大企業CMが「ポエム的なものだらけ」になっている悲惨な理由

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新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

個々の会社との「業務委託関係」へと変化

職能で働くということは自分の仕事力で給与をゲットすることです。この方式に最もふさわしい給与体系は申すまでもなく、年俸制ということになります。これからは大企業でも社員の能力に応じて、出社日とテレワーク日を調整しながら仕事ぶりを評価されるようになるでしょう。

こうした環境変化は、つきつめれば新卒一括採用と定年制度の終焉につながります。職能での仕事は、その人の能力を磨くのは会社の仕事というよりもビジネススクールや職業塾の役割となります。また職能で評価されるようになれば、定年まで養ってくれるような理想郷=村はもはや存在しなくなる代わりに、定年などに関係なく働ける環境になるからです。日本企業はこれまで社員の能力開発にはほとんどお金をかけてきませんでした。それはただ、村の掟をジョブローテーションのもとで学ばせれば十分で、それ以上の専門的な知識を得る必要がなかったからでした。

大企業は社会の中のあらゆる面で優遇されてきたが……。(※写真はイメージです/PIXTA)

しかしそうしたこれまでの常識が覆され、自らの職能を個々の社員が身につけるようになると、考え方が変わります。つまり、社員の多くが個々の職能を「売り」にすればするほど、会社との関係は「村」への加入ではなく、個々の会社との「業務委託関係」へと変化していくでしょう。

これまでの日本の会社はブランド重視でした。大企業は社会の中のあらゆる面で優遇されてきたと言えます。たとえば、あなたがマンションを買いたいと思い、銀行に行って住宅ローンを申し込んだとします。手続きに必要な年収を証明する源泉徴収票やその他の書類で、ローンが実行できるか銀行は審査をするのですが、年収云々よりも一番評価されるのが勤めている会社名、つまりブランドです。大企業にお勤めであれば、無茶な資金計画でない限りたいてい審査は合格します。

住宅ローンは20年や30年も借りる長期ローンです。長期であるほど、本来は借りる個人の人生におけるリスクは高いはずです。ところが大企業勤務というブランドは、おそらく大企業を辞めるなどという馬鹿げた行動はしないだろうという前提と、もちろん大企業であれば傾くこともないという勝手なクレジット付与のもとに審査が行なわれるからです。

ところが勤め先が魅力的で今後大いに流行るであろう、新しい事業に取り組むベンチャー企業に勤める入社半年の社員であれば、審査では即行はねられるのが日本の銀行における融資審査というやつです。しょせんは彼らには会社のブランドでしか借り手を評価する能力がないからです。

仕事はブランド重視から個人の能力重視へ

ポスト・コロナの時代はたとえば、自身の能力を売りに複数の大企業と業務委託契約を締結する社員も出現するでしょう。否、これはおそらく「社員」という身分ではなく、もはや「個人事業主」と言ってよいでしょう。

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

彼らの働き場所は個々のオフィスではなく、自宅であったり、コワーキング施設や別荘であったりするかもしれません。ただ、自らの能力さえあれば、それを自分で時間をコントロールして、自分の好きな場所で仕事をするようになるでしょう。

彼らにとっては、特段大企業というブランドは必要ありません。社員同士の親睦も飲み会も必要ありません。毎朝毎夕出社するわけではありませんので、村の掟を気にする必要もなくなるわけです。したがって契約先の会社にあるバランスボールもカフェもシャワールームも何も関係ないということになります。

働き方はブランド依存・重視の時代から、能力・アビリティ重視の時代に確実に変わっていくはずです。これまでは、ある決められた仕事を会社と業務委託契約を結んで遂行してもらうのは、下請けの会社やコンサルタント会社などの役割でした。

しかしこれからの企業社会においては、会社に縛られて毎朝毎夕通勤するスタイルから、会社に従属せずに、会社という組織からはやや離れて働く社員や、自らの職能で複数の会社と契約して多くの年収を稼ぐスタイルが定着していくでしょう。

こうした状況になると、会社における人事評価の体系もずいぶん変わるはずです。勤続年数だとか複数の重要な部門に配属経験があるとか、たまたま属した部門で大きな成果が上がった、などの理由で評価されることがなくなるでしょう。

また会社組織の中ではよく、社員の間の潤滑油的な存在の社員がいるものです。あまり成績は良くないのですが、部内での盛り上げ役がいる。人柄は抜群で社員からは人気がある。仕事はできないけど宴会には欠かせない自称、宴会部長。こういった存在はこれからの時代では会社の中での居場所を失っていくかもしれません。かわいいけどちょっとドジで天然な女子社員、という位置づけも微妙でしょう。

社員の多くが職能で働き、評価されるということは、みんなが集まってもたれあいながら働いてきたこれまでの組織では「まあ、居てくれてもかまわないや」と思われていた多くの社員たちに引導を渡すことになります。

日本の労働生産性が低い原因は働き方

これに対して、冷たい人間関係は日本人には似合わない。会社は運命共同体。職能で働くのは外人部隊。直系のたたき上げを育ててこその組織。そもそもそんな能力のある社員ばかりではない、などという意見もあるでしょう。しかしこの感想こそが、日本をG7の中の労働生産性最下位に貶めている最大の要因であると言ってもよいのです。

最近の大企業を中心とした企業CMを眺めていると、多くが会社としての製品を宣伝するとか戦略を訴えるというよりも、ポエム的な内容のものばかりになっていることが気がかりです。世界での激しい競争から引き離され、日本という落ち目になりかかったマーケットの中だけでいくら愛を叫んでも、むなしいものがあります。みんな一緒にがんばろうといった内容も、相変わらず日本人同士がもたれあう絵姿を描いているようにしか見えません。

せっかく試してみたテレワークから見えてきた本当の意味での働き方改革は、これまでの企業ブランドに頼り切ってぶら下がる働き方から、アビリティを磨き、これを正当に評価される働き方が主流になっていくことを示しているのです。

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役