訪問しない営業で成果を出す顧客獲得の新手法
オンライン・セミナーを実施するまでにどのような目標設定や戦略を立てるべきか紹介していきます(写真:polkadot/PIXTA)
新型コロナ感染拡大で、「オンライン・セミナー」を営業やマーケティングに活用する企業が増えています。
早稲田大学で社会人講座を企画する高橋龍征氏の著書『オンライン・セミナーのうまいやりかた』をもとに、ターゲットに刺さるセミナーの作り方を説明します。
対面の営業訪問やマーケティングイベントの開催がやりづらくなり、最近では、複数の見込み顧客と双方向のコミュニケーションを取れるオンライン・セミナーをうまく活用する事例も増えているようです。
突然、上司から「オンラインの施策を試してみよう」という指示があった場合に備え、どうすればビジネスの目的を達成できるオンライン・セミナーを作れるかを、わかりやすいステップで解説したいと思います。
最初に詳細なシナリオを描く
具体的にイメージできるように、企業向けSNSマーケティングツールの会社と仮定しましょう。ある日、マーケティング責任者からあなたに「顧客獲得につながるオンライン・セミナーを企画するように」との指示があった場合、あなたは何をすることから始めますか。
私はまず、目標を定め、ゴール達成のシナリオを描くことから始めることをお勧めします。具体的には以下の4つを考えます。
(1)ターゲット
(2)最終目標
(3)目標達成に至る全体シナリオ
(4)セミナーの達成目標
仮定した会社であれば、ターゲットとなる「SNSマーケティングの予算がある大手企業の担当者」が、「自社のツールを導入してくれること」が最終目標となるでしょう。
そこに至るシナリオとして、「自社商品(SNSマーケティングツール)を知ってもらう→ニーズをヒアリングして解決策を提案する→予算を取得してもらう→自社に発注してもらう」という流れを想定します。その流れの中でオンライン・セミナーでは、「自社のツールに興味あるターゲットに参加してもらい、詳細を説明して効果を認めてもらい、個別商談につなげる」ことをゴールとします。
ここで気をつけたいのが、セミナーの名称を「SNSの活用手法」のようなぼんやりしたものにすると、ターゲット以外の、SNSで発信をしたいと考える個人やSNSをビジネスに活用しようとする中小企業などがセミナーに申し込んでしまうことです。ターゲットはあくまでも、大企業のSNSマーケティング担当者。それ以外の参加者が増えても、目標とする商談数にはつながりません。
理想はターゲットのみが参加する状態です。そのため、案内文書には、ビジネス用途であることを明記し、大企業の成功事例を多く入れるなど工夫する必要があります。このような案内文書を受け取れば、個人や中小企業は「これは私のためのものではないな」と感じ、逆にターゲットは自分の課題解決に役立つイメージが具体的になるでしょう。
目標を具体化し、ターゲットを定め、自社商品がターゲットの課題解決につながるよう整合させることが、成果につながるオンライン・セミナー企画の肝となるのです。
見た瞬間に価値がわかるタイトルをつける
誰にどのような内容をどう届けるかが固まったら、次は、ターゲットに刺さる案内文の作成です。案内文に必要な条件は以下です。
(1)ターゲットが「これは自分に価値があるものだ」と反射的にわかる
(2)ターゲットが「これは受けるに値する」と判断できる
この際、何よりも大事なのはタイトルです。セミナー案内はFacebookなどのSNS、メーリングリスト、Peatix(ピーティックス)やEventRegist(イベントレジスト)のようなイベント管理ツールで目にする人が多いと思います。開催するオンライン・セミナーは、多くの流れていく情報のなか、たまたま運よく目に留めてもらう必要があるのです。
よってセミナーのタイトルやサムネイルは、見た瞬間に「あ、これは自分のためのものだ」と目を引くものでなければすぐに流されてしまいます。私はこれまで、400件ほどのセミナーを企画していますが、実際、広告も打たないのに次々と申し込みが入る「大ヒット」タイトルはそれほど多くはありません。いくつか実例を挙げると以下のようなものになります。
・Instagramマーケティング“即効”実践講座
・中の人に聞く、ハイプサイクルの本当の読み方
・価値創造とアート 〜高収益企業の創業経営者にきく実践事例
・デザイン×経営の最先端
・ハーバード・デザイン大学院が教える最先端の事業創造メソッド
・起業のダークサイド
・ICO超入門
「大ヒット」には、時流との合致、希少性、講師の知名度など、さまざまな要素が絡みますが、タイトルに共通して必要なのは、見た瞬間に「何について語られるのか」と「自分にとっての価値」が明確なことだと思います。
最初につけるタイトルは仮置きくらいのもので、中身を詰めている間に変わることもよくあります。最も重要で難しいものなので、すぐにいい案が出てくるものではありません。よいタイトルをつけるには、数をこなすことに加えて、世の中にあふれるイベントや書籍のタイトルでいいものがあればメモを取り、ストックして参考にすると役立つことがあります。
ターゲットの関心に沿った案内文を作る
タイトルやサムネイルを見て「これは自分に役立ちそうだ」と思ったらクリックしてイベントのページを開くでしょう。読み手は案内文を以下のような流れで読んで、参加するかを判断します。
(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
タイトルでターゲットに「これは自分に役立ちそうだ」と思わせたなら、次にセミナーの概要を端的に伝える一文を書きます。例えば「Instagramの機能、ユーザー、ビジネス活用の最新事情をご紹介しながら、企業のInstagram運用に必要な基礎知識をレクチャーします」といった内容です。
さらに本文で、それを補強する材料を自然な流れで並べていきます。具体的に言うと、実績や方法論、セミナー講師の力量などです。ここで注意したいのが、自分がアピールしたいことを羅列するのではなく、ターゲットの関心や価値に沿って構成することです。
例えば、講師にフォロワーが何十万人いたところで企業のSNSマーケティング担当者にとって価値はないでしょう。「講師がこれまで担当したクライアント50社すべてで、フォロワーを1000以下から10万以上に増やし、SNS経由の売り上げを平均500%向上させた」といったほうが、ターゲットはそのセミナーに価値を感じられます。
ターゲットの関心や価値、伝えたいことを補強する材料、他社と比べた際の優位性はそれぞれ違いますから、自身で洗い出して評価し、自然な流れに並べて文章にします。
これもタイトルと同じで、一通り書き上げたうえで、全体の流れを見直し修正を重ねていきます。自分だけでは視点が偏るので、作ったものをターゲットに近い属性の人に見せて、フィードバックをもらうのも有効です。
このようにして戦略を立案し、案内文を作りますが、いきなり大々的にオンライン・セミナーを開催するのはお勧めしません。この段階ではあくまで「仮説」でしかなく、本当にターゲットに刺さるセミナーになっているかどうかがわからないからです。
案内を出してもターゲットには響かないかもしれません。想定外の層が数多く参加してくるかもしれません。狙いどおりの層がきても、内容が的外れだったり完成度が低かったりすれば、商談にはつながらないどころか、悪評を広げかねません。
最初は試作であることを許容したうえで真摯にフィードバックをくれるような、関係の出来上がっている既存顧客などに「試行版」として実施。参加者の発言を促したり、話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりするファシリテーションや資料の完成度を上げてから一般公開するほうが確実に成果が上がるでしょう。
上司との意識合わせも忘れない
これまで述べてきたように、大事なのはビジネスの目的を達成できるかどうかであり、目的に即したターゲットでなければ、何人参加者がいても効果がありません。
しかし、当事者はそれを理解していても、上司が「とにかく人がたくさん来るセミナーにすべき」と考えていることが往々にしてあります。そういう考えの人からすると、小さく試行する始め方や、ターゲットに絞った企画は地味で効果が出ないように思えます。
最初にきちんとシナリオを説明することも重要ですが、結果が何より説得力を持ちます。成約という最終ゴールに向けたKPIを定め、きちんと成果が出ていることを見せられるようにしておきましょう。パフォーマンスを事実に基づき適時共有していくと、その辺の誤解も徐々に解けていくと思います。
順を追って考えていくと、初めてのオンライン・セミナーといっても、ある程度ビジネス経験のある人にとっては、なんら特別なものではありません。気軽にチャレンジして損はないと思います。