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日本郵便の契約社員らが、同じ仕事をしている正社員との不合理な待遇格差の是正を求めた3件の裁判(東京、大阪、佐賀)で、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は10月15日、正社員に認められている年末年始勤務手当や夏期冬期休暇などの手当と休暇について、いずれも契約社員に認めないのは「不合理である」との判断を下した。

判決後に開かれた会見で、原告と代理人弁護士らが「日本の雇用状況に大きな影響を与えると思います」「時代の扉が動く音が聞こえた」と喜びの声をあげた。

●統一判断が示された

改正前の労働契約法20条が禁じる正規・非正規の「不合理な格差」が争われていた。

3つの事件について、休暇・手当の項目ごとの判断が各高裁で異なっていたが、統一的な判断が示された。

最高裁の判断がまたれていたのは、「年末年始勤務手当」、「扶養手当」、「夏期冬期休暇手当」、「有給の病気休暇」、「祝日給」の5つだ。

このほか「住居手当(新一般職との比較)」については会社側上告を不受理としており、賠償を認めた高裁判決を確定させていた。

東西事件における最高裁弁論(9月10日)のあとに開かれていた会見で、東京事件を担当する棗一郎弁護士は「労働側の上告を受理した扶養手当は不合理と判断される」との見通しを示していたが、そのほかの4項目の行方は、どうなるかわからなかった。

それが蓋をあけてみると、すべての項目で勝訴となった。

●どんな最高裁判決だったのか

判決では、扶養手当や有給の病気休暇は、「相応に継続的な職務が見込まれるものであれば」、契約社員にも認められないのは「不合理である」と判断された。

なお、夏期冬期休暇については、格差を不合理であると認めた上で、損害額を確定させるため、東京高裁(大阪高裁)に差し戻した。

今回の裁判のほかに、日本郵便の154人の契約社員は現在、格差是正を求めて各地で集団訴訟を起こしている。

東京事件の水口洋介弁護士は、最高裁判決に従い、提訴した契約社員だけでなく、すべての契約社員について、日本郵便は格差の是正措置をするべきと強調した。

日本郵便では約18万5000人の非正規社員が働く。今回の最高裁判決を受けて、同社の格差是正が迫られることになる。

●西日本事件(大阪高裁判決)がどう評価されたのか

日本郵便事件で注目されていたのが、大阪高裁が判示した「通算5年基準論」だ。各種手当について、通算契約期間が5年を超えていない非正規労働者には支給しなくても構わないとするもの。

西日本(大阪)事件を担当した森博行弁護士が説明した。

「大阪高裁は、他に例のない5年基準論をくだした。しかし、最高裁は判断について、ほとんど言及していない。さらっとしている」

最高裁は、大阪事件の扶養手当について、「契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべき」としている。

「5年」という数字ではなく、継続勤務が見込まれれば、契約社員にも扶養手当を支払うべきと示した。

「5年基準論をバッサリ葬り去ったのですね。おそらく最高裁は、大阪高裁は何を言ってるんやと、そういう判断をしたんだと思います」

●メトロコマース事件、大阪医科大事件との違い

日本郵便の裁判では、賞与の格差も争ってきたが、上告は受理されず、格差は不合理ではないとする判断が確定していた。

賞与と退職金は、手当にくらべて、金額が大きい。メトロコマース事件、大阪医科大事件でも、賞与と退職金の格差は「不合理ではない」と判断され、労働者側が負けた。

森弁護士は上記2つの最高裁判断については、「使用者側に顔を向けた判決。経営が資金的に大変なことになるだろうということ」とみている。

一方で、日本郵便の最高裁判決は「労働者側に顔を向けた判決ですね。手当なので、退職金や賞与にくらべれば金額は下がる。最高裁はバランスをとって、方向性の違う判決を出したと思う。個別の手当については、支給の趣旨、目的が明確に定まっている。それは契約社員にも認められるということ」とした。

●原告ら、喜び、そしてーー。

最高裁まで戦い続けた原告らの多くが喜びを語った。

東京事件の原告で、郵政産業労働者ユニオンの支部長を務める宇田川朝史さんは、同じ契約社員が、病気で倒れたとき、会社から一切の手当がなく、結局、職場を去ったことがあったという。

「有給の病気休暇にこだわって裁判に立ち上がった。一生懸命に働き、やむをえず倒れたのに、お金が入らないのであれば、病気の治療に専念もできない。画期的な勝利判決を得ることができたと思います」

「154人の集団提訴を展開している。これは会社側も謙虚に考えて、早期決着を求めます。提訴していない社員の手当についても、早期に就業規則をかえて、支給されるようにしてほしい」

同じ東京事件の原告、浅川喜義さんは、原告側の証人として、東京地裁で証言してくれた正社員に助けられたと話す。

「10年間、同じ職場で同じ仕事をしてきた正社員のかたの証言が司法を動かすことになったと思う」

最高裁は、年末年始手当の格差も不合理とした。もうすぐ年賀状配達のシーズンだ。

「これから最繁忙期を迎えます。非正規に1円も手当を出さなかった。それが差別だ、格差だと容認してくれたことが嬉しく思います」

西日本の事件の原告らからも、「日本の雇用状況に大きな影響を与えると思います」「時代の扉が動く音が聞こえた。そんな気持ちです」と次々に歓喜の言葉が出た。

扶養手当が認められた原告の竹内義博さんは「扶養手当が認められるとは思っていなかった」と驚く。

竹内さんの扶養親族は1人だが、会見に出席しなかったもう1人の原告の扶養親族は5人。「これは大きいです」

●社会、他の企業への影響

日本郵便の最高裁判決が、日本社会に与える影響は小さくない。そのように森博行弁護士は言う。

家族手当(扶養手当)、住宅手当(住居手当)などは「民間であっても、これからはすべての会社が、非正規に支給しないといけない」として、「一般社会に大きな波及効果がある」と語った。