9月18日に発売されたiPad(第8世代)。Apple純正やロジクールなどのアクセサリーでキーボードが利用できるほか、Apple Pencilにも対応する(写真:アップル基調講演ビデオより)

アップルはアメリカ時間9月15日のオンライン発表会で、Apple Watch、iPadの製品群の刷新を発表した。中でも注目すべきは、税別3万4800円〜という価格に設定された第8世代となるiPadだ。

10.2インチRetinaディスプレーとホームボタンを前面に持つ、2010年の初代iPadを彷彿とさせるデザインに、Apple PencilやSmart Keyboardなどのオプションを利用でき、タブレットとしてだけでなく、パソコンとしての役割も果たすようになる。

第7世代iPadにはA10 Fusionというプロセッサーが搭載されており、これは2016年9月に発売されたiPhone 7と同じチップを搭載していた。第8世代になると、それまでiPad Airに同時搭載されてきたA12 Bionicが採用され、性能はプロセッサーで40%、グラフィックスで30%向上したという。

新型iPadで重要になるのは「性能」

iPad(第8世代)は価格が据え置かれ、32GBのWi-Fiモデルで3万4800円、教育機関向けには3万2800円で販売される(いずれも税抜)。

アップルのアピールは、その性能だ。その心臓部に埋め込まれているのは、iPhone XSにも搭載されていたA12 Bionicだ。


2018年発売のiPhone XSにも採用されたA12チップを採用し、同価格帯の教育向けPCよりも高い処理性能をアピールする(写真:アップル基調講演ビデオより)

プレゼンテーションの中で、一般的なエントリーレベルのWindows PCの2倍、Androidタブレットの3倍、Chromebookの6倍の性能であるとアピールした。なぜこんな文言を入れたのか。それはiPad(第8世代)が、学校への導入や家庭での学習用と位置づけられており、前述の比較対象はそうした市場における競合だからだ。

新型コロナウイルスの感染防止のため、オンライン学習がより取り入れられるようになり、世界中で学習向けの端末の需要が高まっている。アップル自身も2020年第3四半期決算で、iPadの売上高を前年同期比31%成長させ、手応えをつかんだばかりだ。

特に日本市場においては、GIGAスクール構想で、小中学校の生徒1人1台のコンピューター環境を整備する市場の拡大も意識されている。Apple Pencilやキーボードなどのオプションも必要になるが、ロジクールなどのサードパーティー製品を使えば、トータルで4万5000円に収まる。これはGIGAスクール構想の補助金額に相当する。

iPadは品質の高いカメラを搭載し4Kビデオ撮影を実現、さらにそのビデオを端末上で直接素早く編集することができる性能を保持している。iPadを導入した自治体の教員からは、コンピューターを生かした新しい学びを実践しようとしており、そのパートナーとして最適であるという意見が、次々に取材で飛び出してくる。

iPadが変えている学びの現場

大阪府枚方市で子どもの学びの未来を設計している学校教育部教育指導課長の嶋田崇氏は、ICT活用のゴールに、「個別最適化」「情報活用能力」「主体的、対話的」を掲げていた。


大阪府枚方市の中学校でのiPadを用いた授業。天気予報を作る理科の授業で、生徒が自分のiPadを用いて発表している(筆者撮影)

そうした中でiPadを選定し、デバイスの使い方の習得をほとんどスキップしながら、ビデオやプレゼンテーション、他市との交流などを実現できた点を、iPadのメリットとして挙げた。

例えば理科の授業では、独自の天気予報番組を制作する過程で天気図や実際の天気への影響など、必要な知識を学んでいくグループワークを実現した。映像やアニメーションを各自のiPadで作り、それらを1つのiPadに集めて編集し、ナレーションを加える。そんな作業が当たり前のように行われた。

また、生徒同士で熊本市と防災の情報で交流したり、JAXAの職員への遠隔職業講話を実現したり。教室を飛び出した学びを手軽に行える、フットワークの軽さが光る。


神奈川県鎌倉市の小学校で行われているiPadを用いた授業。グループ学習では鎌倉市の魅力をビデオにまとめて発表していた(筆者撮影)

神奈川県鎌倉市教育委員会教育指導課長の石川眞喜氏は、写真やビデオの取り扱いが強い点、またセルラー版を選択したことを強みだという。小学校6年生は、鎌倉市の魅力を1年間かけた取材から映像にまとめる学習を進めており、iPadで市内を取材する際にも、どこでもインターネットに接続できるセルラー版のiPadが役立っているという。

石川氏は「子どもたちがクリエイティブなことをやってみたいときのツール」だと位置づけている。またセルラー版の採用で、持ち帰った際に家庭にWi-Fi環境がない場合でも、心配せず学びの環境を維持できる。

今後、新型コロナウイルスやインフルエンザによる学級閉鎖や休校が起きたとしても、学びを止めず、安心して学習が続けられるインフラともなるのだ。

これらの話は1世代前のiPad(第7世代)での話であり、すでにそうした学びの変化をもたらしてきた。

アップルが9月15日に発表したiPadは第8世代になり、プロセッサーがより強化されたことで、これまで行ってきたビデオ編集の作業などはさらにスピードが上がり、品質が高まることが期待できる。

しかし、それだけではない。iPad(第8世代)には、エントリーモデルのiPadとして初めて、ニューラルエンジンと呼ばれる機械学習処理のためのコアが採用されたのだ。A12 Bionicは、1秒間に5兆回の処理ができる。

機械学習処理は、Siriなどの音声アシスタントに話しかける際の音声認識や、カメラ使用時の被写体やシーン分析と写真の最適化などに用いられているほか、サードパーティアプリーでも、利用が進んでいる。

機械学習処理を行うには、膨大な単純計算を行う必要があり、これを高速かつ低消費電力で実現するために、アップルが自社設計するApple Siliconには2017年からニューラルエンジンが搭載されるようになった。iPhone Xに採用された顔認証「Face ID」も、このニューラルエンジンの演算能力を背景に実現している。

機械学習を教育に導入する未来

学校の環境で重宝されているiPadに、機械学習処理に長けたニューラルエンジンが入ることで、教育向けのアプリや体験が大きく変化する。

例えば前述の枚方市では、iPadを校庭に持ち出し、体育でも活用しているそうだ。例えば走り幅跳びをスローモーションで撮影し、フォームと飛んだ距離を見ながら、より遠くに飛ぶための改善を行ったりしているという。

ここに機械学習処理が加わるとどうなるか? 横から撮影するだけで走り幅跳びの飛距離がわかったり、走り込むスピードや、踏切から着地までの秒数を自動的に計測してくれるようになる。より多くのデータがもたらされると、なにがよい結果を生むのか、理解しやすくなる。

あるいは、バスケットボールの授業で、シュート練習を撮影しているだけで、何回投げて何ポイントゴールを決めたのかを自動的に計測できるようになる(「HomeCourt」アプリにより実現)。

現在のiPadが手軽にビデオ会議やビデオ編集を授業に取り入れているように、将来、モーションキャプチャーやARを教室に持ち込むことができ、教員はより多くのオプションから、学習にとって効果的な体験を取り入れることができるようになる。

アップルはiPad(第8世代)に、2世代進歩したプロセッサーを搭載しながら、価格を据え置いた。もちろんそれは教育現場や家庭からのニーズに応えるものだが、そこに大きな可能性を吹き込むことになった。このインパクトが実現するには数年かかるかもしれないが、iPadは現在教育現場で4〜5年の耐用年数で使われており、機械学習×教育の有効性が顕在化するとき、大きな差を生み出すだろう。