世界トップ20に日本のライブ配信者が15人ランクイン

 先日、YouTubeのライブ配信で利用できるスーパーチャット、いわゆる投げ銭で得た累計金額の世界ランキングが話題になった。累計1億円以上を集めた桐生ココを筆頭に、世界トップ20に日本のライブ配信者が15人ランクインし、そのうち14人をバーチャルYouTuber(VTuber)が占拠した。


Coco-Ch.桐生ココ公式YouTubeより

 しかし上位にランクインしたアカウントの多くは日本語で動画や配信を行っており、英語のチャンネルに比べると対象人数などは限られるはずだが、現実には圧倒的な存在感を発揮している。なぜ日本のYouTuberたちはこれほど大きな人気を誇り、どんな視聴者たちが何を求めて投げ銭をしているのだろうか。

YouTubeスーパーチャット累積額の世界ランキング(PLAYBOARD参照 2020年9月24日時点)
1位 Coco Ch. 桐生ココ(日本) 1億540万9843円
2位 Rushia Ch. 潤羽るしあ(日本) 9816万4864円
3位 縦横研究所(韓国) 8686万3712円
4位 Pekora Ch. 兎田ぺこら(日本) 8482万4671円
5位 Aqua Ch. 湊あくあ(日本) 7990万2254円
6位 Marine Ch. 宝鐘マリン(日本) 6858万1977円
7位 Kuzuha Channel(日本) 6598万640円
8位 M.S.S Project Channel(日本) 6326万9078円
9位 UnitedGamer(アメリカ) 5892万3275円
10位 Haneru Channel / 因幡はねる 【あにまーれ】(日本) 5522万9189円
11位 Matsuri Channel 夏色まつり(日本) 5219万6842円
12位 Flare Ch. 不知火フレア(日本) 5062万6872円
13位 Korone Ch. 戌神ころね(日本) 4922万2699円
14位 Kanata Ch. 天音かなた(日本) 4788万9028円
15位 Trilogy Media(アメリカ) 4388万2546円
16位 Noel Ch. 白銀ノエル(日本) 4211万4489円
17位 Kanae Channel(日本) 4207万7092円
18位 加賀美 ハヤト/Hayato Kagami(日本) 4027万6845円
19位 bintroll(日本) 3902万8412円
20位 Mcfly et Carlito(フランス) 3892万8157円

 そんな疑問を解決するために、YouTubeを含めた日本国内のライブ配信のデータ分析や影響力測定を行うツール「Giken Access」(https://access.giken.tv/)を開発し、クリエイターへのコンサルタント業務を行う日本で唯一の専門家集団「配信技研」に話を聞いた。

ユーチューブのアクセスは米印に続き世界3位

――話題になった世界のYouTubeスーパーチャットランキングで、上位を日本のアカウントが占拠しました。なぜ日本の視聴者は世界で一番投げ銭をするのでしょう?

 まず意外と知られていないこととして、日本のユーザーは世界でもYouTubeの視聴時間がかなり長いんです。人口は1億2000万人にもかかわらず、YouTubeのトラフィックは世界でアメリカ、インドに次いで3位です。

 YouTubeの生配信であるYouTube Liveも同じ傾向があり、1カ月に全世界で5億時間視聴されている中の8600万時間、つまり5分の1弱を日本からのアクセスが占めています。

 YouTubeがほぼ見られない中国を除いてもこれは相当高い割合で、投げ銭の多さについても、日本でのYouTube人気が大前提にあります。

――YouTubeは世界中で人気なのだと思っていましたが、特に日本では飛び抜けて人気なのですね。ランキングで意外だったのは、ヒカキンさんや東海オンエアさんのようないわゆるYouTuberとして有名な人たちが上位にランクインしていないことです。これは何故でしょう?

 コンテンツの形式による収益モデルの違いが一番大きいと思います。たとえばヒカキンさんは10分から30分ほどの動画投稿がメインですよね。しかしスーパーチャットは主に生配信についている機能なので、今回のランキングでも生配信がメインのアカウントが上位に来ています。

 動画は無料で公開されているかわりに広告が表示され、その広告料がクリエイターの収入になるシステムです。一方で配信は生なので広告を挟みにくく、ユーザーに月額課金や投げ銭などで直接お金を払ってもらう文化が広がりました。

 5年ほど前からFPS(1人称視点でのシューティングゲーム)を中心としたゲーム配信の世界で月額課金が定着し、投げ銭はここ2〜3年で一気に伸びてきた新しい収益モデルです。現時点では、日本のVTuberたちが世界で一番うまく使っていると言えます。

 つまり、クリエイターのお金の稼ぎ方の進化につれて、選択肢が増えてきたということです。広告費や月額課金の収入で比べたら、ランキングは投げ銭とはまったく違うものになるでしょうね。

――ちなみに投げ銭の内訳として、熱狂的なごく少数のファンが大部分を支えているのか、それとも薄く広くなのかも気になります。

 データを見ると、1万円の投げ銭をする人と200円の投げ銭をする人の数は実は10倍までは違いません。なので額としては1万円を投げる人の存在感が大きいですが、少額の視聴者も含めるとそれなりの人数で支えているという印象です。もちろん割合としては投げ銭をしない視聴者が圧倒的に多数派です。

 たまに100万円以上の投げ銭をする人がいて「石油王」と呼ばれたりしますが(笑)、それはやはりレアケース。小さな積み重ねが大事ですね。

「お金を払うこと」に価値を見出すアイドル・アニメファン

――ここ数年で大きく知名度を伸ばしたYouTuberは日本でも数多くいる中で、今回はVTuberが上位を占拠しました。これは何か理由があるのでしょうか。

 日本人が投げ銭をする理由の1つが、まさにVTuberの存在です。

 これはデータに基づくというよりは感覚的な話なのですが、アイドルやアニメ好きの方には「お金を払うこと」自体に価値を見出す傾向があります。愛情の可視化、というんでしょうか。

 アニメ「ラブライブ!」のグッズを全身に鎧のようにまとった“武装ラブライバー”や地下アイドルファンにとってのチェキのように、グッズや写真そのものよりも「こんなにお金をつぎ込むほど好きなんだ」というアピールに商品価値・満足感の比重がある。VTuberの視聴者もその文化を引き継いでいます。

 アイドルやアニメ好きの持っていた「お金を払うこと」「いくら払ったかが周囲にも見えること」を重視する傾向と投げ銭は相性が良かったのだと思います。

――たしかに、日本のアイドル・アニメ文化が世界的にも特殊であるのはよくわかります。VTuberのクリエイターたちはやはりアニメ、アイドル文化圏の人たちなのでしょうか。

 いま人気のVTuberの中には、配信で稼ぐことが一般的になる以前からニコニコ生放送などで活動していた方が多く含まれています。当時はもちろんVTuberとしてではなく、それぞれの名前で活動していました。

 しかし日本のネットでは、クリエイターがお金を稼ごうとするのを嫌う「嫌儲(けんちょ・けんもう)」文化がずっと強くて、なかなか人気を収入に繋げることが難しかったのです。

 その空気が徐々に変わり、クリエイターが稼ぐのが当たり前になってきたのと同じ時期にVTuberというシステムが出てきたことで、すでに技術と人気を持っていた才能ある人たちがVTuberに“転生”して再スタートすることで、人気を収入に繋げられるようになりました。以前の名前が「前世」として知られていることも多いのですが、ファンはそれ込みで楽しんでいます。

――興味深い世界です。いまや日本のYouTubeのチャンネル数は20万以上、VTuberだけでも1万人以上いると言われていますが、人気が出て視聴者や投げ銭を集められる配信者とそうでない配信者にはどんな違いがあるのでしょう。

 これは私たち「配信技研」の思想の根幹でもあるのですが、いい配信とはつまりオーセンティシティ(Authenticity)が高い配信のことだと思っています。

 オーセンティシティは日本語に訳すと、本物さや真正性です。

 つまり配信者が本当に楽しんで配信しているのか、それとも仕事としてやらされているのかを視聴者は敏感に察知します。

 大物芸能人がテレビのような豪華セットで配信していても人気が爆発しないケースがあるのは、仕事感が出てしまいがちだから。あくまで本当に個人として楽しんでいるのか、というのが重要です。VTuberに関しても、にじさんじやホロライブなど大手事務所の力は絶大ですが、それだけでは継続的に視聴者に愛される配信にはなれないんです。

「投げ銭でカメラがパワーアップ」などの手応えが大事

――配信はリアルタイムで反応してもらえるのも嬉しいですよね。

 双方向性は圧倒的に重要ですね。生配信は動画と違って編集でごまかせないので、視聴者はよりリアルな人間性やコミュニケーションを求めています。自分のコメントや投げ銭への配信者の反応や、「もらった投げ銭でカメラがパワーアップした」のように、投げ銭されたお金が配信者にちゃんと届いているという手応えも、オーセンティシティに繋がる大事な要素です。

――今回のランキングでは1位の桐生ココさんが累計で1億円以上の投げ銭を集めています。ものすごい数字ですが、いわゆる「中の人」には何割ぐらい入るものなんでしょうか?

 1億円は視聴者が送った投げ銭の総額なので、そこからまずAppleやGoogleの手数料約30%を引き、スマホからの投げ銭は支払い方法によってはさらにドコモなどへのキャリア手数料を引き、残ったものが収入になります。

 そこから先、売上がどういう割合で所属事務所といわゆる「中の人」に入るかはケースバイケースで、出来高だったり固定給+インセンティブだったりするようです。

 視聴者の「投げ銭が配信者にちゃんと届いている」という実感の問題にも関わるので、収益構造の情報公開はナイーブなんですよね。

次に起きるのは「大プラットフォームからの離脱」

――動画投稿が主だったところへ生配信が出てきて、収益方法としても広告モデルから月額課金、そして投げ銭が出てきました。配信文化を専門にする「配信技研」さんは今後どんなことが起こると予想しているのでしょう?

 インターネットの流れを振り返ると、最初にテキストの時代があって、画像の時代を経て動画の時代がやってきました。スマホやPCでは動画以上のコンテンツはないので、行きつくところまで来た印象を持っています。次に何か進化するとすればたとえばVRゴーグルのようなハード面の進化が必要になると思います。ただ普及までの道のりは遠いでしょう。

 むしろ先に起きそうなのは、YouTubeのような大きなプラットフォームからの離脱でしょう。

 AppleとEpic Gamesの訴訟をご存知の方も多いと思うんですが、個人が動画を配信する方法や決済システムが便利になっていけば、プラットフォームの高い手数料を回避するために離脱が起きる可能性は高い。個人とプラットフォームのパワーバランスは大きく変わっていくはずです。個人に個人がお金を払う文化が育ってきた日本で、世界に先駆けて革命が起きる可能性も十分にあるでしょう。

 何にせよ動画の生配信はコンテンツの最先端で、面白いことが起きる場所であることは間違いない。これからも注視していきたいです。

(ゆがみん/Webオリジナル(特集班))