生粋のエンターテナー、ヤット。新天地・磐田でも“イズム”を貫く。写真:徳原隆元

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 遠藤保仁が20年ぶりに活躍の場を移した。ガンバ大阪からジュビロ磐田へのレンタル移籍である。

 この一報は特大の驚きをもって伝えられ、ファンの間でもガンバファンを中心にさまざまな受け止められ方をしたようだ。一方、ヤット自身が移籍会見で「新しい挑戦にワクワクしている」と語っていたのが印象深い。実に彼らしい、偽らざる本心だと感じた。

 周囲はいろんな想いを巡らせるが、ヤットにとって大切なのは「自由と悦楽」を得られるかどうかだ。かれこれ24年間、ことあるごとに取材を通して話を聞かせてもらってきた。ガンバで尋常ではない在籍期間を過ごせたのは、クラブへの愛着があったにせよ、「自由と悦楽」に対して常に折り合いがついていたからだ。黄金世代の主要メンバーたちが若くして欧州に挑んでも、我関せずと自分の信念を貫いた。浮き沈みが激しかった日本代表キャリアでは同世代の誰よりも長くプレーし、最多キャップの金字塔を打ち立てている。他者と自己の比較などいっさいしない。常識や既成概念とはほど遠いところにいる、稀有なフットボーラーなのである。

 移籍決定までには、もちろん数多の葛藤があっただろう。それでも最後には、コンちゃん(今野泰幸)と笑顔でボランチを組む姿がすっとイメージできた、から決断に至ったのかもしれない。自分が楽しんでプレーできなければ、観ているほうもきっと楽しくはない──。言うなればエンターテナーの極致に立っている。

 そんなヤットが今年3月、小誌「サッカーダイジェスト」のインタビューに応えてくれた。J1通算出場記録の更新を見越したもので、赤裸々に本音をぶちまけてくれた。

 ガンバへの想い、サッカー哲学、海外移籍、久保建英ら若手へのメッセージ、家族への感謝、そして現役引退へのカウントダウン。いまこのタイミングで、ロングインタビューを全文紹介したい。深みある言葉の端々に、“等身大の40歳”が垣間見えるはずだ。

※文中敬称略。「サッカーダイジェスト」2020年7月31日号より転載。

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 ヤットは気のおけない、20年来の親友である。「出会ってからず〜っと変わらない。とにかくブレないんですよ」という言い回しからも、どこか優しさが滲み出る。

 年代別代表でともに切磋琢磨し、ガンバ大阪で共闘するようになってからは、家族ぐるみの付き合いだ。同学年の息子同士が同じチームでサッカーボールを蹴り、奥さん同士も仲が良い。ピッチ内外で、厚い信頼関係を築いてきた。

 鉄人、遠藤保仁とはいったい何者なのか。現在ガンバでヘッドコーチを務める山口智に訊くのが、やはり手っ取り早いだろう。

 盟友は偉業達成を目前に控えた40歳MFの素顔を、次のように明かしてくれた。

「マイペースで淡々としている。それもヤットの正しいイメージかもしれないけど、もともと負けず嫌いで、やられたらやり返す、勝負にこだわる熱いものが根底にあるんですよ。サッカーのために準備するんじゃなく、ヤットの場合は日頃の自然の生活がひとつのサイクルになっていて、すべてがつながっている。それが試合でピタっとハマって、また同じサイクルを繰り返すなかで、どんどん確立されていったんだと思う。試合に出続けて、怪我もしない身体になっていってね。

 周りから見たらそれは『努力』になるんだけど、本人にしてみれば、ごく自然の『普通』のことだったんじゃないですかね」

 そしてひとつ年上の元日本代表DFは、「自分のなかでのベストを探すのが抜群に上手いんですよ。そのベストを信じてるから迷いがない」と讃える。「これだけのことをやってきたのだから、驕っても勘違いしてもいいはずやけど、絶対にしない。そこがヤットの魅力なんですよ」とさらに持ち上げ、笑みを浮かべた。