結婚後に露呈した金銭感覚の違いは、お互いの育った環境が影響するだけに溝を埋めるのは難しいのかもしれない……(写真:rainmaker/PIXTA)

最近の婚活業界では、“コロナ婚活”“コロナ婚”の動きも出てきている。新型コロナウイルスの蔓延によって、人と会うことや活動場所が制限されたことで孤独を感じ、家族やパートナーの大切さを再認識し、婚活を始めたり結婚を決意したりした人たちが出てきたからだ。しかし、それとは逆に、コロナによって多くの時間をパートナーと共有したことで、決定的な価値観の違いを感じて破局や離婚にいたったカップルもいる。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、「コロナによって離婚を決意した女性」の話をつづる。

コロナで金銭感覚の違いを思い知らされた

8月の末、外資系に務めるという伊保子(仮名、38歳)が、入会面談にやってきた。3つ年下の義太郎(仮名、35歳)と1年半結婚をしていたが、緊急事態宣言明けに離婚。この度、再婚に向けて婚活をしたいという。


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「今住んでいるマンションは、私が頭金を出して買ったものだったので、離婚後は彼が出ていくことになりました。

6月に離婚届を提出したのですが、次に住む場所が見つかるまではそのまま同居していたんです。8月にようやく出ていったので、私も心機一転、婚活を始めることにしました」

離婚の原因とは、いったい何だったのか?

「金銭感覚の違いです。それは、お付き合いをする当初から感じていたことですが、緊急事態宣言期間中、四六時中一緒にいて、あることが起こり、もう歩み寄って暮らしていくのは無理だと思うようになりました」

義太郎とは、婚活アプリで知り合った。彼の年収は300万円弱、伊保子は500万円弱。彼の年収が少ないことは気になったが、2人の稼ぎを合わせれば、世帯年収は800万円になる。ならば、普通に暮らしていけると思っていた。ところが結婚をしてみると、異常なくらいお金を出費することに細かい人だとわかった。

「最初は彼が好きだったので、私も言われるがまま、お金をなるべく使わない生活をしていました。でもそういう生活がだんだん息苦しくなっていって。お金は貯まっていくけれど、心が貧しくなっていくのを感じたんです」

とはいえ、好きになって結婚したのだから、なんとかうまくやっていこうと伊保子なりに彼の金銭感覚に合わせて、節約を続けていた。

お金に対する考え方や使い方は、育ってきた環境が大きく起因するのだろう。

義太郎には頼る身内がなく、もう何年も天涯孤独の生活をしていた。物心ついたときに母はおらず、父は日々酒を浴びるほど飲み、家には寄り付かず、父方の祖父母に育てられた。お金には余裕のない幼少期、学生時代を過ごしたようで、ぜいたくを知らずに大人になった。

一方、伊保子はごく一般的な家庭に育ったが、両親ともに教育熱心で、高校を卒業後は海外の大学へ留学した。帰国後は、語学を生かした仕事につき、やりがいを感じながら楽しく仕事をしてきた。しかし、気づくと30代も半ばになっていたので、結婚をして子どもを授かり家族を築きたいと始めた婚活だった。

「大学時代に、いろんな国から来ている留学生と出会って、世の中にはさまざまな考え方や価値観があるのだと感じたし、1人ひとり顔が違うように、性格も違っていいのだと思っていました」

どんなタイプの人も個性として受け入れる。だからこそ、義太郎を好きになったのかもしれない。

「彼はそれまで会ったことがないようなタイプだったんですよ。結婚前のデートは、公園に行ったり、大自然の中を散歩をしたり。お金を使わないことをこんなにも楽しめる人を見たのは初めてだったんです。それが逆に新鮮でした」

出会いから半年後に、結婚を決めた

親しくなって、お互いの家を行き来するようになった。伊保子は、保護猫を1匹飼っていたのだが、遊びにきた義太郎に飼い猫がとても懐いた。

「彼の育った祖父母の家に猫が2匹いたようで、扱いにも慣れていました。動物好きに悪い人はいないと思ったし、猫と彼が楽しそうに遊んでいる姿を見て、ますます彼を好きになりました」

そして、婚活アプリでの出会いから半年後に、結婚を決めた。住む場所の話になったときに、「賃貸で毎月家賃を払っていくなら、買ってしまったほうがよいのでないか」ということになり、伊保子が貯金から頭金を出して、2DKのマンションを購入した。

ところが、一緒に生活を始めてみると、すてきだと思っていたはずの彼の考え方やライフスタイルに、少しずつ違和感を覚えるようになった。

「日用品も雑貨も、最低限の物しか持っていないんです。服や下着は、ヨレヨレになっても平気で着ている。靴下に穴があいていても、靴を履いてしまえば見えないからと平気で履いている。私自身、服や雑貨にお金をかけるほうじゃないんですが、ヨレヨレになったり穴が開いたりしたらさすがに捨てるので、それを平気で身に着けていることにもびっくりしました」

さらに新居の家具選びも、驚きの連続だった。

「新しい家なのだから、家のサイズに合わせて家具も新調したいじゃないですか。今は安くても品質がよくておしゃれな家具がたくさん売っていますしね。ところが彼は、『家具はこれまで使っていたものでいい』という考えでした。

自分がアパートで使っていた、ボロボロの丸いちゃぶ台を新居に運び入れようとしたときには、さすがに反対しました。そのほかの家具も、“売ります、あげます”という地元のサイトで、タダでもらえるものを探していました」

せっかく買った新築マンションの部屋には、中古の家具が置かれ、新婚気分も吹き飛んでしまった。

緊急時代宣言期間中に大げんかが勃発

義太郎は、フリーのカメラマンだった。営業活動を自らしないと仕事は増えていかないのだが、「多くのお金を稼ぐ」という気持ちはもともとなく、「生活できるための最低限のお金があればいい」と思っていたので、週に3日か4日しか働かず、残りの日は家にいて、猫と遊んだり、ボードゲームをしたりしていた。それが自分にとっては、「快適でストレスのない生活だ」というのが自論だった。

「最初はそうやって飄々(ひょうひょう)と生きている彼に魅力を感じていたはずなのに、一緒に暮らすようになると、イライラを感じるようになりました。そして、何より嫌だったのが、私のお金の使い方にいちいち口出しをしてくることでした」

生活費を折半して同額を出し合っていたので、とにかくお金の使い方には細かかった。あるとき、ドレッシングが残り少なくなっていたので、新しいドレッシングを買ってきて冷蔵庫にしまおうとすると、それを見つけた彼が言った。

「まだ使い切っていないのに、なんで新しいのを買ってくるんだよ」

たかがドレッシングのことなのにすごい剣幕でまくし立てるので、驚きながらも伊保子は言った。

「だってもう残り3センチくらいだし、違う味のドレッシングを買って、そのときそのときで違う味も楽しみたいじゃない」

すると義太郎は言った。

「食費は、俺も半分出しているんだから、無駄遣いするな。俺はいろんな味のドレッシングなんて食べたいと思わない」

ドレッシングだけではなかった。いつもスーパーで買っているいちばん安い納豆を、有機大豆の60円高いものにしただけで怒られた。塩や砂糖や醤油などの調味料から肉や魚や野菜の食材に至るまで、いちばん安いものを買うことが当たり前になった。

一緒に暮らしていくうちわかったことなのだが、お金に苦労をして育った義太郎は、お金を無駄に使うことは、「もったいない」という感覚の前に、恐怖を感じているようだった。

そして今年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大が騒がれるようになり、フリーのカメラマンの義太郎の仕事は、みるみる少なくなっていった。3月後半からは、まったく仕事の依頼がなくなった。

そんな中でも義太郎は焦る様子もなく、毎日家でゴロゴロして、テレビを観たり、ゲームをしたり、猫と遊んだりしながら過ごしていた。

一方で伊保子は、在宅のリモートワークとなり、週に1、2回はテレビ会議があり、忙しく働いていた。その中で、これまでどおり家事を伊保子がこなしていた。

ティッシュを買うのは無駄遣い?

あるとき、伊保子がスーパーに買い出しに行ったら、入荷されたばかりのティッシュを店員が棚に並べていた。緊急事態宣言期間中は、ティッシュやトイレットペーパーの類は品薄だったので、それを買おうとして、すでに数人の客が待機していた。買えるのは、一家に1箱。伊保子も買っていこうと、列に並んだ。買って帰ると、それを見た義太郎が言った。

「まだティッシュは家にストックがあっただろう。なんで買ってきたんだよ。どうしていつも無駄遣いをするんだ!」

仕事がなくなってからというもの、いつも家でゴロゴロしている義太郎にイライラを覚えていた伊保子は、売り言葉に買い言葉で、強い口調で言い返した。

「いつかは使うものなんだから、無駄遣いではないでしょう」

すると、スーパーの袋とティッシュの箱で両手が塞がっていた伊保子の頭を手でピシャリとはたきながら、義太郎が怒鳴った。

「俺の金を1円たりとも無駄に使うことは許さない!」

伊保子は、そのときのことを私にこう話した。

「グーで殴られたわけではないし、大して痛くはなかったんですよ。でも、300円弱のティッシュを買ってきただけで、頭をたたかれる。私の存在価値ってなんなのかなって、すごく見下された気がしたんです。思わず涙がこぼれました」

そのことがきっかけになって、それまで必死で頑張ってきた緊張の糸がプツリと切れた。

「無駄にお金を使う必要はないと私も思っています。でも、時には少しぜいたくをしておいしいものを食べたり、楽しいお酒を飲んだり、旅行に行ったりすることは、心を豊かにする。そういう時間も大事だし、子どもが生まれたら家族で旅行にも行きたい。でも、彼と夫婦でいる限り、そうしたことはすべてが無駄遣い。絶対にできないと思ったんです」

この出来事の後に、伊保子は義太郎に離婚を切り出した。

お金の使い方には人間性が表れる

伊保子は、私にこうも言った。

「考えてみると、彼と暮らしていた最後の半年は、軽いうつ状態だったと思います。

年明けに会社であるイベントの予算組みを任されたことがあったんですね。結局そのイベントはコロナで中止になったんですが、みんなが食べるお昼やお菓子の予算組みをしているときに、私は無駄がないように細かく計算をしていたら、上司から『そんなケチケチしないで、もっと使っていいですよ』と言われたんです。普段の生活がケチケチしていたから、それが出ちゃったんだんだなと、自分で苦笑いしました」

さらにこう続けた。

「彼との結婚で、知らぬ間に心まで貧しくなっていました。離婚してから、友達と食事に行って、楽しい会話をしながらおいしいお酒を飲む。そんな時間が、どれほど心を豊かにするのかというのを改めて実感しました」

離婚届けを出したものの、次の家が見つかるまで2カ月間居候をしていた義太郎だが、どうもその間に、新しく付き合う女性ができたようだった。そして、そこに転がりこむことが決まり、出ていくことになった。

少ない荷物を運び出すときに、彼がボソリと言った。

「伊保子は、かわいそうだね。お金がないと生きていけないんだから」

お金がないと生活できないと思っている伊保子を、彼は逆に哀れんでいるような物言いだった。

お金の使い方やお金に対する考え方は、本当に人それぞれだ。稼いでもいないのにブランドものを買いあさって散財してしまう人もいる。義太郎のように、ぜいたくはしたくない。生きていく最低限のお金があればそれで幸せを感じられる人もいる。

お金をどう使うかは、その人の生き方を写す鏡ではないだろうか。お金は人を幸せにもするし、不幸にもする。結婚するときは、お金に対する考え方や価値観が一緒のパートナーを選んだほうがいい。