広島・鈴木誠也【写真:荒川祐史】

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26歳の鈴木誠也に負担が…「俺がその年の頃は山本浩二さんも衣笠さんも……」

 一昨年までリーグ3連覇を続けていた広島が、昨季は4位、新たに佐々岡監督を迎えた今季は5位に低迷している。1970年代中盤から80年代にかけてカープ黄金期のレギュラー遊撃手として活躍した高橋慶彦氏は、チームの現状をどう見ているのか。往年のチームと比較しながら、再建の条件を挙げた。

 今季の広島は投手陣の不振が顕著。昨季ともにチームトップの11勝を挙げた大瀬良とジョンソンが今、そろって1軍にいないのが象徴的だ。大瀬良は5勝4敗、防御率4.41の成績で、9月16日には来季へ向けて右肘の手術に踏み切った。ジョンソンは0勝7敗、6.10というまさかの数字で、9月4日に抹消されたままだ。

 高橋氏は「そもそも、マエケン(前田健太氏=現ツインズ)のメジャー移籍後、絶対的なエースがいないことが気になっていた。リーグ3連覇の頃も“逆転の広島”といわれたが、要するに前半にリードを許す展開が多かったということ」と辛口に指摘。昨年まで3年連続2桁勝利をマークした大瀬良も、高橋氏の目にはまだまだ物足りなかったようだ。

 何しろ、高橋氏が在籍した広島の黄金期は、北別府学氏、川口和久氏、大野豊氏の先発3本柱が盤石。さらに、1982年に津田恒美氏、85年に川端順氏、86年に長冨浩志氏が新人王を獲得し、年々強化されていった。高橋氏は「絶対的エースがいて、プラスアルファで新人王を独占しているような状況だった。うまいこと回っていたと思う」と振り返る。一方で、「今季の広島の投手陣は、ルーキーの森下が勝ち頭(8勝=14日現在)というのがつらいところ。新人はあくまでプラスアルファの存在で、当てにしてはいけない。今後は長い目でドラフト戦略を見直すべきかもしれない」と投手王国の再興を求めた。

 打線は9月末から、3番・鈴木誠、4番・松山の並びとなっているが、全体的に開幕から打順がなかなか固定されていない。高橋氏は現役時代、専ら1番を務め、主軸の衣笠祥雄氏、山本浩二氏らにつなぐ役割を担い続けた。一昨年までのリーグ3連覇も、1番・田中広、2番・菊池、3番・丸の“タナキクマル”トリオが原動力だったが、丸が巨人へFA移籍した後は、田中広と菊池を含め打順が迷走している。

「“はんこ”になっていないと勝てない。毎日はんこで押すように固定されたオーダーで戦えるようにならないとね」と高橋氏。取材当日は安倍総理大臣の後任を選ぶ自民党の総裁選挙で菅官房長官が総裁に選出された。菅内閣が行政手続きでの押印廃止を進めるご時世にあえて、そう表現した。

 また、高橋氏は、チーム断トツの打撃成績を挙げている鈴木が、時おり凡打した後、ヘルメットをベンチにたたきつけるなどして悔しさをあらわにするシーンが気になるという。「(鈴木)誠也の所に、勝てないイライラがたまっているのだろうね。26歳の誠也に責任が集中し、1人でチームを背負ってしまっているように見える」。「俺が26歳の頃は、(山本)浩二さんも衣笠さんも健在だったから、俺がチームを背負う必要はなかったし、あんな風に暴れたら変な雰囲気になっていたと思う」。1人の力では常勝軍団は作れないと強調した。

 首位は遥か遠ざかり、コロナ禍でクライマックスシリーズが行われない今季のセ・リーグにおいては、戦うモチベーションを保つのが難しそうな広島。そこで高橋氏は「最近の選手たちは、みんなで仲良くやろうという気持ちが強すぎる気がする。チーム状態がこういう時は、もっと選手1人1人に、個人事業主であるという意識を強く持ってほしい。チームが弱くても、たとえば3割5分以上の打率を残せば給料は上がる。そう考えれば、モチベーションがどうとかいっていられないはず」と、あえて個人成績に集中せよと檄を飛ばした。

「単体の集まりがチームなのであって、選手はチームの部品ではない。力があれば、チームメートをカバーすることもできるが、仲がいいだけでは、カバーし合うことはできない。選手個人が力をつけることが大前提」と持論を展開するのだった。

 チームの栄枯盛衰は激しい。カープはOBやファンの期待を背に、輝きを取り戻すことができるだろうか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)