5日、台風9号により被害を受けた咸鏡南道を視察した金正恩氏(2020年9月6日付朝鮮中央通信)

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相次ぐ台風により各地で被害が続出した北朝鮮では、地方幹部の解任が相次いでいる。

国営の朝鮮中央通信は6日、政務局拡大会議で、朝鮮労働党咸鏡南道(ハムギョンナムド)委員会の金成日(キム・ソンイル)委員長を解任し、後任に党中央委員会組織指導部の副部長を任命したと報じた。

また、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は5日、台風9号の被害を徹底的に防ぐことについての党の方針の執行をおろそかにして、厳重な人的被害を発生させたとして、元山(ウォンサン)市と江原道(カンウォンド)のイルクン(幹部)の無責任な態度から教訓を得るための会議が開かれ、党、行政、安全機関の責任イルクンを厳しく処罰すると宣告したと報じた。しかし、具体的に誰が処罰されたかは明らかにしていない。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、匿名を要求した江原道の幹部の話として、中央党(朝鮮労働党中央委員会)の決定により、今月3日、元山市の党委員長、元山市人民委員長(市長)、元山市安全部(警察署)の部長など、市の責任幹部が全員解任され、一般の労働者に戻されたと報じた。

この決定について、市の幹部や市民からは疑問と怒りの声が上がっているという。

この幹部によると、解任された市党委員長は貧しい暮らしをしている市民を訪ね歩き、人々の声に耳を傾けて問題を解決するなど、幹部や市民の信望が厚い人物だったという。

上述した朝鮮労働党咸鏡南道委員会の金成日委員長も、住民から信頼されていた人物で、解任を残念がる声が上がっていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

江原道の幹部は、江原道や元山市レベルでいくら力を尽くしても被害を防ぐことは難しく、本気で被害を止める気があったのなら、老朽化した建物を補修するなどの実質的な作業を事前に行うべきだったと、政府を批判した。

なぜ、人望のある人物をクビにするのか。それは金正恩党委員長の「無謬性」を守るためだ。

彼の存在は絶対のものであり、その命令も絶対のもので、「何一つ間違っているわけがない」というのが大前提だ。命令により問題が起きたとすれば、その責任は命令を忠実に執行しなかった幹部にある。今回の台風対策も金正恩氏が主導したものでそれは完璧だったが、それでも大きな被害が出たのは幹部が悪い、という理屈だ。

別の住民は、元山は海に面していて、背後に山が迫っている地理的な特徴から、一度台風がやって来れば被害を免れないが、そんな地域の事情を知らずに地域の幹部に責任をなすりつけて解任した、どうせ今後も同じことをやるだろう、という地元の怒りの声を伝えた。

「人民のためとは口ばかりで、見せつけるための建築物の工事、体制維持のために核やミサイル開発ではなく、住民が肌で感じられる実質的な代案を打ち出すべき」(情報筋)

「見せつけるための建築物」とは、金正恩氏が進めている元山郊外のリゾート地「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設のことだと思われる。

(参考記事:金正恩氏が公開「7000人死亡」リゾートの現場写真