作品応募の締め切りが10月5日(月)へと再延長されることが発表された「CREATIVE HACK AWARD」(ハックアワード)。そのキックオフとして『WIRED』日本版では、審査員たちによるウェビナーを3夜にわたって開催している。

「その作品に「意思表示」はあるか?:「CREATIVE HACK AWARD 2020」オンラインワークショップ第2回レポート」の写真・リンク付きの記事はこちら

第2回は、エンハンス代表の水口哲也、ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役の塩田周三、そしてイアリン ジャパン取締役/プロデューサーの笠島久嗣と、映像&ゲーム界の第一線で活躍する3人が登場した。その序盤からいきなり、前回も議題に上がった「ファイナリストに残る作品と、たどりつかない作品の違いは?」という質問が投げかけられた。

作品のなかの意思表示

笠島は、作品から製作者のヴィジョンが見えるかどうかが、審査を通過できるかどうかの分かれ目ではないかと話す。

「例え表現がつたなくても、ヴィジョンが見えているものはファイナリストに残っていると思います。上辺だけさらったような作品や、アイデアは面白いけれど深堀りされていない作品は、熱量が足りないのかもしれません」

そうした熱量を生むためには、まず作品のベースとなるアイデアを「ヒューマナイズ」しなくてはならないと、塩田は言う。「つまり、“自分ごと”にすること、咀嚼することですね。さらにその自分ごと化された部分が審査員の感覚に近かったり、ハッとさせられるものだったりすると、その製作者の味方をしたくなる作品になると思います」

水口もまた、作品から伝わる意思表示が大事だと話す。「そういう作品は、審査中に『あ、やられた』って思う。例えば、普通の映像として見始めたけれど、映像を観終わったときにようやく何がハックだったか気づくような、じんわり効いてくる作品です」

彼が例として挙げたのは、2013年に開催された第1回ハックアワードでグランプリを受賞した山田智和の「47 Seconds」だ。

「47秒に何の意味があるのかと思って観始めたら、渋谷の交差点の信号が変わる47秒の間に物凄いドラマをノーカットで観せられるわけです。日常の47秒の見方を変えるあのマジックには皆驚いたし、時間というものをすごく考えさせられる作品でした」

水口哲也|TETSUYAMIZUGUCHI
エンハンス代表。2001年、映像と音楽、そして振動を融合させたゲーム「Rez」を発表。その後、音と光のパズル「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)、Tetrisの共感覚+VR拡張版「Tetris Effect」(2018)など。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、2006年米国プロデューサー協会(PGA)より「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出。2017年米国The Game Award最優秀VR賞受賞(RezInfinite)。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、日本賞審査員、芸術選奨選考審査員、VRコンソーシアム理事などを歴任。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

二次元と三次元の間で

実はこの日の朝、フェイスブックのVR・AR技術発表会「Facebook Connect」でトークをおこなったばかりだった水口。発表会を観ていたという笠島からは、XR技術でエンターテインメントはどこに向かっているのかという質問が投げかけられた。笠島の質問に対し水口は、表現や体験の幅は広がるものの、それによって既存のメディアの価値が損なわれることはないだろうと答える。

「われわれは物理的なモニターやディスプレイが目の前にある生活に慣れきっていますが、XR技術によってそれらが消滅し、今度は空間のどこにでもモニターが出現するようになるわけです。そのモニターも二次元のものだけではなく、当然三次元のものもあります。これによって表現や体験の幅も広がりますし、『体験のシェア』も当たり前になると思います」

そうした新しい体験のなかには、例えば二次元の動画を再生し、そのままシームレスにその動画の世界に入り込むといったことも含まれるかもしれない。人間が三次元の世界に生き、感覚をフルに使い物事を体験して生きている以上、こうした動きは加速するばかりだと水口は話す。だからといって、既存メディアの価値がなくなるわけではない。「ストーリーテリングとしての映像作品の価値は、仮にそれが宙に浮いていようが、二次元であろうが三次元であろうが変わりません」

水口の話を受け、塩田はフォーマットにとらわれず、むしろ壊すことが大切だと話す。

「ぼくらはコンテンツクリエイターと呼ばれますが、コンテンツ(中身)には入れ物、箱があります。大概いちばん幸せになるのは、入れ物をもっている人たちで、これは歴史上ずっとそうです。そして、大体いちばん保守的なのも、入れ物をもつ人たちだと思うんですよね。でもそういう人たちに引っ張られていると、コンテンツクリエーターはめっちゃ悲しくなるので、われわれは箱自体も意識して、願わくばその箱の喪失に参画するとか、いろんな箱につながる意識をもつことが大切だと思います」

それをやってのけるのは、次の世代なのかもしれない。実際にARミュージックヴィデオなどの制作にかかわってきた笠島のチームも、二次元を超え、フレームや画角が存在しない三次元の表現を生み出すことに非常に苦労したという。「それを当たり前に超えてくる若い世代はどういう発想をするのか、と考えます。現実と3D空間の境目がない、ネイティヴな感覚をもっている人は、いまとはまったく違った発想のものをつくり出すのでろうと思います」

塩田周三|SHUZO JOHN SHIOTA
上智大学法学部国際関係法学科卒業。1991年新日本製鐡株式會社入社。1997年株式会社ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ立ち上げに参画後、1999年株式会社ポリゴン・ピクチュアズ入社。2003年代表取締役に就任し、海外マーケット開拓に注力。TVシリーズ制作や海外市場をターゲットにしたコンテンツ企画開発を実現する。一方で、Prix Ars Electronica(オーストリア)、SIGGRAPH(米)などの国内外映像祭の審査員を歴任し、2008年には、米国アニメーション専門誌Animation Magazineが選ぶ「25 Toon Titans of Asia(アジア・アニメーション業界の25傑)」の一人に選定された。2016年のアヌシー国際アニメーション映画祭では審査員を務める。米国育ち、趣味はバンド活動。PHOTOGRAPH BY KOUTAROU WASHIZAKI

コロナ禍とクリエイター

トークセッション後半の質疑応答では、映像やゲームの制作側に立つ3人に対し「コロナ禍で人々がゲームや映像コンテンツに触れる時間が増えているが、どう捉えているか?」という質問が出た。

水口は、多くの人に作品に触れてもらえるのがうれしいとした上で、それは人々の時間の使い方が変わったからではないかと話す。「自分もそうでしたが、去年まではみんなが忙しく生きていたなと思うんです。作品を体験して何かを感じる時間はなかったなとか、体を動かしていなかったなとか。今年は生活のペースが落ち着いた気がします」

長く若手の育成に力を注いできた笠島は、コンテンツをつくる機会や発表の場が増えていることを心から歓迎していると話す。「ビジネス的なところはいったん置いておいて、需要が増えているのは大歓迎だし、それだけ若手などチャンスを待っている人たちの選択肢が広がっているということでもあるので、本当にありがたいことだと思っています」

一方の塩田は、世界中にいる能あるクリエイターに平等にチャンスが来ているぶん、競争も激しくなっているとした。「人々の記憶に残るような作品をどうつくるか、エンゲージメントをどう高めるかという課題は大きくなっています」

またハックアワードの審査員として、自分の専門分野とそれ以外で審査の向き合い方に差はあるかという質問に対して、3人は「ほとんどない」と口を揃えた。

とはいえ、自分の専門領域の作品が出た瞬間に、審査が厳しくなったり、本質から離れて細かいところを見たりしてしまうかもしれないと塩田は話す。「過去の経験とか、過去作品に照らし合わせて見始めると、一周回っていまイケているとされているものにも拒否感が出てしまう。そういう意味でも多種多様な審査員の方が揃っていて、それぞれ違う視点でチェックアンドバランスが働くというのはいいことだと思います」

最後にパンデミックの年に開催されるハックアワードに際し、応募者へのメッセージを聞かれた3人。笠島が「新型コロナウイルスに関してはあまり意識しなくていいと思います。自然とにじみ出てくると思います」と答えると、水口も「パンデミックは黙っていても染み付いていると思うので、そのなかで出てきたアイデアを出し切ってみてほしい」と続けた。

塩田は「ハックアワードは今年のためにある」と話す。「これだけ根源的なことについて、全世界がほぼ同じタイミングで考えるような事象は人類史のなかでも初めてだと思うので、絶対に何か湧いてくるだろうと思います」