個室を備える東武鉄道の特急「スペーシア」(撮影:梅谷秀司)

新幹線や寝台特急に以前はよく見られた鉄道車両の「個室」。最近は旅行商品として販売する観光列車などを除き、定期列車では数少ない存在だ。しかし、新型コロナの影響もあり、家族旅行などの強い味方として再び注目を浴びている。

今回は、「定期列車」かつ、旅行商品ではなく空室があれば「思い立った時に予約・乗車」できるもの、そしてドアがあり完全個室となる設備がある列車の中から、5つピックアップして紹介したい。

まずは関東のベテラン車両

1)東武特急「スペーシア」

首都圏と日光・鬼怒川エリアを結ぶ、新幹線のような流線形をした東武鉄道の観光特急。1990年に登場した“ベテラン車両”だがゴージャスな造りは今でも色あせず、人気の列車だ。全身金色の「日光詣スペーシア」も2編成存在する。


重厚感あるシートが向かい合わせのスペーシアの個室(撮影:梅谷秀司)


金色の「個室」の文字がリッチな雰囲気を盛り上げる(撮影:梅谷秀司)

そんな同列車の6号車はまるまる1両が個室車両となっている。車内に足を踏み入れると、じゅうたん敷きの廊下があり4人用個室が6部屋ズラリと並んでいる。個室の中に入ると2人掛けの重厚感あるシートが向かい合わせに配置され、間には大理石でできたテーブルがあり贅沢な気分が味わえる。快適な空間で首都圏から日光・鬼怒川への移動もあっという間だ。

個室は1人利用も可能。浅草―東武日光間の場合、乗車券+特急料金に加え、1室あたり平日3150円、休日3770円の個室料金をプラスすれば乗れる。きっぷはインターネット・ 特急券発売機能付き自動券売機や駅窓口、旅行代理店、電話予約で購入可能だ。

2)近鉄特急「しまかぜ」

近鉄が運行する、白と青のボディが眩しい豪華観光特急列車。大阪・京都・名古屋の3エリアから、伊勢神宮などで有名な三重県の伊勢志摩エリアを通り賢島まで結んでいる。

編成中に和・洋2つの3〜4人用個室を備える。とくに和風個室は広く、掘りごたつタイプで靴を脱いでくつろげる。松阪牛重などの食事メニューを注文することもでき、まるで旅館の部屋にいるような気分だ。洋風個室はL字型ソファとテーブルを窓に向かって配している。

同じ号車には、部屋の扉こそないもののセミコンパートメント型で周囲を気にせず旅行できる4〜6人用の「サロン席」も3区画ある。座席車両もすべて2-1列のプレミアムシートとなっており、かなりゆとりがある印象だ。

個室は1人利用はできず、3〜4名利用のみ予約可能。乗車券+しまかぜ特急料金に1室1050円の個室料金をプラスすれば乗れる。

きっぷはインターネット・近鉄駅窓口・旅行会社で購入可能。個室は人気で部屋数も少なく、満室の列車が多い。計画が決まったら早めに押さえたいところだ。公式サイトで空席情報なども確認できる。

1編成に1室のみの贅沢感

3)特急「かもめ」など(JR九州787系)

九州新幹線が開業する以前、博多と西鹿児島(現・鹿児島中央)を結んだ特急「つばめ」用車両として、1992年に登場したメタリックグレーの「787系」。


特急「かもめ」などで使用する787系(写真:JR九州)


L字型ソファを備えたグリーン個室(写真:JR九州)

現在でも博多と長崎を結ぶ特急「かもめ」の一部や、門司港・小倉と博多を結ぶ特急「きらめき」などで使用されており、1号車(グリーン車)にグリーン個室が備わっている編成がある。JR窓口などにある大判の時刻表で「個4」と表記のある列車が該当する。

個室はグリーン車両に1室のみあり、L字型のソファと1人掛けの大きな座席、それに大きいテーブルが備わっている。ブランケットもある。

筆者も九州内の都市間を移動するときは、787系の個室を1人利用でよく使う。例えば博多―長崎間の場合約2時間前後と少し移動時間が長いが、自分だけのプライベート空間で有意義に過ごすことができる。

1〜4人で利用でき、料金は利用人数分の運賃と特急料金に加え、人数にかかわらず2人分のグリーン料金(営業キロ100キロまでの場合2100円)を払えば乗れる。きっぷはJRのみどりの窓口などで購入可能だ。

4)寝台特急「サンライズエクスプレス」

東京と出雲市・高松を結ぶ、毎日運行している唯一の寝台特急。運賃以外に指定席特急料金のみで乗れる5・12号車「ノビノビ座席」以外はすべて寝台個室となっている。

少々値は張るが、A寝台1人用個室「シングルデラックス」は個室内にワークデスクもあり、洗面台も備え、申し分ない快適さだ。シャワーカードも付いており、同号車の共用シャワーが使用できる。1つ下のクラスB寝台でも、2人用個室「サンライズツイン」はツインベッドが並ぶ広めの空間になっている。

スタンダードな1人用個室「シングル」は7両中に80室ある。いずれも木のぬくもりを生かしたインテリアの完全個室で周りを気にすることなく快適に休みながら移動することができる。部屋にはアラーム付き時計があり、NHK-FMラジオが聴ける。また各部屋は中からカギがかけられるほか、外からは数字式の鍵でロックできるのでセキュリティも安心だ。

東京―出雲市間の場合、「シングルデラックス」は乗車券+特急料金に加え、寝台料金が1万3980円、同区間で「サンライズツイン」の場合は乗車券+特急料金に加え、おとな1人当たり7700円(2人で1万5400円)の寝台料金が必要。

JRの窓口のほか、今年の4月からは個室寝台も含めネット予約が可能になっている。ただしJR西日本の予約サービス「e5489」のみ対応となっており、とくに東京側は受け取り場所に注意が必要だ。

都心と伊豆を結ぶ新特急

5)伊豆特急「サフィール踊り子」

2020年3月にデビューした東京・新宿―伊豆急下田間を結ぶJR東日本の新しい特急「サフィール踊り子」は8両編成中2両がまるまる個室車両で、1〜4人個室4部屋、1〜6人個室4部屋の計8部屋を設けている。


伊豆方面の新しい特急「サフィール踊り子」(撮影:尾形文繁)


6人まで利用できるサフィール踊り子のグリーン個室(撮影:尾形文繁)

個室車両に乗り込むと、天窓から光が注ぐ明るい廊下が印象的だ。部屋は天井がとても高く、廊下同様に天窓もあり、明るい。とりわけ「1〜6名個室」は広々しており、窓に沿って大きなテーブルがある。それを囲うように窓向きにソファが並び、伊豆の空と海の車窓を楽しめる。

また同列車ではネットで事前注文すればヌードル(ラーメン)などを食べることができ、個室の場合廊下側にある小さな扉付きの受け渡し口から間接的に受け取ることもできる。1〜4人個室を東京―伊豆急下田間で4人利用する場合、運賃・特急料金・個室料金込みでおとな1人当たり9110円となる。難点はJR東日本の「えきねっと」などのネット予約に非対応のため、JRみどりの窓口などへ赴き、購入する必要があることだ。とはいえ、充実した個室数を誇る特急列車はこのご時世心強い。

そのほか、山陽新幹線(新大阪―博多間)には新幹線唯一の個室設備が存在している。白いボディに窓回りに黒・黄色のラインが入った、700系「レールスター」車両を使用した「ひかり」だ。

壁(仕切り)は天井の手前までで少し隙間があり、完全個室ではないが限りなく個室だ。該当列車の本数が僅かで利用チャンスが少なかったが、今年の8月6日から11月30日までは「レールスター」車両を使用した一部「こだま」でも個室が使用できるようになっている。個室のきっぷはJRの主な駅のみどりの窓口・主な旅行会社でのみの販売だ。

また、長野―湯田中間を結ぶ長野電鉄の特急「スノーモンキー」はかつてのJR特急「成田エクスプレス」車両を使用しており、編成中1室個室を備える。1室1000円で当日始発駅の窓口で販売する。

「個室」備えた新顔

9月11日にデビューしたJR西日本の新たな長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」の6号車にはグリーン個室がある。座席を折り畳むとベッド状態にもなる。


サフィール踊り子の奥で休む「サンライズエクスプレス」(撮影:尾形文繁)

現在は旅行商品のみの販売だが、本来は通常の特急列車同様、みどりの窓口で通常のきっぷとして販売が予定されていた。デビュー当初の人気集中が落ち着いたら気軽に予約できる個室つき列車となるかもしれない。

今年の10月15日には、九州をぐるっと1周する観光列車「36ぷらす3」がデビュー予定だ。先述の787系のうち1編成を改造した列車で、編成内の個室数は増えるが旅行商品での販売となる。

今回紹介した完全個室以外に、新宿―箱根湯本間を結ぶ小田急の白いロマンスカー「VSE」など半個室(セミコンパートメント)を備えた定期列車もある。これらの設備をうまく利用して、“新しい生活様式”でも変わらずに鉄道の旅を楽しみたいものだ。