しむことを覚えさせればいい。そうしたら必ず幸せになる。エネルギーに逆らわなければ幸せになるから。

不幸になるっていうのは全部自分で不幸になっている。その人を助けるためにビジネスをやっているわけだから。

【村山】今回のサイゼリヤで教わった土台があったからこそ、結構時間ができて、空いた時間でスタッフたちと一緒に、うちのラビオリというスペシャリテのパスタを冷凍にして全国発送したり、テイクアウトをやったりしたらものすごく売れて、お客さんからすごい感謝されるんですよ。

スタッフも楽しくなっちゃって、本当にコロナ期間中ずっと僕ら、4人で本当にゲラゲラしながら料理をつくってました。萎縮した雰囲気は全くなくて、逆に忙しすぎて。今お話を聞いて、そういうことなんだと思いました。

■生産性はビジネスの生存対策

【正垣】ビジネスっていうのは、自分の得意なことで世の中の困っている人を助けようとするよね?

そのときにね、ビジネスをずっと保っていくには生産性なの。生産性っていうのは、生存対策なの。

そのために何をするかって言ったらムダをなくすこと。エネルギーってムダがないから、ムダをなくせばいい。9人でもやってても、4人やってみようか、この料理をつくると4人でできないからやめちゃえ、ってこうやってやるわけだな。

【村山】まさにそうです。

【正垣】それが生産性として表れるわけだろ。その次にね、成長するにはどうしたらいいかって言ったら投資なんですよ。今の店と同じ店を要所要所につくればいいんです。1000店舗をつくる必要はないですよ。そうやって標準化すると、悪い所が見えてくるわけ。

その次に、コロナとかで大不況が来るよね。何やるかっていったら、ゼロベースって言うんだけど、経費を全部ゼロから見直す。どれが必要か、必要じゃないかって。つまり減量なの。

■一番美味しいのは「空気」

【正垣】次、それができて競争になったときに、競争に勝ち残るには商品が美味しくなければダメ。そこで一番大事なのは、生産性を確保すること。コックさんをタダで働かせるような昔の方法だと生存できないです。

【村山】まさにそうなんです。

【正垣】商品は安くて美味しくなきゃダメ。自分の所で原料からお客さんの口に入るまで、一番ムダをなくす方法取らなきゃいけない。

あなたの店は、今の規模だと1軒ずつ出したとしても、たぶん100軒ぐらいはできるよ。同じ形で同じことをやればいい。ただし、あなたと同じ考えに100%近い人を教えていく。それが大事なのよね。

【村山】本当にそう思います。

【正垣】俺はね、一番うまいのは空気だと思ってる。口の中に一番入るから。食っても食っても飽きないでしょ? 繰り返し繰り返し食ってもお腹がいっぱいにならないのは空気だから、これが理想なの。

空気の味に近づけるには、素材の一番いい味を出せばいい。それを出せることが、エネルギーに沿っているわけ。それぶっ壊さないで出すっていうところに、すごさがあるわけだよね。

【村山】まさにそうですね。

サイゼリヤの社長は、誰がなってもいい

【正垣】あなたは人のためにやろうと思っているから、その考え方を料理を通してみんなに知らせていってほしい。自分で成功して、こうやったら上手くいったんだっていうのをみんなに教えられるのはすごく大事だよね。

こうすれば個人企業の人たちは成功できるっていう秘訣を、どんどんどんどん広めていけばいいんじゃないの。それはサイゼリヤの話じゃなくて、人のために何か自分ができることないかっていう、その考え方だよな。成功するよね。サイゼリヤの社長やればいいんじゃない?(笑)

【村山】もう話がいきなりぶっ飛んじゃいましたね(笑)。

【正垣】だからふさわしい人が社長になればいいだけで、それは誰がなってもいいわけ。皆に幸せになってもらうためにやるんだから。

【村山】僕も社長っていう職業って、そういうものだと思っていました。

【正垣】あなたみたいな考えだといろんな人が集まってくるから。自分にはできないことわかっている人もいっぱいいますよ。

人間って、我欲でやっているから。苦しみっていうのは、我欲です。正しいというのは、我欲がないことだから。だから一生懸命、我欲をなくせば簡単に幸せになるのに。それを治すためにビジネスがある。それがわかればいいんだよな。

放っておいても、こうしてくれって自然と目の前に落っこちてくる。それを取りに行かなくても、そうなっちゃう。そういうもんなんだよ人生って。

うまくできてるんだよね、エネルギーでできてるから。俺は努力大嫌いだからな。

【村山】わかります。ただ単に楽しいこと毎週やっていたら、こんなんなっちゃいましたけど。

■頭がクリアな人は偏差値が低い

【正垣】あなたの考えが最高で、それで幸せになったことを人に教える、伝えることができたら、これ以上することはないんですよ。

だからチンケなことを考えないで、みんなを幸せにしてあげようと思って、その考え方をしているわけ。そのエキスが、サイゼリヤの基本理念「人のために、正しく、仲良く」というやつなんだけど。それを教えることによって、いつかその人がふと思い出してくれる。それが大事なの。そのためにビジネスをやってる。

【村山】ありがとうございます。嬉しいです。

【正垣】あなたみたいに人のためにやるとか、見返りのない喜びを知っている人が一番強いんです。頭のいい人はみんなずる賢いからね。

頭がクリアになってる人は偏差値が低いの。ストレートに物事が進んでいくから、わかるんです。

これは大事だよ。ずる賢くないから。これは成功とかじゃなくて、幸せになれるよね。

【村山】毎日そんな感じですよね。

【正垣】だから自分でその通り行動しているんだよね。俺なんか口で言うけどそうでもないんだよ。面倒くさがりやだからやらないだけなんだけど。

■最初から1000店舗やろうと言った

【正垣】あなたの一番いいところは、物事を大きく考えること。人間っていうのは目先のことを考えるだろ? だから自分の我欲が出るの。

自分中心になっちゃうわけ。だけどエネルギーは自分中心じゃないだろ? 私利私欲にならないから、大きいことを考える。

【村山】僕は、2店舗目は月にレストランつくると言っています。

【正垣】みんな、頭おかしいんじゃないかとか言うだろ?

【村山】言われます。

【正垣】俺がね、本八幡駅北口の1店舗目のときに、1000店舗やるって言ったから、誰も信用しない。でも、3店舗やろうとか考えないで、1000店舗やろうって考えた。

【村山】まさにそうですね。

【正垣】大きく物事を考えることが正しいって知ってたの。それしか方法がない。

【村山】根拠なく言ってるんですけれども、実際にJAXAから声がかかって、JAXAの本部で日本初の大規模な食事会をプロデュースさせてもらって。宇宙飛行士の人たちも全員来ていて。今度はISSの国際宇宙ステーションでレストランやろうよって言ってくれて。

写真=iStock.com/julos
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【正垣】それはあなたの考え方で、どうするかだよな。あなたの考え方でそうなるわけだからな。

【村山】だから日本へのテイクアウトはウルトラマンにしてもらおうかなと思っているので(笑)。

■世の中をより良くするために何ができるか?

【正垣】楽しいんだよね。そのことをやって、一番は困ってる人を助けること。熱エネルギーは熱いほうから冷たいほうにしか行かないから、方向が決まってるの。水だって高いほうから低いほうに行くだろう? エネルギーというのは、手をつないでいるときに、困ってる人を助けるためにある。

月でも何でもいいんだけど、目の前に困っている人がいたらその人を助ける。その人を幸せにできる。それが自分たちのエネルギーの資源なの。

【村山】本当にそうです。

【正垣】世の中がどんどん変化していって、より良く変化していくためにどうやって人のためになれるかっていうのも大きく考えられるといいわけ。

俺はもう世界一安くて美味しい本当の料理を出して、お客さんに本当のものを出したい。それも安く出したいっていうのが狙い。

迷ったらまた来たらいいよ。来たらあなたの考えてることはこういうことだって教えてあげる。

【村山】ありがとうございます。

【正垣】ちゃんと原因と結果があるの。物事は全て変化するけど、真理だけは変化しない。簡単だよ。ここまで来たんだから。

【村山】はい。信じてやっちゃいます!

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村山 太一(むらやま・たいち)
「レストラン ラッセ」オーナーシェフ
イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で修行を積み、東京都目黒区に「レストラン・ラッセ」をオープン、9年連続で一ツ星を獲得。しかしレストラン経営に限界を感じ、2017年よりサイゼリヤ五反田西口店にてアルバイトを開始。その様子を伝えるnote『目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。』が26万PVを記録し話題になる。
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(「レストラン ラッセ」オーナーシェフ 村山 太一)