by Yuri Samoilov

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって、2020年度の年次開発者向け会議「Google I/O」が開催中止となりました。「Google I/O」でいろいろな話が明かされると期待されていた「Android 11」について、IT系ニュースサイトのArs TechnicaがGoogleのAndroid部門でヴァイスプレジデントを務めるDave Burke氏と、主任エンジニアのIliyan Malchev氏にAndroid 11のリリースを目前に控えた2020年9月8日に独自インタビューを行っています。

The Android 11 interview: Googlers answer our burning questions | Ars Technica

https://arstechnica.com/gadgets/2020/09/the-android-11-interview-googlers-answer-our-burning-questions/

◆COVID-19はAndroidの開発に与えた影響

Burke氏によると、COVID-19によって開発現場には「ちょっとした混乱」が生じたとのこと。COVID-19パンデミック以前は多くのエンジニアがスマートフォンのUSBテザリングで接続したワークステーションで作業していましたが、自宅作業によって「ワークステーションで作業しつつ、USBテザリングに使っているスマートフォンも使いたい」という需要も生じました。Burke氏はGoogle Meetなどを使って新たな環境を構築しましたが、最初のうちは生産性が7%〜11%低下したそうです。しかし、低下した生産性はその後回復したとBurke氏は語っています。

また、COVID-19がAndroidの開発に与えた影響について、Appleと共同開発した「COVID-19追跡API」の話題が上がりました。

AppleとGoogleが「新型コロナウイルス追跡システム」をiOSとAndroidに組み込む - GIGAZINE



一部のアップデートを行わない独自設定のAndroidスマートフォンも販売されているものの、基本的には中国以外のAndroidスマートフォンはCOVID-19追跡APIを実装しています。Burke氏は「アメリカでは州政府がCOVID-19追跡APIを使用するアプリを開発すべきだが、50州のうち6州しかアプリを完成させていない」と言及。こうした現状を打破するために、Google自らがCOVID-19追跡アプリを作成する予定だと語りました。

◆「Google Play システム アップデート」について

Android 10以降のAndroidでは、Google Playから重要なコード変更をダイレクトに行う「Google Play システム アップデート」という新システムが実装されており、Android 10以降のデバイスの内部コンポーネントはGoogle側で更新可能となっています。この「Google Play システム アップデート」について、Googleは2020年2月の段階で「12の新モジュール」が登場すると予告していました。

Ars Technicaは予告について触れ「結局新モジュールはどうなったんですか?」と質問。Burke氏は、遠隔測定に関する統計情報を収集する「statsd」や、Wi-Fiテザリング、セルブロードキャスト、機械学習、SDK拡張など合計21個のモジュールを追加したと回答した上で、「モジュールそれ自体よりもモジュールを実行可能にするインフラストラクチャのほうが重要」とコメントしました。

◆「Generic Kernel Image」について

AndroidはLinuxカーネルをベースとしたOSですが、実際に使用されるLinuxカーネルはAndroidデバイスのモデルごとに異なるため、結果としてLinuxカーネルの断片化が生じています。この問題に対処するために開発されているのが、「Generic Kernel Image(GKI)」という全てのAndroidデバイスで実行可能なLinuxカーネルビルドです。

Generic Kernel Image | Android オープンソース プロジェクト

https://source.android.com/devices/architecture/kernel/generic-kernel-image



「このGKIモジュールもGoogle Playから配信するのでしょうか?」という質問に対して、Malchev氏は「はい」と返答。現在取り組んでいる開発フェーズはすべてGKIを前提とするもので、今後はGKIを搭載したデバイスを実行していくと明言し、Google自身が開発するスマートフォン「Pixel」シリーズで実際にGKIを組み込んでいくとコメント。Burke氏は「セキュリティバグの40%がカーネルの問題」と指摘して、GKIを実装することでセキュリティとデバイスメーカーのメンテナンスコストを大幅に削減できると語っています。

GKIについて、Ars Technicaは「アップデート可能なカーネルによってデバイスを破壊されたという事例を聞いたことがあります。何か安全機構のようなものは存在しますか?」と質問。Malchev:氏は「アップデートによってブートが失敗した場合には、どんな種類のブート失敗であれ前のブートポイントにリカバリできるというようなフェイルセーフを多数組み込んでいます」と回答しています。

Burke氏は「アップデート可能なカーネルのように、OSの進化において忌避されてきた方向性が存在しますが、匿名で集計される統計やインクリメンタルなアップデートとロールバックなどがによってこの偏見を改めることは可能です」とコメント。設定の「プライバシー」→「使用状況と診断情報」からオフにできる統計情報の送信について、20億台も存在しているAndroidデバイスの大多数が統計情報を送り返してくれている現状を挙げて、収集された統計情報が、バッテリー寿命などAndroidの改善に役立っていると語りました。

◆「Slices」について

「Slices」はGoogle 検索アプリや、Google アシスタントなどで動的なインタラクティブコンテンツを表示する以下の画像のようなUIテンプレートです。



Ars Technicaは「SlicesはAndroid 9の発表時に大々的にアピールされていたように見えましたが、実装されていません」と述べて、「Slicesはどうなったのか?」について質問。Burke氏によると、Slicesはすでに作成されているものの、開発側の労力とユーザー機能のバランスが取れていないという理由から実装されてはいないとのこと。Burke氏はコアコンセプトは光るものがあるものの、ユースケースの情報がまだ収集されていないと語って、今後も試作を重ねていく予定だと語りました。

◆「アプリの切り替え画面」について

Android11では「アプリの切り替え」ボタン画面が刷新され、画面下部に検索欄や推奨アプリが表示されなくなりました。



このデザインの変更について、Burke氏は「スクリーンショットの撮影やテキスト・画像の選択機能を目立たせるべきだというアイデアと、検索欄や推奨アプリはホーム画面の一部に設置するほうがベターだというアイデアによって、今回の決定に至りました」とコメント。今後のアップデートでは、ホームランチャーとホームの外観に関して改善を続ける予定とのことです。

◆「Dynamic System Updates」について

Dynamic System Updates(DSU)はメインとなるAndroidの設定を保持したままゲストOSとして別のAndroidをブートするという開発者向け機能です。

Dynamic System Updates(DSU) | Android デベロッパー | Android Developers

https://developer.android.com/topic/dsu?hl=ja



Malchev氏によると、DSUはベータビルドのテストに使用されることが意図されており、Generic System Imageなどを工場出荷時の設定を損なわない状態で実行するのに用いられる予定とのこと。DSUによって、開発者が開発用のデバイスを必要としている場合に「Samsungのシステムイメージを壊してしまった」といった事故を起こさずに、システムイメージを実行できる環境を構築できるようになる見込みです。