代用監獄について語る海渡雄一弁護士(撮影:徳永裕介)

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日本には、世界に類を見ない「代用監獄」という仕組みがある。えん罪の温床になっているとして、廃止を求める声があり、国際人権(自由権)規約委員会も、2度にわたって廃止勧告を行っている代用監獄とは何か。刑事司法に詳しい海渡雄一弁護士に聞いた。


──まず、被疑者が警察に逮捕された後、どのような処遇を受けるのですか。

 法律上は、警察に逮捕された被疑者は、3日以内に裁判官が勾留(こうりゅう)を決定すると、法務省が管理する拘置所に移されることになっています。そこで最大10日間(更に10日間、特殊な犯罪の場合には15日間延長が可能)拘禁されます。しかし、実際には監獄法が「警察官署に附属する留置場は之(これ)を監獄に代用することを得」と定めているため、被疑者は警察の留置所に入れられたままになります。これが「代用監獄」制度です。このようなスタイルは、日本にしかありません。

 日本の人は、捕まった後、警察でずっと取り調べが続くということに違和感がない人が多いと思いますが、普通はそういうことにはなりません。警察の取り調べは、ヨーロッパ基準で24時間、長い国でも48時間です。そこで、身柄が裁判所に移って、そこから警察に戻らないで拘置所に行きます。そして、そこで裁判を待つ。保釈の用件があれば、保釈にもなります。

 最近まで代用監獄があったのはトルコとハンガリーですが、いずれもここ10年以内に廃止されました。昔は諸外国にもあったはずですが、警察の下に被疑者の身柄を置くことは人権侵害の恐れが高い。自白の追及のための取り調べがずっと続くことは極めてよくありません。


──では、どのような取り調べが行われているのですか。

 最近は米英など外国では、取り調べを録音します。日本では録音するといったら、ものすごい量になってしまって大変だという議論があったのだけれども、外国に行ったら、一人の人の取り調べは2時間テープ一本。取り調べは何の目的でやるかというと、いじめて自白させるためではなく、その時点でどういう主張をしていたか、客観的証拠と本人の主張に矛盾があるかどうか、あとで言い分を変えてしまわれないように、そこで確認しておくことが大事です。

 日本の場合は、そこを調書という形で行っています。そのため「調書には自分の言い分と違うことが書いてあって、無理やりサインさせられた」ということを主張する人が出てきて、調書自体の内容が本物かどうか裁判で争われてしまうこともあります。取り調べの時点で録音しておき、本人が何を話したか残しておけば、捜査側が被疑者を有罪に追い込む時のためだって証拠となる。そういう形で行うものが取り調べであるはずです。


──被疑者の身柄を拘置所に移せば、このような問題は解決しますか。

 大きく解決するのは、管轄が違うため夜中の取り調べはできなくなること。もちろん拘置所の取調室の中でも人権侵害は起こる。(いわゆる「鈴木宗男事件」で逮捕され、検察による拘置所で取り調べの様子を書いた佐藤優著「国家の罠」を例に挙げ)あれだって異常な取り調べですが、自白強要のされやすさ、人権侵害の起こりやすさでは、拘置所と留置所では質的な差異があります。

 もう一つ大事なのは、拘置所はかなり長期間人を置くことを前提にしているから、中で病気になったら医者に診てもらえることです。拘置所には医者がいますが、留置所には医者がいない。病気になると近くの病院に連れて行くことになっているが、実際、留置所ではなかなか連れて行ってもらえないし、被疑者が病気になって治療が不十分で死んでしまった事件が多くあります。


──代用監獄では、警察が被疑者を罵倒(ばとう)したり、人格攻撃しているという証言がありますが。