なぜおじさんは「臭い」と思われがちなのでしょうか(写真: freeangle / PIXTA)

「おじさんは臭いから嫌われる」

この言葉を聞いて、共感や納得することこそあれ、「いや、そんなことはない」と否定する人は少ないでしょう。若い女性に対して、中年男性が嫌われる理由を聞くと、「説教をする」「武勇伝を語る」「しつこい」などの行動面より、圧倒的に「臭い」「清潔感がない」というものが上位にきます。もちろん、すべてのおじさんが「臭くて不潔」であるわけではないにもかかわらず、なぜ「おじさんは臭い」は一般的定説になっているのでしょう。


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元来、日本人男性は、西欧人と比べてそもそも体臭が少ないと言われていますが、それでも女性から「臭い」と言われてしまうのは、いわゆる加齢臭の問題があります。

加齢臭には皮脂量が関係しますが、実際、男性の皮脂量は、20代も中高年もあまり変わらないそうです。では、なぜ中高年にだけ加齢臭が出るのでしょう。それは、中高年の皮脂には、若者にはほとんど存在しない脂肪酸9―ヘキサデセン酸が増加するためです。これが皮脂および皮膚に棲んでいる多くの常住菌によって分解されることでノネナールが発生します。これが加齢臭の元です。

洗髪の回数はにおいに関係ない

加齢臭は通常50歳くらいから発生するようですが、マンダムの調査によれば、35歳くらいからは別途ミドル脂臭というものもあるそうです。結局、アラフォー以上の男性は何かしら「臭い」ということです。

「おじさんは、女性のように毎日、入浴や洗髪をしないから臭いのでは?」と思われがちですが、20〜50代の未既婚別男女の週当たりの平均洗髪回数を比較したグラフを見ると、案外そうでもありません。(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


とくに、未婚も既婚も40代男性が最も洗髪頻度が多く、女性を超えます。50代になると、全体的に頻度が落ちますが、それでも既婚男性の洗髪頻度がいちばん高いのは変わりません。

これは、単純に中年男性が風呂好きなのか、はたまた別の動機によるものなのか、正確なことはわかりませんが、いずれにせよ、洗髪回数という点では、「おじさんは洗ってないから臭い」という因果は存在しません。

が、それはすなわち「おじさんは洗っていても臭い」という残酷な事実を突きつけられことにもなります。加齢臭やミドル脂臭は、言うなれば、毎日風呂に入ろうが、洗髪していようが関係なく、生きている以上必ず発生するものなので、いかんともしがたいものと言えます。

最近、お笑い芸人・ずんの飯尾和樹さんがお茶の間の人気を博したり、『おっさんずラブ』や『私の家政夫ナギサさん』のように、いわゆる普通のおじさんが脚光を浴びるドラマが人気です。これは「ようやく、おじさんの時代の到来か?」と早合点しがちですが、それは、あくまでも、においを感じない映像の中の世界だからなのかもしれません。

既婚男性はまだしも、アラフォーで婚活にいそしむ独身男性にとっては、この「嫌われる要素としてのにおい」は、死活問題です。婚活パーティーでは年齢制限などもあり、ただでさえ40歳以上の婚活男性は出会いのきっかけすらなくなっています。

婚姻の組み合わせにおいて、興味深いデータがあります。夫婦同い年婚および妻年上婚の数は、婚姻数が多かった皆婚時代とほぼ変わりません。激減しているのは夫年上婚だけなのです。

1970年と2018年を比較すると、日本の婚姻数は約44万組減少しているのですが、それはほぼ夫年上婚の減少と一致します。つまり、日本の未婚化は、年上の男が結婚できなくなったからだとも言えます。


これは、結婚を希望する男性全般からすれば希望のない話です。若いうちは、結婚条件として「年収の壁」を突きつけられ、懸命に働いて、ようやく40代になってその年収条件をクリアしたと思ったら、今度は「臭さの壁」という新たな障壁にぶち当たってしまうのですから。

おじさんのにおいが好きな人もいる

とはいえ、おじさんのにおいは、そんなに「悪者」なんでしょうか? この世から消し去るべき「絶対悪」なんでしょうか? TBS系情報番組『グッとラック!』コメンテーターであり、ヴァイオリニストの木嶋真優さんは、自他共に認める年上好きで、10代の頃の初恋が60歳を超える男性とのことですが、番組において、「本当におじさんが好きだったら、臭いのが好きなはず。その臭さがいいにおいと思うから」と、おじさんの臭さ愛を力説していました。

実は、これは彼女だけが特殊なわけではなく、男性のにおいに関しては、女性全般に共通する特徴だったりします。恋愛において、男性はどちらかといえば、女性の容姿という視覚を重視します。が、女性は嗅覚を信じるという傾向があります。

次ページのグラフに一目瞭然ですが、女性の場合、たとえ容姿が好みでも、既婚は60%以上、未婚に至っては80%近くが、相手のにおいが嫌いだと付き合えないと言います。恋愛相手選定では、相手のにおいが重要な決定要因となるのです。これは男性とは大きく異なります。

ただし、女性が感じる「いいにおい」と「嫌なにおい」とには絶対的な基準があるわけではなく、個人個人で異なります。木嶋さんが好きと感じる「臭さ」は、ほかの人には耐えられないものである可能性もあります。


娘が「お父さん、臭い」と父親のにおいを嫌悪するのは、近親相姦を避けるためという話がありますが、これは、マウスの実験などでも明らかなように、なるべく自分の遺伝子と異なる遺伝子を持つ配偶相手を選ぶ性質があります。人間の女性が男性のにおいに敏感なのは、そうした「においによる遺伝子のリスク回避」というものの表れでしょう。

だとすれば、婚活男性が最適のマッチング相手を見つけたいと思うなら、むしろ香水でごまかしたりせず、堂々と自分のにおいを相手に嗅いでもらって判断してもらう方が手っ取り早いような気がします。目隠しをして、においだけで相手を選ぶ婚活パーティーがあってもいいのかもしれません。

心理状態でにおいの感じ方も異なってくる

とはいえ、現実は、においだけで恋愛や結婚相手が決められるものでもありません。このにおいに対する感覚は遺伝的背景があるとはいえ、永遠に変わらないものでもなく、経験や学習によっても変化します。

好きな人のにおいは、たとえそれが一般的には加齢臭に当たるものであっても好ましく感じますが、その相手と何かイザコザがあった場合、学習効果によって相手のにおいの評価が変わることがあります。夫婦喧嘩をした後では妻は、いままでなんとも思わなかった夫のにおいに嫌悪感を覚える場合もあるそうです。つまり、同じにおいでも、自分の心理状態によって左右されます。

そう考えると、「おじさんは臭いから嫌らわれる」なのではなく、「おじさんが嫌いだから臭いと感じる」と解釈するほうが正しいのかもしれません。嫌われないようにおじさんたちが毎日風呂に入り、洗髪をしても、はたまた高級な香水をふりかけたとしても、あまり意味はなくて、ようは好きか嫌いかの感情によって「臭い」は決定されてしまうのです。結局、救いのない話になりました。

オフィスにおいては、スメルハラスメントが問題にもなっています。においにより周囲を不快にさせる行為のことで、スメハラと略されます。しかし、今まで述べてきたように、絶対的に万人が「臭い」と思うにおいならともかく、不快に感じるにおいは人によって異なります。柔軟剤の香りですらスメハラとなった事例もあります。

そもそも、自分のにおいは自分では臭いとは思いません。むしろ、自分のにおいによって、人は精神的に安心を得る効果があります。引っ越ししたばかりの新居では落ち着かないというのは、部屋から自分のにおいを感じ取れないからでもあるし、旅行に行くときに自分の枕を持っていかないと気が済まないという現象なども、自分のにおいに包まれていると安心できるからです。

自分のにおいで安心することも

例えば、仕事上の会議などで緊張したとき、思わず自分の指を鼻元にもっていくという行動をしたりしてないでしょうか? あれは、ストレスや危機を感じたときに、無意識に指の間から出る自分のにおいを嗅ぐことで安心するからなんだそうです。

自分の安心を選ぶと他者から嫌われる。どうにもならない袋小路です。未婚男性だけではなく、アラサー以上の全国の現役世代男性2500万人が待ち望んでいるのは、せめて「好かれなくてもいいから嫌われない」無臭人間になれる何らかの商品なのかもしれません。