日立グローバルライフソリューションズが2020年の新モデルとして夏に発売した、コードレススティッククリーナー「パワーブーストサイクロン PV-BH900H」。シリーズ最上位機種にあたるモデルで、パッと見は前機種と大きな違いはないように見えるが、実はモデルチェンジに近い進化を遂げている。

今回は、デザインと技術設計担当者を直撃し、その知られざる進化のポイントと、同社のデザインフィロソフィーについて語ってもらった。

日立のコードレススティッククリーナーの最上位モデル「パワーブーストサイクロン PV-BH900H」は、2020年8月15日に発売された新製品

日立のコードレススティッククリーナーと言えば、2017年のモデルから「立体おそうじ」と呼ぶ機能が特長の1つでもある。バラエティーに富んださまざまな交換ツールを付属し、いろいろな場所を効率的かつ快適に掃除ができると評判だ。

2020年の新製品では、第一の改良点として軽量化が掲げられた。昨今のスティッククリーナー市場において、軽量化を求める声の高まりから、そのニーズに応えたいという思いからだ。

軽量化は、機能を省略すれば容易に行える。だが、日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部・デザイナーの藤元貴志氏は、長年掃除機を作り続けてきた大手家電メーカーとしての立場から、そのこだわりを次のように話した。

「機能を省けば軽量化は容易ですし、見た目もスタイリッシュになります。ただ、家電メーカーとして技術力もウリにしている弊社としては、今まで好評だった機能を簡単に削ぐことはできません。日立の特長である立体おそうじをはじめ、性能や使い勝手を極めることが大前提です。その上で、デザイン性も追求しました」

豊富な交換ツールでさまざまな場所を快適にお掃除できる立体おそうじも特長の1つ

パイプを外せばハンディになる2Way仕様。手元のボタンでパーツの交換も快適に行える

最終的に、重さは従来の2kgから1.9kgへと軽量化された。わずか100gの違いとはいえ、これまでの機能・性能を維持しながら毎年改良を重ね、既に一定レベルには研ぎ澄まされた状態にある中で、デザインを見直しつつ軽量化するのはたやすいことではない。

軽量化の実現にあたって、本体や延長パイプの樹脂部を軽くしている。それに加えて、今回は本体の設計・構造が密かに見直され、地味ではあるが大きく変わっているのだ。

一番のポイントは、段差を減らした形状にある。

「本体の段差や不要な出っ張りをなくし、凹凸の少ないシンプルな設計・構造にすることで軽量化を図りました。具体的には、ファンモーターやバッテリーおよびその着脱構造、日立独自の機構である『排気方向切替シャッター』をスライドさせるための部品を、円筒状の本体の中に収めています。LEDライトの出っ張りなどをなくすことでスッキリとしたデザインに仕上げると同時に、使い勝手もブラッシュアップさせました」と藤元氏。

排気口の方向を切り替えることができる独自の「排気方向切替シャッター」。3年前のモデルから採用されているが、本体を段差のないストレートなデザインにするにあたり、部品が内部に収められた構造に変わった

おもに機構・設計部分を担当した、日立グローバルライフソリューションズ ホームソリューション事業部 生活家電本部 第二設計部 主任技師の矢吹祐輔氏は、「ストレートで凹凸を減らしたデザインを採用した新しい構造は、設計的には極めて難しい」と話す。というのも「新しい構造のために、本体とダストケースをつなぐ空気の流入口を、斜めに設置する必要があったから」だ。

「これまでと同じ設計だと流路がどうしても狭くなってしまって、遠心分離の性能が落ちてしまうんです。デザイン担当者が求めるレベルまで小さくしようとすると性能が落ちてしまって、設計の側から『この寸法ならできます』というギリギリのサイズを提示した上で、デザインとのすり合わせを行い、最終的に現在の形に着地しました」と続ける。

旧モデルでは、本体とダストケースをつなぐ空気の流入口は外側に出っ張っている

新モデルでは流入口が内側に収まっており、外側に凹凸がない

ダストケースを外して新旧モデルを並べてみると、新モデルの出っ張りのないストレートなデザインがよくわかる

ストレートな構造は、単にデザイン面だけではなく、掃除機の本質として使い勝手の向上を目指したものでもあるという。藤元氏は「見た目をスッキリさせるというのも大きいのですが、出っ張りをなくすことで操作する際の動線がよくなり、使いやすくなります。そういう意味では機能美ということもできます」と語った。

操作性を向上させるために、新モデルではハンドル部分の構造も大きく変わっている。藤元氏はその理由と従来との違いを、次のように説明した。

「ハンドル部分は大きく余裕をもたせたデザインに変更し、手の小さい方から大きい方まで持ちやすいようにしました。今後の海外展開も視野に入れて、海外の方の手にも合うように、という理由もあります。また、前の機種では、ヘッドを押すときに押しやすい角度や高さにしていたのですが、今回はアシストモーターによる自走の力で進むことを意識して、より自然に握れるように、ハンドルの角度を従来よりも少し傾けています。セオリー上は手に接している面積が広いほど軽く感じるのですが、掃除機の特性上、細かな動きやひねる動作も考慮して、角度や太さなどのパターンを変えたものを3Dプリンターでいくつも試作して、実際に試して決めました」

手前側が新モデル。後ろの旧モデルと比べるとハンドル部分の構造が大きく変わっているのが一目瞭然だ

試作段階では3Dプリンターでいくつものサンプルを作製し、実機と同様の重量にした本体のモックアップに付け替えて、操作性を比べて検討したという

技術的な面からも、「機能を省くことが軽量化の一番の近道だが、お客様の使い勝手を犠牲にしたくない」と話す矢吹氏。新製品では構造の変化で基本性能がスペックダウンするどころかむしろ向上している。バッテリーの電圧を上げることで吸引力の原動力となるモーターのパワーを増強したことに加え、新設計の本体流路によりスムーズな気流を実現したことでも吸引力がアップした。

機能的には「からまんプレス」という新しい集じん構造を採用し、遠心分離の中心となる内筒部分のフィルター部分に髪の毛などを絡まりにくくして、メンテナンス性も向上させている。

「バッテリーのセル数を増やし、電池の電圧を上げています。ダストケースの容量も増えています。お客様から好評だった従来機種の便利機能もすべて踏襲しました。それにもかかわらず、全体の重さは軽くなりました」と明かした矢吹氏の言葉からは、100グラムという軽量化の難易度の高さを思い知らされる。

バッテリーの形状も円筒形に(左が新モデル)。セル数を増やして電圧を上げてパワーアップしているが、サイズはコンパクトになった

ダストケースの新旧比較。円筒形のデザインが採用された新モデル(右)には、内側のサイクロン部分にも改良を加えて、髪の毛や糸くずなどが絡みにくい構造とした
見た目の印象以上に大きく変わっている、日立のコードレスティッククリーナー最上位モデルの2020年最新モデル。前編では、製品開発のコンセプトから、本体部分の改良点について紹介した。次回の後編では、充電スタンドのこだわりとデザインに対する想いを語ってもらう。