日本代表が長友佑都に左サイドバック(SB)を任せるようになって、すでに久しい。4年に一度しか開催されないワールドカップに、長友は3度も出場していることが、その事実を物語る。

 日本代表はその間、イタリア・セリエAのインテルで活躍するほどの選手を擁し、左SBに恵まれた時代を過ごしたが、裏を返せば、その存在に甘え、長友ひとりに頼り切っていたとも言える。

 世界的名門クラブでプレーする選手を誰もが脅かせるわけではないにしても、これといったライバルも、後継者も現れないまま、小さな体で大きな存在感を見せる左SBは今年34歳になった。

 インテルを離れ、トルコのガラタサライへと移籍した長友は、移籍当初こそ彼らしいプレーを見せたものの、昨季終盤は完全に出場機会を失った。そして今季、新たにフランスのマルセイユへと移ったが、期待されているのはバックアッパーとしての役割である。今後、劇的に出場機会が増えるとは考えにくい。

 気がつけば、日本代表における左SBは、長友に代わる人材を見つけられないまま、今に至ってしまっている。

 日本代表は"ポスト長友"という難題を、いかに解決すればいいのだろうか。

 もちろん、長年のツケがたまったがゆえに深刻化している問題は、簡単にどうにかできるものではない。だが、先頃のオランダで行なわれた2試合は、その解決策を考えるうえで、示唆に満ちてはいなかったか。

 長友がコンディション不良を理由に参加を辞退したオランダ遠征で、森保一監督は彼の穴をどうやって埋めたのか。それを、あらためて振り返ってみたい。

 まずは、1試合目のカメルーン戦。日本は前半を4−2−3−1で戦ったが、後半開始から左SBのDF安西幸輝に代えて、MF伊東純也を投入。と同時に、システムを3−4−2−1へと変更した。

 前半の日本は、カメルーンに対して高い位置からプレスをかけることができず、自陣深くまで攻め入られることが多かった。

 安西ひとりの責任でないのは当然としても、再三、彼の背後を突かれていたことを考えれば、理にかなった選手交代であり、システム変更ではあっただろう。結果的に、この交代、変更は功を奏し、守備の安定と攻撃の活性化につながっている。

 続く2試合目のコートジボワール戦。この試合では、90分を通して4−2−3−1が貫かれた。

 左SBを務めたのは、初戦で前半しかプレーしていない安西ではなく、ボランチとしてフル出場したMF中山雄太。チームとして高い位置からのプレスと、コンパクトな守備ブロックを作ってのリトリートを使い分けるなかで、中山は手堅いプレーで無失点勝利に貢献している。

 この2試合に共通するのは、左SBを務めたのがそのポジションのスペシャリストではなく、複数のポジションをこなすマルチプレーヤーだった、ということである。

 最初に先発起用された安西は、東京ヴェルディ育ちの選手らしく、技術に長け、戦術眼にも優れる。最近でこそ左SBを主戦場になりつつあるが、東京Vや鹿島アントラーズでは左右両SBに加え、一列前でもプレーしていた選手だ。

 2戦目で起用された中山も含め、彼らマルチプレーヤーの価値は非常に高い。複数のポジションを高いレベルでこなせる選手がいることは、チームにとって大きな意味を持つ。

 しかし、そうした選手がレギュラーを務めることに太鼓判を押せるかというと、話は別だ。

 実際、2試合目にフル出場した中山にしても、守備では無難に役目をこなしてはいたが、攻撃に加わるとなると、その動きはぎこちなく、質量ともに物足りなかった。1試合目にボランチでプレーしたときのほうが、数段高い可能性を感じさせた。

 皮肉なことに、これといったスペシャリストが見つからない現状を、彼らの起用が際立たせている。

 だとすれば、オランダで採用された"もうひとつの選択肢"も、一考の余地があるのではないか。すなわち、3バックへのシステム変更である。

 幸いにして現在の日本代表は、左SBに比して、右SBの人材が豊富だ。

 すでにマルセイユで確たる地位を築いているロンドン世代のDF酒井宏樹を筆頭に、リオ世代のDF室屋成、東京世代のDF菅原由勢が、各世代から順調に育っている。さらには、その下の世代でも名古屋グランパスの19歳、DF成瀬竣平が急成長中だ。

 右SBを本職とする選手を3−4−2−1の右アウトサイドMFに起用できるなら、左はより攻撃を重視した選手起用をしてもいい。例えば、4−4−2の左MFや、4−3−3の左FWを本職とする選手たちだ。

 あるいは、左SBが本職でありながら、どちらかと言えば守備に難があり、これまで日本代表選出に至らなかったような選手も、その対象となりうるかもしれない。

 いずれにしても4バック時の左SBとは違い、3バック時の左アウトサイドMFであれば、選択の幅が俄然広がるのは確かだろう。

 今回招集された日本代表メンバーで言えば、実際にそのポジションでもプレーしたMF原口元気はもちろん、レフティーのMF堂安律やMF三好康児も候補になりうるはず。


3−4−2−1の左サイドハーフなら、堂安律も候補のひとり

 Jリーグ組に目を向ければ、MF関根貴大(浦和レッズ)、MF松尾佑介(横浜FC)、FW相馬勇紀(名古屋グランパス)あたりは、候補になりうるというより、むしろ適役だろう。

 また、かなり攻撃に軸足を置くことにはなるが、古橋亨梧(ヴィッセル神戸)、三笘薫(川崎フロンターレ)、田中達也(大分トリニータ)などを起用しても、面白いかもしれない。

 もちろん大前提として、ポスト長友の問題ありきではなく、そもそもチームとして3バックが機能していなければならないのは当然だ。従来は3バックを試した試合の内容が概してよくなかったこともあり、その採用が現実的な選択肢とはなりにくかった。

 だが、状況は変わりつつある。

 カメルーン戦の後半を見る限り、3バック変更後の出来は悪くなかった。少なくともオプションのひとつとして、実戦で使えるレベルにはあっただろう。

 開いた穴を埋められないのなら、穴を開けなければいい。

 難題の解決には、そんな発想の転換が必要なのかもしれない。