(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 2020年9月に入り、トヨタとホンダが相次いで認定中古車に関する新しい事業を始めた。

 まずトヨタだが、9月8日から中古車をオンラインで注文できる「トヨタ中古車オンラインストア」を開設。

 オンラインで見積りから契約まで完結でき、支払いは、銀行振込での一括払い・2回払い、または最長72回までの分割払いが利用できる。書類を取り寄せて必要事項を記入して返送するなどの手続きを経て、注文して2〜3週間後に、購入者の住居地に近いトヨタ販売店で納車されるという流れだ。関東・中部・関西のトヨタ販売店での取扱車からスタートし、年内に全国展開する予定だという。

 注目されるのは、実車確認が「不可」という点だ。正規販売店の“認定中古車”という品質保証のもと、実務費を削減して、より手頃な価格設定を実現した。

「トヨタ中古車オンライン」。2020年中に全国展開する予定(出所:トヨタ)


 トヨタの動きを追うかのように、ホンダは9月17日から全国のホンダ販売店(ホンダカーズ)で「お取り寄せ車両」サービスを開始した。

 全国のホンダ販売店の中古車在庫をネット上で閲覧して購入する仕組みだが、トヨタのようにすべてのプロセスをオンラインで完結するわけではない。購入者は住居地に近い店舗に出向いて、文書による注文の手続きを行う必要がある。ただし、実車確認ができない点は、トヨタと同様だ。

ホンダの中古車「お取り寄せ車両」サービスのイメージ図(出所:ホンダ)


 これらサービスの立ち上げ時点では、トヨタは200台強、またホンダは70台程度と取扱い件数は一般的な中古車検索サイトと比べて圧倒的に少ない。それでもなぜ、トヨタとホンダはこのタイミングでこうしたサービスを開始したのか?

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メーカーが決断を下した背景

 メーカー系正規販売店の中古車は、基本的に自社で新車販売の際に下取りした車両を展示販売している。そして展示スペースは通常、新車モデルルームに隣接、または近い場所に設けて、自社整備工場の一部を新車と併用するなどして運営コストを抑えている。

 自社で仕入れた車両を自社の店舗で展示するので、在庫管理は自社で行ってきた。そのため、同じ都道府県内でも販売系列が違うと、同じ新車ブランド系販売会社であっても中古車在庫の情報は共有してこなかった。

 筆者はそうした状況について複数の自動車メーカー関係者と意見交換をしてきたが、「時代遅れであることを十分承知しており、なんらかの手を打ちたい」という声が多かった。

 一方で、独立系の中古車事業者は近年、全国にある在庫をネット上で大量に掲示して購入希望者に選択・注文してもらう体制を強化してきた。また、「カーセンサー」や「グーネット」などの事業者は、全国の中小規模の中古車事業者とのネットワークの中で独自の品質保証システムを開発し、若い世代に向けてスマホでの中古車購入を積極的にプロモーションしている。

 こうした世の中の流れを受けて、自動車メーカーが今回、やっと重い腰を上げたといえる。

 なにせ、日本国内販売台数は数年前から頭打ちである。さらに、2019年10月の消費税アップの影響も大きかった。そこへきて新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけた。

 今年に入ってからの販売台数推移を見ると、2020年5月に販売台数は前年同月比で半減した。6月以降は持ち直して7〜8月は8割、また9月は9割近くまで市場は回復してきている。その背景には、トヨタの「ライズ」「ハリアー」、ダイハツの「タフト」など新車の販売が好調だったことが挙げられる。だが、販売が好調な新車は一部の車種のみである。今後は、少子高齢化がさらに進み、また、いわゆる「若者のクルマ離れ」も現状では解決策を見出せていない。国内新車市場は徐々に縮小していく可能性が高い。

 新車の買い替え時期も伸びている。日本自動車工業会によると、今から30年前の1990年の国内自動車保有総数は約5800万台で、平均使用年数は8.8年だった。それが2019年には保有は7800万台と大きく伸びる一方で、平均使用年数はなんと15.3年にも達している。近年、クルマの品質が向上し、壊れにくくなったことも大きな要因だろう。

 また、商業車を中心に、経費節約のため買い替えず、修理をするにしても最小限度で済ませてできるだけ長く使い続ける傾向が目立つ。

 こうした新車販売の未来が見えない時代に、自動車メーカーが正規販売店を巻き込んで中古車販売に力を入れるのは当然といえるだろう。

中古車販売の主導権はメーカーに?

 中古車販売において、今後、大きなカギを握るとみられる技術が「コネクティビティ」だ。

 車載の情報通信端末が車両の走行状況をモニターして、そのデータをクラウドに蓄積し、自動車メーカーが把握できるようにする技術である。

 例えばトヨタの場合、DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)という車載通信モジュールを、2018年発売の「クラウン」と「カローラスポーツ」を皮切りに、世界市場で販売するほぼすべてのトヨタ車に搭載している。

 これにより、中古車として販売する場合、クルマの内外装の程度のみならず、車両本体のコンディションまで顧客に伝えることができる。

 今後、コネクティビティ技術のさらなる進化によって、中古車ビジネスは自動車メーカー主導型へと大きく転換することになるかもしれない。

筆者:桃田 健史