支持と不支持が鮮やかに逆転したことを伝えるニュース

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平和の旗手を自称するうえで、韓国の歴史観を日本に

 安倍首相辞任の報道は、韓国で蜂の巣をつついたかのような騒ぎとなった。歴史修正主義者の代名詞として韓国中で嫌われていた隣国の首相が、ある日突然、辞任すると言い出したのである。

「世の中にとってこんなに良いことはないですよ」とか、「全然ダメな宰相でしたね」と、鬼の首を取ったように言う人も少なくなかった。

 しかもそれに加え、これを機に日韓関係が改善してほしいという決まり文句を口にする。

 なかには、安倍政権によってもたらされる日韓の葛藤ゆえに、朝鮮半島を取り巻く東アジアの国際情勢が不安定になっていると弁舌をふるう人もいた。

 辞意発表の直後、韓国メディアからは、過去最悪と言われて久しい日韓関係の今後について憶測が飛び交っていた。

支持と不支持が鮮やかに逆転したことを伝えるニュース

 それは大きく二つに大別され、保守系は「日韓関係の改善を期待」と、リベラル系は「大きくは変わらない」と報じていた。

 米韓同盟を重視する保守派の人々にとって、日韓関係は利用価値がある。

 やはりアメリカと同盟関係を結ぶ日本との関係を壊すことは、米韓関係を危機に晒すようなものだと考えているからだ。

 だが、米韓の関係が強固だと思えば、平気で日本に背を向ける。

 それを見せたのが、朴槿恵政権の前半だった。

 一方でリベラル派は、文政権の基盤安定が絶対条件で、それゆえに文在寅大統領が主張する朝鮮戦争の終戦に向けて国際社会で主導権を握ることを望んでいる。

世界的スターのBTSを取り込んで若者支持を維持したい意図が

 平和の旗手を自称するうえで、韓国の歴史観を日本に受け入れさせねばならない。それが、今の文在寅政権である。

 こうした社会的背景があっての、保守とリベラル双方のメディアによる安倍首相辞任と日韓関係の行く末をめぐる報道合戦だった。

 しかしそれにしても、いくら忌み嫌う隣国の宰相が辞意を表明したからといって、あの社会的な先走り具合は異様であった。

7月第3週以降、軒並み「支持しない」が「支持する」を上回り…

 もちろん、そうなったのには理由がある。民心が現政権から離れ始めたからである。

 安倍前首相が辞意を表明した8月28日以降、本来であれば、文在寅大統領の支持率は上がるはずだ。

アンチ文在寅デモも頻発する

 ところが、7月第3週以降、軒並み「支持しない」が「支持する」を上回り、低調が続いている。最新の9月第4週では、不支持が51・5%、支持が44・7%だった。

 支持率の危険水域は40%とされていて、現在はそれを何とか上回っている状況である。

 数字の上ではまだ牙城は保たれているように思えるが、細かく見ていくと、ほころびが現れてくる。

 9月第4週の世論調査で、否定的評価の理由は、「全体的に政権運営ができていない」がトップの14%で、「経済不振」と「不公正」がともに10%で続いている。

 経済不振は、いまに始まったことではない。

 しかし、昨今の経済不振は、コロナ禍による地域経済の低迷である。

規模も大きくなる反大統領デモ

 日本では9月の連休を機に、一日当たりの新規感染者が増加に転じたという報道があった直後で、韓国では10月第1週の旧盆の大型連休を控え、感染拡大の不安が渦巻いている。

 また、これから冬になってからも感染拡大が予想され、今後、現政権が安易に経済活動の活性化へと舵を切ると、さらなる支持率の低下を招きかねない。

 さらに、韓国では相変わらず政治家の疑惑が取りざたされ、公正さが疑問視されており、とりわけ、去年から相次ぐ法務部長官の疑惑報道は、社会に閉塞感を広げてきた。

 現職の秋美愛長官の息子に関する疑惑は9月28日に不起訴とされたが、その司法判断について疑問視する国民も少なくなく、ここへきてまた新たな疑惑も出てくるなど、一向に騒ぎが収まる気配はない。

5月半ばまでは高支持率だった

今年春の卒業生の就職率は、現時点で40%前後

 否定的評価のこれら二つの理由は、ともに若者の就職難に直結する。

 現在20代の若者は、文政権成立の過程で90%に近い厚い支持基盤となってきたが、最近は支持率が40%前後を行き来しており、最終の調査では34%と発表された。

 その彼らは、低迷する経済と不公平社会のなかで職にありつけない犠牲者だと自覚して、政権不信に陥っている。

 特に今年は、コロナ禍によって就職はさらに狭き門だ。

 今年8月の20代の就職率は56・4%にしか過ぎない。

 20代でも後半になればもう少し就職率は向上するが、大卒直後だとさらに下回る。

 ソウル市内のとある大学の教員の話を聞くと、今年春の卒業生の就職率は、現時点で40%前後だという。また経済低迷により、低賃金でそこそこのスキルを期待できる60代以上の人たちを雇用する企業も増えていて、それが若者の職を奪い、社会問題になっている。

 文大統領は9月19日、青年の日の記念式典で行った演説で、「公正」という言葉を37回用いて、就職難に喘ぐ若者にアピールした。人気グループの防弾少年団も招へいしてのイベントだったにもかかわらず、大統領の支持率に反映されなかった。

 若者は文大統領に冷めた視線を向けているのだ。

日本は最も大きく門戸を開いている国の一つ

 文政権の対日姿勢は、韓国の歴史認識を日本に認めさせ、そのうえで日韓関係を再構築することである。

 しかしだからといって、現実的にみて、日本に強硬に出ることもできない。

 そんなことをすれば、自滅につながるからだ。

 就職難の若者は海外での就職を求める傾向が強いが、日本は最も大きく門戸を開いている国の一つである。

 昨年の場合はアメリカを凌いで最も多くの韓国の若者が日本の企業に就職した。

 また、9月23日から29日まで雇用労働部の主催で、海外企業とのオンラインによる面接イベントが行われたが、そこに参加した72社中、54社が日本企業である。

 つまり、日韓関係の悪化は経済交流の希薄化につながりかねないが、地盤沈下の雰囲気が漂い始めた文政権としては、それだけは避けたいというのが本音だろう。

 韓国の民心が文政権からどれだけ離れてゆくかについては、未知数のところもある。

 30代と40代は文政権の支持者が多く、まだその世代では50%台という比較的堅調な支持率を維持しているからだ。

 この世代は民主化運動の記憶がまだ生々しい時代に育ち、金大中政権以降のリベラルな教育を受けてきた。

 彼らの文政権への評価が、今後どのように変わっていくのか。

 さまざまな葛藤を抱える隣国として、それを注視していくべきだろう。

藤原修平
韓国在住フリーライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月1日 掲載