イラク・聖地ナジャフ郊外の砂漠に設置された「新型コロナウイルス墓地」で、改葬のために親族の遺体を掘り返すイラク人家族(2020年9月11日撮影)。(c)AFP

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【AFP=時事】ムハンマド・バハドリ(Mohammad al-Bahadli)さん(49)は父親の遺体を求め、イラクの砂漠の熱い砂を素手で掘り返した。

 布に包まれた遺体の横で家族が泣く中、「これでようやく父は、私たち家族と一緒の古い墓地に入ることができる」とバハドリさんは言った。

 イラクでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者の埋葬に関する規制が緩和されたことを受け、親族が本来眠る墓地の正しい場所に埋葬し直すため、家族が遺体を掘り起こしている。

 当局は、COVID-19で亡くなった人々の家族に対し、遺体からの新型コロナウイルスの感染リスクがまだあるとして、何か月もの間、従来の墓地への埋葬を禁止した。その代わりに聖地ナジャフ(Najaf)郊外の砂漠に「新型コロナウイルス墓地」を設置し、防護具を身に着けたボランティアが遺体を5メートル間隔で慎重に埋葬した。

 しばしば夜中に速やかに執り行われた埋葬に参加できるのは、親族1人のみだった。

 イスラム教シーア派(Shiite)の信徒やスンニ派(Sunni)の信徒、そしてキリスト教徒も、あらゆる宗教・宗派の死者が皆ここに埋葬されていた。

 しかし、当局は9月7日、新型コロナウイルス感染症で亡くなった人の遺体を家族が希望した墓地に改葬することを許可すると発表した。

 イラクは新型コロナウイルスの感染被害が中東で最も大きかった国の一つで、これまでに確認された感染者は(9月22日時点で)32万人近く、死者は8000人を超えている。

 世界保健機関(WHO)は9月4日、「遺体を取り扱う際に感染する可能性は低い」と発表した。

 最初の改葬は大混乱となった。

 改葬を望む家族は、砂をすくうためのシャベルとバケツ、遺体を運ぶための新しい木棺を持参した。

 AFP特派員によれば、現場には、家族に埋葬場所を案内する墓地の案内人も、遺体を適切に掘り返す指南をする医療専門家もいなかった。

■ひつぎ開ければ別人だったケースも

 遺体の名前が示された埋葬場所を家族が掘り起こしたところ、ひつぎの中が空っぽだったり、年配の母親の遺体を捜していた家族がひつぎを掘り起こしてみると、若い男性の遺体だったりしたケースもある。イスラム教で死者を敬うのに必要な布に包まれていない遺体もあった。

 イスラム教では、死者は早急に、通常は24時間以内に埋葬しなければならない。火葬は禁忌とされ、改葬は、遺体が損なわれていなければ必ずしも禁止されてはいないが、前代未聞だとナジャフの聖職者はAFPに話した。

 それにもかかわらず、家族らは、改葬によって伝統的な埋葬を執り行うことができ、気持ちの区切りが付いたと、ほっとした表情を見せる。

「父がここ(砂漠)に埋葬されてからずっと、父が死に際に言った『息子よ、私を家族の墓地に埋葬してくれ、一族と遠く離れた場所に埋葬しないでくれ』という言葉を何度も思い起こしてきた」と、ファーストネームだけを明かす条件でAFPに語ったフセインさん(53)は言う。

 フセインさんは数百万人のシーア派が埋葬されている広大な墓地「ワディ・サラーム(Wadi al-Salam)」に父親を改葬するため、遺体を手で掘り返した。

「数か月間ずっと気になっていたことを、望み通りに実行に移すことができた」とフセインさんは語った。

【翻訳編集】AFPBB News

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