伝説の家政婦・タサン志麻さんに学ぶ!「気持ちがラクになる」料理術
家事の中でも、料理は特に手間がかかるもの。料理が得意でない方にとって、毎日3食分の献立を考えたり、栄養バランスを考えて料理を作るのは苦痛な場合もあるのではないでしょうか。特に子どものためと思うと、自分だけのために料理をするよりも気を遣います。
【画像】予約がとれない伝説の家政婦が教える「気楽なフレンチ流料理術」
でも、毎日必ずやらなければならない料理、そしてとらなければいけない食事なら、つらい思いをするのではなく、楽しみたいものですよね。
そこで、毎日の料理を仕事にしている家政婦のタサン志麻さんに、料理を楽しみ、気持ちをラクにするためのコツを伺いました。
「予約がとれない伝説の家政婦」の異名をもつタサン志麻さんは、6月にライフスタイル本『ちょっとフレンチなおうち仕事』を発売。自慢の自宅キッチンや、愛用の調理器具、すぐに実践したくなる簡単フレンチレシピなどを公開しています。
毎日の料理に追われて気持ちがつらくなっている方や、料理が楽しめない方にこそ手に取ってほしい1冊になっています。
塩での味付けがメインで実は簡単?家庭に取り入れたいフレンチのコツ
――本書では、忙しいときこそフレンチ、とおっしゃっていますね。
タサン志麻さん(以下、志麻さん):フレンチというと難しいイメージがあると思うのですが、家庭料理はほんとにシンプルなんですよ。
肉を焼いて煮込むだけ、とか、塩こしょうしてオーブンやフライパンで焼くだけ、とか。それに茹でた野菜を添えるとか、シンプルなものが多い。味付けも塩が基本なので、わかりやすいです。
――塩だけで、料理の味は変わるものですか?
志麻さん:塩の使い方次第ではものすごく味が変わります。どんなタイミングでどのくらい塩を入れるかによって変わるんです。
――そうなんですね。塩だけだと、やはり料理はラクなんでしょうか。
志麻さん:私は家政婦のお仕事で色々なおうちに行っていたので、そうすると調味料も味の好みも家庭によって全然違うし、火力の強さはもちろん、ガスなのかIHなのかとか、調理環境も違います。
中華や和食は調味料が多いので、レシピ通りに作っても味がぶれるんですね。フレンチの味付けの仕方は基本、塩なので、ブレにくい。自分の好みに調整しやすかったりするんです。
何より、失敗したときに修正しやすい。調味料が複雑だと、どこが悪かったんだろう?って気づけないかもしれないけど、塩だけだと、塩を弱くするか強くするかだけなので、自分好みの味にもっていきやすいんです。
フレンチばっかり作っているわけじゃないですが、忙しいときほどフレンチを作りますね。
――おすすめの塩はありますか?
志麻さん:仕事でいろんな塩を使っているので何のこだわりもないんですけど(笑)、いい塩ってミネラルを含んでベタッとしているじゃないですか。
メーカーは何でもいいのですが、状態がサラッとしているものがいいです。ぼてぼてした塩ってムラができやすいので、サラサラした焼き塩みたいなものがおすすめです。
料理教室を開くと、みんな塩使いがすごく雑だと感じます(笑)。フレンチのシェフの間では、塩は若い子にはやらせないって言われているくらい、塩を丁寧にやるとすごく変わります。
例えば、鶏肉に塩を振ってチキンソテーにするときに、肉が厚く盛り上がってるところには多めに振って、薄いところは少なめにするとか、そのくらい意識するだけでも変わります。
手軽にレパートリーを増やすコツはスパイス!
――塩以外に、おすすめの調味料はありますか?
志麻さん:塩以外には、フレンチでよく使うのはコンソメ。和食も中華も出汁があるじゃないですか。洋風の料理はコンソメが味のべースになるので。
他に便利なのはトマト缶。洋風の煮込みを作るときにあると便利です。
あと、スパイスって使い切れなくて香りが飛んじゃったり、気が付くと賞味期限が過ぎてるっていう方が多いんですが、いつもの料理の雰囲気を変えるのにすごくいいです。エスニックを作りたいときにも活躍しますね。
うちにあるのは、クミンとコリアンダーとチリパウダ―、カレー粉です。
例えばちょっとお肉にカレー粉をまぶしておいてから肉じゃがを作ると違う雰囲気になったり、お肉にチリパウダーをまぶしておいて、トマト缶を入れて肉じゃがを作るとエスニックな肉じゃがができたり。
肉じゃがって誰でもみんな作ったことがあると思うんですけど、いつもの肉じゃがにスパイスとかトマト缶を使ってやってみるだけでレパートリーも増えるんですよ。
――レパートリーがなかなか増えないというのは日々の献立を考える上の悩みだと思うので、スパイスでレパートリーが増えるのはありがたいです。
志麻さん:和の出汁をコンソメに変えて煮込んでみるだけでも全然変わりますよ。
私も、冷蔵庫を開けた瞬間に何百種類ものレシピを思い浮かべているっていうよりは、この肉をどういうふうに調理しようかなって思っているくらいなんですよ。焼くのか煮るのか、その中でトマト味にしようかなとか、カレー味にしようかなとか、それくらいで。
そう考えているほうがレパートリーも広がるし、肉じゃがとか決まったスタイルがあるものならそこに違うアイテムを足して違う味にするとか、それだけでいいと思いますけどね。
――じゃあ、レシピがあって、これを作りたいからこの材料を買ってこようというよりは、素材がありきでそのつど料理法を考えていく感じですか?
志麻さん:そうですね。買い物に行くと、入り口近くの野菜を通り越してまず、魚や肉を見て食べたいものや安売りしてるものを買います。焼こうかな、煮ようかな、揚げようかな、と考え、例えば今日は暑いからサッパリ食べたいな、などその日の体調や気分で調理方法を決めます。
そうしたら野菜のほうに戻って、あ〜これ最近食べてないな、今はこれが旬だな、とか、メインとの組み合わせを見て買う。
これ作るからこの材料買わなきゃ!って、帰り道にレシピのことで頭がいっぱいになる…なんていう話も聞きますが、それってけっこう苦痛ですよね。
レシピにこだわりすぎると楽しくなくなっちゃうので、そういうときはレシピから離れてもいいと思うんです。これを作らなきゃいけないってものはないと思うので、食べたいって思ったものを食べれられれば。
もっと自由に、レシピは牛肉だったけど鶏肉が安いから鶏肉で作ろうとか、料理を気楽に考えると楽しくなると思います。
手抜きとか時短料理とか、悪いようなイメージがありますけど、簡単な料理は楽しさにつながると思うので、みんなに楽しくラクに料理してほしいっていつも思っています。
――そういう考え方だと、毎日の献立で悩みすぎることもなくなりそうです。
志麻さん:私も、レシピで料理を覚えてきたわけじゃなくて、感覚で覚えているんですよね。このくらいの厚さの肉だったらこのくらいの塩をふるとか、そういう感覚を身につけるためにも、本当はレシピから離れた方がいいんです。
分量で料理をしちゃうと、はかった時点で安心して「なんでだろう」とか考えないですよね。それで結果おいしくなかったらもうこのレシピは作らない、となってしまう。
「弱火で30分煮込む」といっても、家によって火力も違えば、鍋の大きさによっても変わってきます。
弱火で30分かければいいのかというと実はそうじゃなくて、ボコボコ湧いているのか、ゆらゆらしているのか、とか状態を見るのが大切。30分たってお肉が柔らかくなっていて煮汁が1/3くらいになっていればOK、とか。
30分という時間が重要じゃなくて、家によってはその状態になるまで20分かもしれないし、40分かもしれない。そういうことがわかってくると、何かがないときはこれでアレンジしようとかそういうこともできるし、料理が楽しくなってくるんです。五感で料理すると楽しいんですよ。
失敗も全然していいし、自分の感覚で料理をして失敗すれば「もっとここをこうしよう」ってなると思うんですよね。私なんて失敗だらけですよ。食べるのは自分と家族くらいなんだから、失敗を恐れずもっと料理を楽しんでほしいなって思います。
料理やスイーツ作りのハードルが低いフランス人
――本書でも簡単に作れるデザートのレシピが載っていますが、フランスではお菓子作りもハードルが高くないものなんですね。
志麻さん:日本人のデザートを作る感覚って、すごくハードルが高いと思うんですけど、フランスの人たちはもっと気軽に作っているんですよ。分量も軽量カップではかるんじゃなくて、目分量だったりカフェオレボウルでざっとはかったりしています。
「失敗するかも」とか「ちゃんと作ろう」とかいうよりも、「楽しく作ろう!」っていう感じがあって。レシピも簡単なもの、子どもでもできるようなものが多いですね。
それってすごく大切で、子どもに「〇g量りなさい」って無理なので、「このくらい入れてね」って言うほうが伝わるし、楽しいですよね。楽しいって思えたら、好きな子はどんどん好きになって自分で作る。料理が苦手な人も同じで、難しすぎると継続しないんです。
コロナの自粛のときにみなさんお菓子やパンを作ってましたよね。そうやって続くほうがいい。定期的に続けていると、男女関係なく作ることが好きになって、それが身についていく。
だからフランス人の男性は、料理嫌いの人を知らないくらい、みんな普通に作れるんです。
日本はコンビニなどが充実しているので、作らなくても生きていけますよね。それはちょっと危険だなと思っていて。生きるために食べることって基本なので、それを自分でできるかって大切なことだと思うんですよね。
ただ今の時代、女性も仕事している人が多いですし、疲れて帰ってきて難しいものや手のかかるものを作れっていうのは無理ですよね。その日の体調や気持ちに合わせて、無理せず簡単なものを作ったり、時には買ってきたものを並べたりするのでもいいと思うし。
子どもはよく見ているので、とにかく親が楽しく食事をしたり料理をしたりするのが一番です。
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『ちょっとフレンチなおうち仕事』には、志麻さん愛用のキッチン用品や使い方、効率よく料理をするコツや簡単でおいしいフレンチのレシピなどが詳しく載っています。
毎日の料理をもっと効率よく、楽しくやることで心の余裕もでき、子どもと接する時間もより良いものになるのではないでしょうか。ぜひ本書を参考に、「気楽なフレンチ流」に挑戦してみてくださいね。
【取材協力】タサン志麻さん
大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業後、ミシュランの三ッ星レストランでの研修を経て帰国。老舗フレンチレストランなどに15年勤務して2015年にフリーランスの家政婦として独立。
各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び、「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。料理イベントやセミナーの講師、食品メーカーのレシピ開発など、多方面で活躍中。