このところ、男女、子どもの有無に関わらず、友人たちと近況報告をしていると、毎回会話に上がるのが韓国のエンタテインメントの話題だ。

とくに、ステイホーム期間にK-POPのグループにハマった、運動不足解消を求めてダンス動画をお手本にエクササイズをしている、配信サービスでの連続ドラマ視聴をきっかけにお気に入りのイケメン俳優ができた、など友人たちの様子を見聞きしていると社会現象レベルでのブームを実感する。

筆者も韓国のカルチャーには長年関心があり、とくにドラマにハマった経験はないものの、何度か旅行したこともあるし、映画も大好き。先日も、楽しみにしていた『82年生まれ、キム・ジヨン』が公開になったところで早速鑑賞してきた。

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』オフィシャルサイト
http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/

原作はチョ・ナムジュによる同名の小説で、韓国では130万部を突破する大ベストセラー。
イギリス、フランス、スペイン、イタリアなど世界各国で翻訳され、日本でも翻訳小説として異例の大ヒットを記録している。

主人公のキム・ジヨンは、夫のチャン・デヒョンと一人娘のアヨンとソウル市内に暮らす33歳の女性。かつては広告関連の仕事に従事していたが、妊娠・出産を機に退職し、現在は子育てに専念する日々を過ごしている。

何ひとつ不自由なさそうな幸せな生活を送っているように見えるジヨンが、少しずつ心身のバランスを崩し、追い詰められていくなかで、幼少期から学生時代、そして現在までを振り返っていくというのがあらすじだ。

キム・ジヨンという名前は韓国で1982年生まれの女性に一番多いとのことで、どこにでもいる平凡な女性という意味も込められているそうだ。

劇中では、実母のオ・ミスク、祖母のコ・スンブン、大学の先輩だったチャ・スンヨンなど、彼女に関わりのある女性たちがジヨンに憑依し、自身の想いや言葉を発するシーンがある。その他、姉のキム・ウニョンや元同僚のヘス、チーム長と呼ばれる元上司からも、女性に生まれてきたことで課せられる重圧や不平等、不利益などを垣間見ることができる。

原作を先に読了し、映画を鑑賞した後に感じるのは、国は違えど82年生まれのジヨンも、80年日本生まれの私も、見てきた風景はさして変わらないということだ。

幼少期から異性の兄弟とは何となく差をつけられた扱いを受けるとか、痴漢被害に遭って怖い思いをしているのに、「自分にも落ち度があったのではないか」と追い打ちをかけられるとか、社会に出たら同期の男性社員の方が早く昇進するとか、結婚したらしたで「子どもはまだか」と急かされるとか……。

あからさまな男女差別から、悪意はなくても傷つくものまで、程度の差はあれ、国籍や世代に関係なく、多くの女性が似たような経験をしているのではないかと思う。

しかし、若干の不当な想いを抱えながらも仕事を愛してきたジヨン、両親は実家で商売をしていて義実家は遠方でアテにできない。結果、出産して復職した後に今まで通りの激務をこなすことは無理と悟り、退職することになる。

原作には詳細なデータが引用されているのだが、2014年、韓国の既婚女性5人のうち1人が、結婚・妊娠・出産・幼い子どもの育児と教育のために職場を離れているとのことだ。日本でも女性が出産や育児で仕事を辞め、30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」の改善・解消が求められているが、韓国も実態は似たようなものということ。

平日の日中にベビーカーを押して街中を歩いていると「旦那の稼ぎでのんびり過ごせて羨ましい」と男性に揶揄されるシーンなどは、「こういうの知ってる……」と既視感を覚えた。何でも韓国では、「ママ虫」という女性を蔑視するネットミームが一時期流行り、子育て中の女性が委縮させられるという実情もあったらしい。

産後、ライター業を始めた私は、細々とでもいいから、キャリアを切らさないことをプライオリティにしてきた。保育施設を探すのには苦心したし、仕事が軌道に乗ってきたタイミングでお迎えなど、育児に引き戻される瞬間にはもどかしさもあって、決して順風満帆だったわけではない。

しかし、何もかも100点満点とはいかなくても、自分が納得していれば、世間の声は気にならなくなるもので、基本スルー、どうしても御せないのであれば言い返せばいい、というスタンスで今に至る。

ただ、私の場合は、夫を始めとする家族がみな応援してくれていたし、一緒に仕事する仲間も子育て中の女性や、フリーランスワーカーなど似た境遇の人が多く、保育園では戦友とも呼べるママ友がたくさんできたから、多少のしんどいことは共有できたし乗り越えられた。味方になってくれる存在が多かったのだ。

だけど、世の中にはもっと心無い言葉をかけられる職場やコミュニティもあるのだろうなと思う。

ジヨンがメンターとして仰ぐチーム長は、産後1ヵ月で職場復帰したいわゆる「バリキャリ」女性だ。子どもの世話は実家の母に任せており、男性社員からは、「妻の実家に一緒に住むなんて旦那さんも大変だな」と影口を叩かれる場面もある。彼女自身もそのことを知っていて、ジヨンに対して「私は良い妻でもないし、良い母になることも諦めた」と半ば自嘲気味にこぼすシーンに、ふと涙がこぼれた。

家父長制の影響が強く残る韓国で、進学も就職も女性の方が不利であるにも関わらず、管理職のポストを手にしたチーム長ですら、「良き妻、良き母」という虚像に囚われなくてはいけないのか。

キャリアに邁進したという自身の選択をもっと誇りに思ってほしいし、「これは私の功績よ」と開き直ってもいいんじゃないのと私なんかは思うのだが、どの国でも「良き妻、良き母」信仰なんて似たようなものなのかもしれない。

ここでふと思い出したのが先日逝去したRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグだ。
女性として史上2人目のアメリカ最高裁判事で、性差別の撤廃などに貢献したリベラル派判事として知られる彼女の半生を描いた実写映画とドキュメンタリーが昨年、立て続けに公開された。

学生結婚した彼女が子育てしながらキャリアを追求する様や、チャーミングな人柄が伝わる秀逸な作品だが、両作品において彼女は「料理が下手」ということをことさらに強調されていたのだ。

「完璧に見える彼女にも、こんな抜けたところがあるんですよ」という親近感アピールなのかもしれないけど、ここでも私は「料理くらい多少下手でもいいんじゃないの……だってRBGでしょ?」と首をかしげたくなった。

歴史を大きく変えた偉業を成し遂げても、料理がうまくないとどこかしらケチがつくのか、料理のうまい下手だけで女性としての評価を左右されるなんてなかなか厄介だな、と「良き妻、良き母」信仰の根深さを実感したエピソードだったので、ジヨンとチーム長のやり取りにも重なるものがあったのだ。

私だってできればマズいものよりは美味いものが食べたいし、作りたいけど、それと母性や女性らしさはそろそろ別レイヤーで議論しませんか、と思っている。家事が得意なら評価すればいいし、苦手なら特段言及しなくてもいいんじゃないかな、というのが持論だ。

どこにでもいる女性、キム・ジヨンは男性を糾弾するわけではないし、強い抗議運動を起こすわけでもない。ましてやRBGのように壮大なエンパワメントを実現するわけでもないし、韓国における男女平等のムーブメントもまだまだ道半ばであることが分かる。

だけど、色んな女性の姿かたちを借りながら、違和感を吐き出すのは、とても勇気ある行動だし、私たちにもできるアクションだ。そしてハラスメントや女性蔑視は男性から一方的に受けるものではなく、同性間でも発生することに気づかされる。

フェミニズムがテーマというとちょっと堅苦しく捉えてしまう人もいるかもしれないが、とても親しみやすいし、描かれるのはどれもスモールステップだ。

韓国映画あるあるだが、出てくる食べ物がどれも美味しそうで、早くまた渡航できる日が来ればいいなという想いにもかられる。そのあかつきには、現地の女性と本作品について語りあってみたい。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。