スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE (13)

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 男子バレーボールの新星、西田有志。東京五輪の延期が発表された時の心情や目標を語った前回に続き、自粛期間中にしていたことや、チーム練習が始まって感じたこと、さらには柳田将洋や石川祐希といった日本代表の先輩たちについて聞いた。


ジェイテクトSTINGSのエースとしてVリーグ連覇を狙う西田

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 大活躍した昨年のW杯の勢いそのまま、西田有志は「V.LEAGUE Division1」でジェイテクトSTINGSを創部以来の初優勝に導き、MVPを獲得。そのまま東京五輪へ......となるはずだったが、優勝を決めた試合(2月29日)から1カ月足らずの3月24日に延期が決まった。

 さらに、4月に入って緊急事態宣言が出されたことで、ナショナルトレーニングセンターで行なっていた日本代表(男子)の合宿が中断。チーム練習も控えざるを得なくなった。その自粛期間中、西田はどんな生活をしていたのか。

「バレーボールができず苦しかった中で、やれることを一生懸命探しました。家の中でできるトレーニングもしましたが、チームの体育館を『個人でなら使ってもいい』としていただいたので、かなり鍛えることができました」

 もともと体脂肪率が低かった西田だが、この時期は5%まで落ちたという。

 また、自粛期間中にはSNS上の「バレーボールクイズラリー」という企画にも参加。その最後を任された西田は、インスタグラムから「今バレーボールのFIVB記録の中で一速いサーブは何キロでしょう」(原文ママ)という問題を出題した。すると、その記録(132キロ)を持つイタリア代表のエース、イヴァン・ザイツェフがこの投稿を取り上げて「マイフレンド」とコメントし、バレーファンがザワついた。

「リーグ優勝したあと、しばらくしてザイツェフさんから『優勝おめでとう』というダイレクトメッセージが来たんです。そこから『来季はどこでやるの? 今は何をしているの?』といったやりとりをしました。だから、クイズラリーが回ってきた時に『世界でサーブの最速の記録は?』というザイツェフさんに関するお題を出してみたんですが、自身のインスタグラムで取り上げてくれて『マイフレンド』とコメントもくださった。すごく嬉しかったですね」

 そういったSNSでの発信や、トレーニング以外の時間は掃除や料理などもするようになり、「バレー以外のことと向き合う時間ができました」と振り返る。一時期は「自宅カラオケ」にもハマった。ジェイテクトの主将、本間隆太とは「カラオケに行きたいね」とメッセージを送り合ったそうだが、実現は難しい。そのため、ゲーム機のカラオケ機能を使って熱唱したという。

「騒音対策をして、ひとりで歌っていました。ブルーハーツさんの『人にやさしく』とかを、思い切りでかい声で(笑)。けっこうストレス発散になったと思います。家事なども、今までは遠征と練習の繰り返しで家にいる時間が短かったので、家の中で集中して何かに取り組めたのはよかったですし、気づきもありました」

 その気づきとは、掃除をした時のこと。風呂場のカランなど、これまで手をつけていなかったところまできれいにすると、大きな満足感を得ることができた。自宅がきれいじゃない時はトレーニングに集中できないことに気がつき、より丹念に掃除をするようになったという。

「そういった家のことなども全部、バレーボールにつながるのかなと。これまでにはない競技との向き合い方でしたし、その中で『バレーボールをやりたい』という気持ちを取り戻すことができました」

 やはり当初は、「五輪に出場する」という目標が遠ざかったこと、ボールを使っての練習ができないことに戸惑いもあったようだ。

「目標がいきなり目の前から消えて、そういった時の気持ちをどうコントロールするかは、初めてのことでしたから。(中断された)4月の代表合宿のあと、2週間くらいボールに触れなかったのが、一番きつかったかもしれません。

 でも、いろいろ考えて、『この時間を無駄にしたくない』と思いました。バレーができないことをプラスに考え、過去のリーグのデータをたくさん見たり、家でバレー以外のことをやったり。そのうちに『やっぱり自分はバレーボールがやりたいんだな』という気持ちが湧いてきましたし、『もっと上に行こう』と思うようになりました」

 10月17日に開幕する今季のV.LEAGUEでは、ファンが楽しみにしている試合がある。4季ぶりに日本でプレーすることになった、日本代表の主将である柳田将洋(サントリーサンバーズ)との対戦だ。西田は、柳田と別チームで戦うことが初めてになるが、「特別に意識してはいけないと思います」と話す。

「サントリーはマサさん(柳田の愛称)個人で戦っているわけではないですから。マサさんと自分がどういった影響をチームに与えることができて、どういう試合展開になるかはすごく楽しみですけどね。個人で戦うのではなく、チームで勝つことを忘れてはいけないと思っています」

 それでも、5月に行なった柳田との合同インスタライブでは、柳田から「お前のサーブ、絶対Aパス(セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ)で返す」と宣言された。そのことについて尋ねると、西田は次のように答えた。

「個々の選手を狙うことは、それができる技術の証明でもありますね。チーム戦術に合っているようだったら、もちろん(柳田を)狙わせていただきます(笑)」

 一方で、日本代表の絶対エースである石川祐希は、今季もイタリア1部・セリエAでプレーすることを決めた。シーズン初戦でいきなり試合のMVPに選ばれる活躍を見せたが、パドバからミラノへの移籍を発表した6月10日当時は、リーグがどのように開催されるかも不透明だった。

 そういった状況で石川が下した決断について、西田はどう思ったのか。

「僕は驚かなかったですね。祐希さんは常に高いレベルのリーグにいることを選ぶだろうと思っていましたから、ミラノに行かれると聞いて『やっぱりな』と。常に挑戦し続ける姿がすごくかっこいい。そういう点で、自分はいつも祐希さんのことを信じています」

 日本で互いを高め合うことになった柳田。イタリアで挑戦を続ける石川。2人と共に世界と戦うことになるのは、来年4月まで続く今季のリーグが終了したあとのことだ。新たな形でバレーと向き合い、リーグ連覇を目指して自らを高める西田は、それまでにどんな成長を遂げているだろうか。

(第14回につづく)