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監視カメラなどで活用が進むAI・IoTシステム(写真:ロイター/アフロ)


(木村 優志:Convergence Lab.株式会社 代表取締役CEO)

 総務省が令和2年版の情報通信白書を公開した。AI(人工知能)及びIoT(Internet of Things)の企業普及率は14.1%と、前年から2ポイント増にとどまった。2012年に飛躍的なブレークスルーによって火がついたAIブームだが、8年たった現在でも8割以上の企業では実用に至っていない。

 筆者は、この状況を肯定的に捉えている。これからAIの普及が本格的に始まると期待できる根拠がいくつもあるからだ。過度に期待されていた一時期に比べて、本当に価値あるAIの導入が増えていくだろう。

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「魔法の技術」は幻想だと気づいた企業

 革新的な技術として企業からの熱視線を集めたAIは、使いこなす難しさから幻滅され始めている。いくつもの大手企業と組むAIベンチャー、プリファード・ネットワークスの西川徹CEO(最高経営責任者)は「AIブームはもう終わる」と断言。AI研究者や企業の中には、興味を失われまいとして「水面下で普及が始まっている」といったメッセージの発信を始めている。

 AIが幻滅されているのは、過去にも記事にした通り、技術とは別のハードルがあるからだ。例えば、現場の知識と協力が必要な点などが導入の障壁になりやすい。

 開発できるAIの開発を検討するには、現場担当者の知識に基づくデータの分析・解釈が欠かせない。100%の精度が出せないAIを運用するには、現場で働く社員とAIが協力する体制作りも必要だ。技術に精通する企業に外注するだけでは、企業のAI導入は進まない。

 幻滅されつつある最たる原因は、AIを何でもできる魔法のような技術だと誤解していたからかもしれない。8月に総務省が公開した通信利用動向調査報告書によれば、AIやIoTを導入しない主な理由は「導入すべきシステムやサービスが不明だから」(46.0%)、「使いこなす人材がいないから」(43.7%)など。言い換えれば、「AIがよく分からないから導入しない」というものだ。

 業務を知る社内にはAIで何ができるか分かる人材がいない。社外の有識者に質問してみても、業務の中で生まれるデータを知らなければどんなAIが作れるかは分からないから、期待できる答えは返ってこない。「AIが仕事を奪う」などと言われているのに、ちっとも業務を代替できないAIに幻滅していくというわけだ。

幻滅の後に訪れる回復期

 幻滅され始めたAIの普及が期待できる根拠の一つが、IT分野の調査会社である米ガートナーの「ハイプ・サイクル」だ。技術が普及するまでの過程を図示したもので、「黎明期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「安定した生産期」からなる。ガートナーは、それぞれの技術が現在どのような時期にあるかを定期的に報告している(最新レポート)。

IT分野の調査会社である米ガートナーによる「ハイプ・サイクル」(出典:米ガートナー)


 AIを魔法のような存在だと誤解してしまうのは、まさに「過度な期待」だ。それが、2019年に発表されたハイプ・サイクルでは、期待の坂を下る幻滅期に入った。ブームに乗った企業の中には幻滅期で顧客を失い、事業継続が難しくなるケースもあるかもしれない。しかし、それを乗り越えて回復期に到達すれば、地に足がついた導入事例が増えてくるはずだ。

 よく似た指摘がマーケティングの世界でもある。サービスの普及が16%程度で伸び悩むという「キャズム理論」だ。新しい技術や製品を積極的に使う「イノベーター」や「アーリーアダプター」に行き渡った後、マジョリティ層に普及するまでにキャズム(溝)があるというもの。同時に、キャズムを超えると一気に普及するとも言われている。

 このキャズムを陥るとされている普及率が16%だ。情報通信白書が報告するAI・IoTの普及率14.1%は、このキャズムに近い。幻滅され、普及の勢いは鈍るが、正しい認知が広がってキャズムを超えれば、回復期に至って多くの企業でAI・IoTが使われるようになると期待できる。

キャズムを超えていない企業は誰か

 全体で見れば幻滅期に入り、キャズムに陥って普及率が伸び悩みつつあるAIだが、業界によっては既にキャズムを超えて回復期に入っている。例えば、金融業界では45.8%の企業がAI・IoTのシステムの導入に取り組んでいる(導入済み31.4%、導入予定14.4%:通信利用動向調査)。

 システムの内容は監視カメラが多いようだ。システムやサービスの30.4%が監視カメラを構成する機器として含む。人手に頼りがちだったチェック作業が監視カメラによってシステム化が進んでいるのだろう。

 AIを利用している企業では、もはや何にAIを使うかに悩んでいる段階は終わり、AIの運用ツールの開発にしのぎを削っている。AirBnBのAirFlow、SpotifyのLuigi、エムスリーのGoKart、NetflixのMetaFlowなど、新しいAIの運用ツールは枚挙に暇がない。AIを使いこなす企業と幻滅している企業の差は開く一方だ。

企業格差が広がる日本の近未来

 人口が減っていく日本では、AIなどの技術活用は避けて通れない。生活様式や価値観の多様化に対応するにも、複製コストが安く人件費がかからないAIは有効な技術だ。新型コロナウイルス感染症対策で注目されるロボットなどの無人化技術でも、AIが研究されている。

 企業は、AIに幻滅している場合ではない。企業数では伸び悩むAIシステム・サービスだが、2020年のAIシステム市場予測は新型コロナの影響を入れても前年比43.2%増と急成長(IDC Japan調べ)が見込まれている。システム導入が済めば落ち着くはずの投資が加速しているのは、既にAIを導入している企業が追加投資をしていると読み取れる。

 その多くが大企業だ。企業全体では14%程度にとどまるAI・IoTの導入企業も、従業員人数2000人以上の大企業だけで見れば55.4%が導入済みだだと答えている(通信利用動向調査)。導入予定の企業も14%に至り、大企業に限って見れば幻滅期どころか本格普及が始まっているのだ。

 大企業が手を出しづらいとされてきたニッチ市場も、AIやIoTで無人化・効率化が進めば採算が取りやすくなる。AIを業務に活かすノウハウは外注では補いにくい。中小企業にとっては、AI活用への乗り遅れが市場競争力の損失になるかもしれない。

 我々はロボットがバク宙をするような時代を生きているのだ。導入にハードルがあるからと言って、AIそのものに「使えない」とレッテルを貼って勝手に幻滅している場合ではない。(構成:広田 望)

筆者:木村 優志