廉価モデルが1億円? ポルシェ「916」は激レア試作モデルだった!!

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市販化が夢と終わってしまったポルシェ「916」

 ポルシェとフォルクスワーゲンが提携し、フォルクスワーゲン車のパーツを流用することで生産コストを抑えつつ、本格的な走りが楽しめるクルマとして開発されたのが、ポルシェ「914」というモデルだ。

 発表されたのは1967年で、1969年から販売が開始されたこの914は、ミッドシップに空冷水平対向4気筒エンジンを搭載していた。ボディが軽量であることからその走りは鋭く、販売価格の安さもあり、ヒット作となった。

開発のために製作された試作車の10台のみといわれているポルシェ「916」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

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 当初は1.7リッターエンジンを搭載していたが、のちに911用の2リッター水平対向6気筒エンジンを搭載した「914/6」を追加。1972年には2リッター水平対向4気筒エンジンを搭載した「914 2.0」が登場している。

 そんな914をベースに開発されたのが、「916」というモデルとなる。というよりも、開発される予定だったもの、というほうが正しいだろう。

 ポルシェは914の大ヒットを受けて、1971年のパリ・オートサロンに916のプロトタイプを出展する予定だった。

 ところが、コスト面の問題からこのプロジェクトは、ショーの2週間前にキャンセルされてしまう。916を製造するためには、914を製作しているカルマン社からボディを購入し、バウアー社が製作していたシャシやサスペンションの補強板などを装備しなければならなかったために、仮に市販をした場合には、「911S」よりも1.5倍高価となってしまうことが判明したのだ。

 このプロジェクトのキャンセルによって、916は開発のために製作された試作車の10台のみとなっている。

 最初に作られた3台は、911S用の最高出力190psの2.4リッター水平対向6気筒エンジンを搭載。残りの7台には、「911RS」用の最高出力210psの2.7リッター水平対向6気筒エンジンを搭載している。

 これはポルシェが、911Sとの差別化を考慮し、最終的には2.6リッターエンジンを搭載することを考えていたためだ。そのテストベッドとしての試作車であり、本来であればこれらのクルマを使って実走試験をおこなうはずだった。

 こうして製作された試作車だが、開発のキャンセルから倉庫で眠ることとなってしまった。最終的に、使い道がなくなった試作車のうち、5台はポルシェの経営陣や関係者に売却された。

 また、これら10台の試作車とは別に、「911RSR」用の最高出力245psの2.9リッター水平対向6気筒エンジンを搭載した「ブルータス」という愛称で呼ばれるモデルも製作されているが、これはポフェルディナンド・ピエヒが、妻へプレゼントとしたと伝えられている。

 916(試作車10台プラス1台)は、すべて現存していると伝えられており、そのうちの数台は、ポルシェ・ピエヒ・ファミリーが所有しているようだ。

驚愕の1億円もするポルシェ「916」とは?

 今回、RMサザビーズのオークションに登場したポルシェ916は、RMサザビーズの資料によれば、フェルディナンド・ピエヒの妹のプライベートカーとして製作されたものであるという。インテリアにはチェスナットレザーが配され、シートはペイズリー柄のコーデュロイでまとめられている。

●1972 ポルシェ「916」

ミッドシップに空冷水平対向6気筒エンジンを搭載したポルシェ「916」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 1973年には、ポルシェのエンジニアであったエルナ・ゲッテンに売却されている。その後、1978年に、ロサンゼルス・タイムズの発行人であったオースティン・チャンドラー氏の手に渡り、その後、松田コレクションで知られる松田芳穂氏の手に渡る。

 1999年にはアメリカのケリー・モース氏が所有者となり、さらに2008年にはトーマス・グルーバー氏の所有となって、機能面やインテリアはもちろん、そこでボディの修復を含めた総合的なオーバーホールがおこなわれている。

 そのため車両の状態は非常にいい。まさにコンクールコンディションといっていいレベルに仕上がっている。

 気になる落札価格だが、1979年にドイツからアメリカへと渡った際には、3万ドルだったこの個体、今回のオークションでは、なんと95万7000ドル(約1億円)という高額な価格で落札された。

 個人所有の個体はわずか10台。市販モデルのプロトタイプであるということを考えても、この価格は非常に高額といえるだろう。

 この価格と、個体の状態の良さを考えると、当時「911Sよりも速く、とくに加速はポルシェで1番」といわれていたその走りを存分に楽しむためには、大いなる勇気が必要となるのは間違いない。