人手不足が続く、介護業界。解決策はどこにあるのでしょうか(写真: PHOTO NAOKI / PIXTA)

介護業界では、働き手が足りず、介護施設がオープンしても総居室の3分の2しか運営できなかったり、サービスを続けることが難しくなってしまう事業所も珍しくない。

介護業界の人材不足の原因は、「採用が困難」が最も多く、次いで「離職率が高い」ことが要因となっている(介護労働安定センター「介護労働実態調査」)。

2017年の離職率は、全産業平均では14.9%(厚生労働省「雇用動向調査」)であるのに対し、介護業界は16.2%(「介護労働実態調査」)と、やや高い程度である。ただし、入社3年未満の離職率は、介護業界では約73%(「介護労働実態査」)と高く、これを下げることが大きな課題となっているのだ。

そんななかで、特別養護老人ホームなど高齢者福祉(介護)事業を総合的に手がける「合掌苑」(東京都町田市、売上高:27億円、職員数548人)の離職率は、10年以上前は同業他社並みだったものの、ここ数年は5%前後と業界平均の3分の1以下まで改善している。

その要因について、同施設の長村将宗マネジャーは、〕念の共有化の徹底、 ▲灰潺絅縫院璽轡腑麥未鯀やし、人間関係をよくする、 Fきやすい環境の整備、せ勸蕕道抉腓卜呂鯑れる 、ツ蠱緡┐よい採用方法の導入、などの取り組みを挙げる。

これらの中で、離職率を下げた大きな要因で、かつ同業他社にはあまり見られない特徴的な取り組みはとい澄それぞれについて、取り組みをみてみよう。

シングルマザー支援を充実させる

まず、の「働きやすい環境の整備」に当たっては、働きやすい環境を「働きづらい人が働ける職場環境」と定義し、働きづらい人としてシングルマザーに着目した。

そうした視点で職場環境を整備していこうとしたとき、まず問題だったのは長時間労働だった。介護業界、とくに24時間型の高齢者施設では、忙しく働く同僚をみかねて、自分の勤務時間を超えてつい手伝うことが当たり前という空気があったりする。しかし、それでは、シングルマザーの子育ての妨げになったり、シングルマザーでなくても疲労がたまってしまうばかりだ。

そこで合掌苑では、当初予定の出勤時間と実際の出勤時間の差、当初予定の退勤時間と実際の退勤時間との差を毎月、職員ごとに集計した。差が15時間を超えた職員は社内報に実名で公表することにより急速に減少し始め、2018年度には平均残業時間が2.1時間にまで減った。「この時間には移動の時間なども含まれますので、サービス残業はほぼなくなりました」(長村マネジャー)。

さらに合掌苑では、シングルマザーの職員も働きやすいように、夜勤専門と日勤専門に完全分離した。勤務体系は3日働いて4連休の後、4日働いて3連休とした。なお、夜間専門の人は、既存の職員とは別に募集をかけている。

夜勤と日勤を分離させる

「従来の、夜勤を行って1.5日休みというローテーションだと、時差ボケみたいに身体のリズムがおかしくなり、ある程度の年齢になると長く続けられなくなってきます。新しい勤務体系だと、連休中に身体のリズムを整えられますので中高年齢者でも働けます」(長村マネジャー)。

また、シングルマザー向けの特別支援策としては、次のようなことも行っている。

・「子供手当」は、18歳まで1児につき月1万5千円だが、シングルマザー・ファーザーには、倍額の3万円を支給。
・「子供の看護休暇」は、法定は、小学校入学までの子供1人につき5日だが、さらに充実させて、中学校入学までの子供1人につき10日まで有給で取得可能。
・「企業内託児室」を設置。平日は、保育園が終わる時間から夜10時まで(遅番勤務終了:夜9時30分)、日曜・祝祭日は終日、子供を預かる。利用料は無料で、小学6年生まで利用可能。

上記のうち、「子供の看護休暇」の取得率はほぼ100%。「託児室」は30人を超える子供が利用しているそうだ。

合掌苑以外でも、離職を防ぐ独自の取り組みをしている企業がある。さんわが運営する住宅型有料老人ホーム「シルバーヴィラ向山」(東京都練馬区、116床、介護職員数71人)の、2019年度の介護職員離職率は5.6%と、業界内でも低い。

そのうちの理由の1つが永年勤務の推進だ。「永年勤務の推進」というのは、「定年を設けていない」ことや「病気・怪我などで長期間休んでも復職できる」ことを指す。

「定年を設けていない」のは、「働いていたほうが健康でいられます。医者にかかる回数も減り、社会コストも下がります。税金を払い続けて健康を維持できれば、日本にとってこんなに良いことはありません」という岩城隆就社長の考え方による。

定年は設けていないが、70歳を超えるとフルタイムで働くことはきつくなるため、勤務日数を週3、4日に減らし、非常勤として働き続ける。非常勤になると、常勤に比べ賃金を下げる介護事業者がほとんどだが、同ホームでは、同一賃金・同一待遇としている。その結果、70歳を超えても半分以上の人が働き続け、現在働いている職員の最高年齢は80歳だという。

また、離職率が低いがゆえの、職員数の多さも、さらに離職を防ぐ要因になっている。介護業界における職員配置数は、要介護者3人対職員1人というところが多い。これに対し同ホームでは、1.7人対1人にしているが、「実質的には、1.5人対1人」だという。

同ホームは、住宅型有料老人ホームなので外部の訪問介護サービスやデイサービスを利用しており、これが0.2人分に相当しているそうだ。

キャリアアップできる環境も大切

このように両施設では、さまざまな取り組みをしているが、課題もある。両施設とも新しい取り組みが多いがために、運営方法に慣れるまで時間がかかってしまう職員も出てきてしまう可能性もある。現場、そして運営する側がしっかりマネジメントできるような体制作りがより必要になってくるだろう。

また、定着率がよいゆえに、キャリアアップなど、若手が希望したポストになかなかつけない場合もあるかもしれない。若手でもさまざまな経験を積めるよう、一緒にキャリアプランを考えることも大切かもしれない。

離職率を下げると同時に、職員の意識もさらに向上させられるような、コミュニケーションの取り方も、今後は重要になってくるだろう。