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速さと安定性、実用性を兼ね備えたタイプR

text:James Disdale(ジェームス・ディスデイル)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
ホンダ・シビック・タイプRの2020年仕様が、英国へ上陸する。最高のホンダ製ホットハッチへ、わずかな手直しが加えられた。そもそも、2017年にデビューした現行のFK8型に、指摘するほどの不満は感じられなかった。

ターボチャージャーで過給されるタイプRとしては2代目。圧倒的な直線スピードと、アクロバティックとさえいえるほどの敏捷性、塊のような姿勢制御と絶妙な快適性という、素晴らしいブレンドに仕立てられている。

ホンダ・シビック・タイプR GT(英国仕様)

ホットハッチの中で、最も完成度の高い1台だ。速さと安定性、実用性という、すべてを兼ね備えている。もちろん、マイナーチェンジ後のタイプRも、その優れたフォーミュラに準じている。

注目となるのが、ラインナップの拡張。標準のタイプRのほかに、やや控えめなスポーツラインと、より攻めた限定のリミテッド・エディションという、2バージョンが追加となっている。

3バージョンで共通して、2020年版のタイプRでは、13%開口面積が大きくなったフロントグリルを獲得。冷却性能を高め、サーキット走行時には従来よりエンジン温度を10℃も低く保てるという。

フロントグリル付近では、空力特性も改善。大きな口を開いたことによるバランスの変化を、オフセットできるように調整されている。しかし、全体的な見た目の違いは小さい。よく観察しなければ、気付かないかもしれない。

スポーツラインとリミテッド・エディション

インテリアの変更は限定的。運転操作で重要な部分には、ちゃんと目が配られている。ステアリングホイールはアルカンターラ巻きになり、シフトノブは新しい卵型のアルミニウム製となった。変速時の動作や重み付けも、慎重に調整が施されている。

見た目以外での改良は、主に足回り。フロントのブレーキディスクは2ピースのものとなり、ペダル操作による反応性を高め、冷却性能を改善している。

ホンダ・シビック・タイプR GT(英国仕様)

サスペンションのブッシュ類は強化され、フロントでは縦方向に10%、リアでは横方向に8%剛性が高められた。アダプティブ・ダンパーの制御も見直され、サンプリングレートを高速化。コンフォート、スポーツ、R+の3段階のドライビング・モードでの応答性を高めている。

追加となった2バージョンにも触れておこう。スポーツラインは、英国では2021年の初めに発売が始まる。大きなリアスポイラーが降ろされ、比較的控えめな容姿に仕上がっている。

アルミホイールは19インチで、シートはノーマルの鮮烈な赤ではなく、落ち着いたブラックで仕立てられる。それでもルックスは、間違いなくタイプR。大人しいリアウイングが、やんちゃぶりを抑えている。

リミテッド・エディションは、シビック・タイプRの中でも最も過激な仕様。欧州へ導入されるのはわずか100台の限定で、ブラックのルーフとドアミラー、ボンネット・ベンドが与えられる。

エンジンは2.0L 4気筒ターボで320ps

ホイールは10kgも軽量なBBS製の鍛造品。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を履く。バネ下重量が軽くなり、タイヤのグリップ力が増すため、ダンパーとステアリングの設定も微調整されるという。

軽量化のために、インフォテインメント・システムやエアコンは装備されない。防音材も大部分が省かれている。その結果、標準のタイプRから、全体で47kgの軽量化を果たしている。

ホンダ・シビック・タイプR GT(英国仕様)

それ以外の部分は、3バージョンともに従来どおり。エンジンは320psを発揮する2.0Lの直列4気筒ターボ。トランスミッションは6速マニュアルで、LSDを介して前輪を駆動する。

マイナーチェンジ後のタイプRといっても、フィーリングはこれまでのものと似ている。それで問題ない。非常に高速で楽しいホットハッチの登場が相次ぐ中で、いまだにシビック・タイプRは、その頂点に属する1台だ。

今回試乗したのは、英国市場ではフラッグシップとなるGTと呼ばれるグレード。しかし、違いはちゃんと感じられた。

初めに気づくのは、6速MTの操作性が良くなっていること。形状や重さが煮詰められたアルミニウム製のノブが、より爽快なシフトアクションを生んでいる。従来のノブより握りやすい。

ストロークは短く、機械的な感触が心地良い。無心になって、前後へスライドできる。アルカンターラ巻のステアリングホイールも、手のひらの収まりがイイ。

改良を受けたブレーキとサスペンション

ブレーキも良くなった。ペダル踏み始めの噛みつきが良く、力を込めるほどに漸進的に制動力が高まっていく。ペダルを介してブレーキの強さを完璧に調整できる。ドライバーの操作や力の込め具合へ、正確に応えてくれる。

コーナー手前でブレーキペダルを深く踏み込み減速し、旋回に合わせて徐々にブレーキの圧を抜いていける。一連の操作感は滑らかで、流れるようにこなせる。

ホンダ・シビック・タイプR GT(英国仕様)

サスペンションも改良を受けているが、変化は小さい。コンフォート・モード以外では硬めの設定ながら、まだ許容範囲に収まっている。

緩いコブが出ているような、英国オックスフォードシャーの滑らかな路面でも、タイプRは見事な足さばきを披露する。ただし細かい入力が加わると、少し落ち着きがなくなる場面がある。不快ではなく、シャープな入力はしっかり丸め込まれている。

試乗車が履いていたのは、20インチのホイールに薄いタイヤだったことを考えると、印象的に乗り心地は良いといえる。従来どおり、9割の時間はコンフォート・モードを選んでいれば大丈夫だろう。

限界の80%くらいまで許容でき、見事に路面と呼吸をあわせながら、フラットにコーナーを抜ける。加えて速い。軽めの操舵感は、好き嫌いが出そうだが、ステアリングの反応は漸進的。フィーリングも豊かだ。

この続きは後編にて。