それはダークウェブ(闇サイト)を対象に世界規模で実施された史上最大級の逮捕劇となった。なにしろ6カ国で179人が逮捕され、押収されたものは500kgの麻薬に加えて、650万ドル(約6億8,000万円)相当の現金と暗号資産(仮想通貨、暗号通貨)である。

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この成果が発表されたのは9月22日(米国時間)の朝だが、摘発プロジェクト「Operation DisrupTor」の始まりは2019年5月3日にさかのぼる。取り引きが活発だった闇市場「The Wall Street Market」 がドイツの警察当局によって摘発された日だ。これによって国際捜査当局は、麻薬取引に使われる闇サイトの捜査に必要な情報をすべて手に入れたのである。

今回の摘発プロジェクトが長期的に見て、どれだけ闇サイトでの犯罪の阻止に寄与するかははっきりしない。闇サイトを利用した麻薬取引は、「Silk Road」や「AlphaBay」といった大規模な裏市場が閉鎖されても復活する傾向がある。当局の取締りは延々と続くモグラたたきの域を出ないとしても、少なくとも叩くことに関しては非常に上達してきている。

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闇市場のサーヴァーが摘発の情報源に

米国ではOperation DisrupTorによって、数十件の逮捕状に基づいて120人ほどが逮捕されている。オハイオ州では「PillCosby」と呼ばれるグループのメンバーが、100万個以上のフェンタニル系錠剤を郵送した罪で起訴された。ワシントンD.C.の検察官によると、デヴィッド・ブライアン・ペイトがオキシコンチンやザナックス、モルヒネの錠剤を数千個、土産用のマラカスに隠していたという。ネブラスカ州の薬剤師は、自身の金になる麻薬取引を利するために、地元の競争相手から麻薬を盗んだあとに爆弾を仕掛ける計画だったとされている。

これらの事件と欧州における数十件の逮捕に共通するのは、捜査が主に昨年のWall Street Marketの摘発に端を発することだ。このときドイツの当局は、サイト運営にかかわっていたとされる被疑者数人と、最も大量の薬物を販売していた売り手2人を逮捕した。『WIRED』US版が確認した情報によると、欧州刑事警察機構(ユーロポール)はWall Street Marketのバックエンドサーヴァーを復元することにも成功し、これにより捜査官は多くの貴重な証拠を入手できたという。

「これにより、今回逮捕された被疑者の特定につながる情報をすべて入手できたのです」と、ユーロポールの報道官クレア・ジョージズは説明する。「わたしたちはこの情報を照合したあと、各関連国にインテリジェンスパッケージと呼ばれるものを送信しました。これは基本的に、あなたの国のこの人物が何をしたのか判明している……といった情報や文書を提供し、調査の開始を促すものです」。ジョージズによると、今後も逮捕者が出る見込みだという。

狭まる包囲網

今回はまとめて発表されたが、米国における逮捕は過去数カ月にわたって少しずつ進められていた。

22日朝の記者会見では、米麻薬取締局(DEA)の副局長ティモシー・シアが、重要人物として具体的にアーデン・マッキャンの名を挙げた。マッキャンは数々の闇市場サイトで「RCQueen」「DRXanax」などの異名をもつとされる。今年初めに逮捕されたマッキャンは、102kgを超えるフェンタニルと30万個以上の偽造したザナックス錠剤を毎月出荷していたとみられる。

「これはある意味、最悪の状況です。最新のテクノロジーを用いて、さまざまな方法や規模の古典的な犯罪行為がおこなわれているのですから」と、米連邦捜査局(FBI)長官クリストファー・レイは22日の記者会見で語っている。「しかし、本日の発表の核心となる点は、どこに行って犯罪に手を染めようとも、またどのように犯罪を隠そうとしても、わたしたちは必ず見つけ出すということです」

それは近年、ますます真実に近くなってきたように思える。Wall Street Marketの摘発は、法執行機関による初の闇市場サイトの取締りでもなければ、最も壊滅的な取締りでもない。

例えば2017年、オランダの警察当局が急成長していた闇市場サイト「Hansa」を管理下に置き、FBIはより大規模な競合サイト「AlphaBay」を閉鎖に追い込んだ。そして、AlphaBayのユーザーがHansaに流れるなか、オランダ当局は数週間にわたってユーザーのアクティヴィティを記録した(記録にはユーザーの自宅住所も多数含まれていた)。

闇サイトの摘発や押収は、必然的に累積的な効果を及ぼす。「闇サイトで暗躍する犯罪者はひとつの市場にとどまらず、ダークウェブのすべての領域で活動しています」と、ユーロポールのジョージズは指摘する。

“闇の世界”に捜査機関が切り込んだ意味

米国では、FBIと米国郵政公社(USPS)の捜査官を含む米司法省の麻薬・ダークネット取締り合同チーム「Joint Criminal Opioid and Darknet Enforcement」の下で摘発が進められた。「Sabotor」と呼ばれる同チームによる直近の作戦では、19年3月に61人が逮捕されたことが発表されている。

Operation DisrupTorは市場全体ではなく、むしろ個人の売り手を対象にしている。このため、ダークウェブの麻薬購入者が単に新しい供給者を見つけるだけという結果になる可能性もある。

しかし今回の発表は、少なくとも虎視眈々と狙うダークウェブのヴェンダーを一時的に尻込みさせる効果があるかもしれない。匿名性が高いとされるインターネットの片隅に法執行機関が切り込んだという実績が、またひとつ加わったことになるからだ。

「わたしたち自身も法律の枠組みのなかでさまざまなツールを利用し、非常に革新的な手法で捜査に取り組むことができる人材を揃えています。ダークネットに潜めば正体がわからないと思っている犯罪者を逮捕する準備はできているのです」と、FBI長官のレイは記者会見で語っている。一方で、具体的な手法についてはコメントしていない。

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