新業態で提供されるナポリタン。スパゲッティ麺は既存の自社工場で生産している(記者撮影)

新たな収益源となりえるのか。

中華料理チェーン「中華食堂日高屋」を中核業態とするハイデイ日高は8月、東京都町田市に初めてのスパゲッティ専門店「亀よし食堂」を出店した。小田急線町田駅から徒歩5分以内の繁華街に位置し、看板商品であるナポリタンは700円(税込み)で提供する。

狙うのは「女性」「若年層」など、新たな顧客層の開拓だ。店内はイタリアンレストランを意識したかのような落ち着いた色調で、カウンター上には小さなランプがある。ガラス張りのキッチンに目を向ければ、従業員がスパゲッティを調理している姿が見えた。

ナポリタンの価格は中華そばの1.8倍

オープン初日の店内はほぼ満員で、そのうち4割以上は女性客。ハイデイ日高で業態の開発に携わっている商品開発部の鈴木昌也課長は「利用客のおよそ半分は女性だ。20〜30代の若年層の利用も多く、30代以上の男性客が中心の日高屋とは店内の雰囲気がまったく違う」と語る。

2020年に入ってからハイデイ日高は食材にこだわるなど、フードメニューを強化した新業態の出店を加速している。2月には東京都豊島区の巣鴨地蔵通前にラーメン専門店「中華そば神寄」の1号店をオープン。また炒め物類に注力した中華業態である「炒爆中華食堂真心」も、2月に東京都新宿区、7月に埼玉県大宮市でオープンしており、今後も新たに2〜3店舗ほど出店する構想だ。

新業態では価格帯の引き上げにも挑戦している。日高屋の中華そばが390円(税込み)であるのに対して、炒爆中華食堂真心の中華そばの価格は550円(税込み)。亀よし食堂のナポリタンに至っては、日高屋の中華そばのおよそ1.8倍の価格だ。

ランチタイムの客単価も日高屋が600〜700円程度なのに対し、新たに展開した各業態は1000円弱。ディナータイムについても「アルコール類の注文はやや少ないものの、日高屋の平均客単価(およそ1000円)とほぼ変わらない」(鈴木氏)。


ハイデイ日高の新業態「亀よし食堂」の店舗(記者撮影)

ハイデイ日高が新業態の開発を急いでいるのは、同社の成長を支えてきた「ちょい飲み」モデルの限界が見えてきたためだ。これまで日高屋は、ビジネスパーソンが仕事終わりにアルコール類と食事を楽しむ「ちょい飲み」需要を追い風に拡大してきた。日高屋の成長が寄与し、ハイデイ日高は2019年2月期までの16期連続で増収増益を達成した。

日高屋の失速で多角化が急務に

ところが、働き方改革に伴う夜間客の減少を受けて、柱の日高屋が失速。採算の良いアルコール類の販売が減少しただけでなく、2019年10月の消費増税の際に中華そばや餃子など主力商品の値段を据え置いたことで、利益率が低下した。

また、人手不足の影響で、営業時間を短縮したことに加え、人件費の高騰などコストの増加も大きかった。その結果、2020年2月期は売上高422億円(前年同期比0.8%増)、営業利益40.9億円(同13.4%減)の増収減益で着地している。

さらに足元では、コロナ禍に伴う外出自粛でイートイン客の大幅減が痛手となっている。既存店売上高は一時、前年同月比50%を下回り、2020年9月の時点でも同19.3%減と、いまだに回復途上。会社側が「テイクアウトの売り上げが前年実績の倍以上に伸びるなど、普段使いのニーズも増している」(ハイデイ日高の島需一取締役)と言うように、事業環境にも変化が生じている。

こうした背景から、ハイデイ日高は業態の多角化を急いでいる。「これまでは絶好調だった日高屋をとにかく出店すればいいという空気が社内にあったが、売り上げの停滞とコロナ禍を受けて意識がガラリと変わった。今後の成長には食事メインの普段使いされるような業態が必要。ちょい飲みに頼りきりではダメだ」(鈴木氏)。

とはいえ、成長を牽引してきた日高屋への依存度はあまりに大きい。2020年2月期の売上高において、日高屋が占める割合は94.3%と圧倒的だ。第2の収益源である居酒屋業態「焼鳥日高」でさえ、同5.2%にすぎない。

中長期的な出店計画の柱も日高屋のままで、「これまでの戦略が間違っていたとはまったく思っていない。今後もまずは日高屋で出店を検討し、合わなければ別業態を出す」(島氏)と同業態への信頼は絶大だ。

新業態の多店舗展開には及び腰

一方、新業態の経営を軌道に乗せるまでの道のりは険しい。2019年12月に埼玉県大宮市のロードサイドへ出店した「ちゃんぽん菜ノ宮」は売り上げが伸び悩み、わずか7カ月で業態転換を迫られた。

緊急事態宣言の発令などで客数が激減しただけでなく、アルコールやセットメニューの注文が想定を下回ったためだ。鈴木氏は「利用客の多くがちゃんぽん単品だけで満足してしまった。今のメニュー構成で多店舗展開は難しい」と肩を落とす。

こうした現実を突きつけられたハイデイ日高からは、日高屋依存への危機感とは裏腹に、新業態の多店舗展開について「まだ評価段階」(島氏)と及び腰な面も見受けられる。8月に出店したスパゲッティ専門店の亀よし食堂は当面、メニュー開発に注力するとして、さらなる出店計画を持たない。居酒屋業態を想定して開発中の餃子専門店も、出店を保留している。

2020年9月末時点で日高屋が402店舗、焼鳥日高が32店舗あるのに対して、実働する新業態はいまだ5店舗だ。的確なニーズの分析に基づいて業態を開発すると同時に、それらの出店ペースを加速し、収益構成の多角化を推し進めることができるか。「日高屋一本足打法」からの脱却に向けた、経営陣の本気度が試されている。