絶対売れると断言できる完成度

 コンパクトSUV。いまもっとも熱い販売バトルが繰り広げられている激戦区である。とはいうものの、トヨタ一人勝ちの様相を呈している。販売台数ランキングの上位にはトヨタのモデルが並ぶ。そしてそのカテゴリーに割って入る新型ヤリスクロスも予想どおり、大人気の気配濃厚なのだ。

 いきなり結論をいえば、ヤリスクロスは売れる。必ず市場で評価される。そう確信するに相応しい完成度が凝縮されているのだ。細部にわたる丁寧に作り込みは、ユーザーの気もちを優しくくすぐるのである。

 車種構成は豊富だ。パワーユニットは2種類。直列3気筒1.5リッターのガソリンエンジンと、そこに電気モーターパワーを加えたハイブリッドを基本とする。駆動方式はFFとAWDがチョイスできる。ガソリンエンジンと組み合わされるのはドライブシャフトを介した正統派4WDであり、ハイブリッドには電気モーターで後輪を駆動するe-Fourである。全方位で網羅しているのだ。ユーザーが購入に迷ってしまうのではないかと思われるほどスキがない。

 ヤリスを名乗っているものの、外観を眺める限り、コンパクトハッチの面影は薄い。全長4180mm×全幅1765mm×全高1590mmのボディは、数字で感じるよりも存在感がある。ボンネットは大きくかさ増しされている。大きく隆起したフェンダーや樹脂製のフェンダーカバーなど、クロスカントリー色が強い。最低地上高は170mmもある。道なき道を突き進むことが可能な踏破性も備わっているのだ。

 それでいて走り味は優しい。乗り心地も悪くはなく、都会を闊歩するにも相応しい味付けだ。雰囲気はクロスカントリーでも、乗り味は都会的SUVのそれなのだ。

 荷室のカラクリも行き届いている。リアシートは4:2:4の分割可倒式だから、センターのシートバックを倒せば4名乗車でもスキーの板や釣竿といった長尺物を収納できるし、ラゲッジルームの床面は高さ調整ができる。レイアウトを好みにアジャストすれば、どんなユーザーの期待にも応えられるという寸法だ。

 このクラスとしては珍しく、電動パワーゲートも装備されている。スイッチひとつで開閉が可能であるばかりか、バンパー下に足先をかざせば自動で開閉もする。スーパーマーケットの帰り、あるいは幼い子供を抱え両手が塞がった状況でも開閉が容易なのである。

 リヤゲートのパワー化は、高級車の特権のように思われていた。だが実際には、大衆モデルこそ必要な装備である。コストを飲み込んでもそこに手を入れたことは高く評価できる。細部に優しい配慮のひとつの例である。

パワフルさと上質さを求めるならハイブリッド

 エンジンフィールは少々ガサツである。1.5リッターで直列3気筒、1シリンダー500ccは、内燃機関の効率としては理想的である。だからアクセルペダルを床踏みすると、3気筒特有の振動とノイズが響く。山坂をグイグイ力強く登るほどのパワーではない。

 ガソリン仕様はラバーフィールの消え切れていないCVTと組み合わされていることもあり、とくに振動とノイズが気になった。都会的SUVらしく、市街地を流している限りそれほど気にはならないのかもしれないが、アウトドアを目指して遠出をするときには目を瞑る必要がありそうだ。そう、ヤリスクロスはやはり、都会を走るのがふさわしい動力性能なのである。

 とはいうものの、そう結論付けるのは時期尚早のようだ。というのは、クロスカントリー性能も秀でているのだ。ハイブリッドAWDのe-Fourももちん片輪が浮いてしまうような荒地でさえスタックを防ぐ「TRAIL」モードが装備されている。急坂を低速で恐る恐る下るような、そんな場面で威力を発揮する「ダウンヒルアシストコントロール」の機能もある。

 ガソリン仕様のAWDでは、河原や岩場ですら踏破可能な「MUD&SAND」や「ROCK&DIRT」もチョイスできる。空転する車輪のブレーキをつまむことで、接地しているタイヤにより積極的に駆動力を伝達するのである。もうこうなったら、アウトドアレジャーの域を超えて、本格的クロスカントリーモデルと呼びたくなる。

 そう、一見すると都会的SUVとしてあるべき魅力的な仕上げをしているかのように想像したヤリスクロスも、じつはそのスタイルにふさわしいタフな性能を秘めているのだ。ますますヤリスクロスの生息地が分からなくなってくる。ただこれだけは言えるのは、誰もが不満なくヤスクロスの世界を楽しめることである。

 つまり、圧倒的に売れる。それがそう確信する理由である。