旧上瀬谷通信施設に入る道。門はないが関係者以外立ち入り禁止で、看板には「無断で立ち入り、事故などがあっても、横浜市および関係地権者は、一切の責任を負いません」とある(筆者撮影)

横浜市郊外に新交通システム「(仮称)上瀬谷ライン」を建設する計画が明らかになった。相模鉄道本線の瀬谷駅から北へ約2.6kmの複線で整備する。開業予定は2026年度。1車両は約8.5mのサイズで、ゆりかもめとほぼ同じ。最大8両編成で、ラッシュ時間帯で上下36本を運行する。ゆりかもめは6両編成でラッシュ時間帯に上下30本だから、上瀬谷ラインはゆりかもめを上回る輸送力になる。この輸送力の想定は上瀬谷地区の大規模な再開発計画に基づいている。

2020年7月20日、朝日新聞は「横浜にディズニー級テーマパーク構想 米映画会社の名も」と題して、横浜市郊外の上瀬谷地区に大規模な再開発計画があると報じた。これは横浜市が6月30日に発表した「旧上瀬谷通信施設における国際園芸博覧会の開催及び基盤整備に向けた検討について(報告)」を受けて追加取材した記事だと思われる。

「旧上瀬谷通信施設」とは?

旧上瀬谷通信施設は、第二次大戦中に日本帝国海軍が倉庫として使用していた場所だ。戦後はGHQに接収され、米海軍の通信基地として利用され、日本への返還は2015年6月だ。面積は約242ヘクタールで、皇居の内堀で囲まれた部分(約230ヘクタール)より広い。内訳は国有地が約45%、民有地が約45%、市有地が約10%となっている。


旧上瀬谷通信基地のほとんどが農地になっている。「馬糞あげます」という乗馬学校の看板があった(筆者撮影)

民有地のほとんどが農地として活用されており、国有地は未開発で建物が残された場所もある。市有地は道路部分で、これは道路整備の都合だろう。報道では、このうち約125ヘクタールについて、超大型テーマパークを核とした観光開発の実現可能性があると報じた。相鉄ホールディングスが2019年4月に提案し、海外の調査会社に委託調査した結果とのこと。約125ヘクタールは総面積の6割以上。東京ディズニーランドの約51ヘクタールと東京ディズニーシーの約49ヘクタールを足した面積より大きい。実現すれば確かに「超大型」である。

横浜市は記事掲載の翌日、「(仮称)旧上瀬谷通信施設地区土地区画整理事業及び(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業の環境影響評価方法書を縦覧し、説明会を開催します!」という報道発表資料を公開した。前日の朝日新聞記事で注目が集まり、良いタイミングだ。


上瀬谷ラインの計画図(画像:横浜市(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業環境影響評価方法書より)

一方で、相鉄HDは朝日新聞の記事掲載直後「報道は当社が発表したものではない」というコメントを発表した。「相鉄線沿線の活性化視点でさまざまな検討を進めていることは事実」としつつ、「本地区に関わる事業に関して、現時点で当社として決定した事実はありません」という。

横浜市の発表によると、旧上瀬谷通信施設地区への交通手段として、相鉄本線の瀬谷駅から新交通システムを建設する。新交通システムの運営事業者は横浜シーサイドラインのような第三セクターを想定している。

しかし、その起点が相鉄の瀬谷駅となれば、事実上、相鉄の最寄り施設となる。集客力を期待できるから、相鉄のテーマパーク建設希望は自然な流れと言えよう。

相鉄沿線に足りないモノ

相鉄は「決定した事実はない」というけれども、何らかの形で関与すべき事案だ。なぜなら、大型観光施設はほとんどの大手私鉄が持っていて、相鉄が持たざるモノだからである。沿線のテーマパークや観光施設がない。私はここが相鉄の弱点だと思っている。

小田急は箱根、京王は高尾山、西武は秩父と川越、東武は日光と川越など、通勤とは逆方向の輸送需要がある。京成は成田山と成田空港があり、東急はこどもの国と横浜、最近は南町田グランベリーパークにスヌーピーミュージアムを誘致した。西武は飯能のムーミンバレーパークも記憶に新しい。

相鉄も海老名と横浜というレジャータウンがある。これらは相鉄沿線の人々にとって住みやすさ、楽しさを提供している。むしろ海老名から小田急で箱根方面へ行けるし、横浜からJRも東急も京急もある。相鉄は何もしなくても、沿線の人々にレジャー輸送を提供し、定期外運賃を稼げた。コバンザメ商法にも見えるし、運賃収入もそこそこだけど、経営的にはそれも強みと言えるだろう。

しかし、相鉄には沿線外の人々を呼び込むチカラが小さい。


相模鉄道と瀬谷駅 赤い点線が仮称上瀬谷ライン(画像:地理院地図を筆者加工)

ご存じの通り、2019年11月30日から「相鉄・JR相互直通運転」が始まった。相鉄にとって念願の東京都心直通運転だ。2022年度には東急新横浜線と直通予定で、東横線、目黒線に直通する予定になっている。都心直通が便利になる一方で、いままで横浜まで乗ってくれた客が西谷でそれてしまう。それでも相鉄はグループ全体の利益を取った。相鉄線全体が都心への通勤に便利になれば、不動産の需要は増え、人口も増えて、生活関連産業も活性化される。

相鉄にとってはそれで満足かもしれない。いや、実は満足はしていない。だから上瀬谷にテーマパーク建設を進言したと思われる。なぜなら、「相鉄・JR相互直通運転」と「相鉄・東急相互直通運転」には、片方向の需要しか発生しないからだ。朝の上り方向、夕・夜間の下り方向だ。逆方向にはほとんど需要がないから、長編成の電車がもったいない。

これだけ需要が偏った新設路線も珍しい。そうかといって、都心方面の人々にとって相鉄沿線には目的地がない。せいぜい横浜市、川崎市の運転免許保持者が二俣川の運転免許センターに行く程度だ。相鉄沿線の人々が行く海老名は小田急で行ける。横浜はもちろんJRまたは東横線で行く。相鉄関係者にそれとなく聞いてみたけれど「緑の多い沿線、子育てに良い環境に定住していただきたい」というだけで、都心直通線の逆方向需要の創出は考えていないようだった。

しかし、瀬谷駅付近に超大型テーマパークができたとしたら、都心直通線の逆方向需要が発生する。沿線外から人を呼ぶ観光施設がようやく誕生する。相鉄に足りなかったパズルの最後のピースが埋まる。だから「決定した事実はない」という相鉄も「決定するため」に知恵を絞っているはずだ。それとも、誰かがテーマパークを作ってくれたら電車の客が増えるかな、とコバンザメを決め込むだろうか。

上瀬谷ライン沿線を歩いてみた

上瀬谷ライン沿線はどんなところだろう。起点となる相鉄本線の瀬谷駅は横浜駅から13番目。JR直通線(新横浜線)の分岐点の西谷駅、相鉄いずみ野線と分岐する二俣川駅の西側にある。小田急江ノ島線と交差する大和駅の隣だ。特急・通勤特急は通過する。


瀬谷駅北口。中央が駅舎。左の建物はバス発着場、マイカー送迎場、駐車場。右はスーパーマーケットが2棟(筆者撮影)


横浜市立瀬谷中学校付近から環状4号線(海軍道路)を北上。上瀬谷ラインはこのあたりから環状4号線の地下を進む。道路直下はシールド工法を採用する(筆者撮影)

瀬谷駅は都心直通線の準備として2010年から2面3線から2面4線へ改造する工事に着手し、2013年12月に完成した。駅の北側は区画整理が進み、大型商業施設と交通広場を兼ねた大型駐車場ビルが建つ。駅の南側も再開発が始まり、大型マンションと商業施設を兼ねた「ライブゲート瀬谷」が建設中だ。

横浜市が7月に公開した「環境影響評価方法書」によると、上瀬谷ラインの瀬谷駅は瀬谷駅の北側の地下に造られる予定だ。具体的な場所は未定。地表部から掘り下げる箱型トンネル(開削工法)を採用するとのことで、既存構造物への影響を避けるならば、横浜市立瀬谷中学校の南側が無難だろう。ここから環状4号線(横浜市主要地方道18号)の地下を北上する。通称「海軍道路」で、桜並木の道として地域の人々に親しまれている。沿道は住宅街で、大きな商業施設はない。

海軍道路は片側1車線で、桜並木もあることから歩道が広めで歩きやすい。駅へ向かう高校生のグループと何度かすれ違った。しばらく進むと神奈川県立瀬谷西高校がある。瀬谷駅から徒歩20分ほどだろうか。


瀬谷西高校前交差点。このあたりに駅があってもよさそうだ(筆者撮影)

ここまでが住宅街で、高校の北側から突然人家が消える。畑、建設会社の資材置き場。海軍道路は一直線に整った道でありながら、バス路線はない。この風景を見る限り需要はなさそうだ。

ちなみに、瀬谷駅から北方面のバスは、海軍道路の西側の県道401号と東側の相沢地区経由の路線がある。相沢経由のバスの終点は細谷戸で、旧上瀬谷通信施設の南側。集合住宅が林立している。海軍道路周辺に住む人々は、駅まで直線的に20分ほど歩くか、地域両側のバス停を利用することになる。

上瀬谷ラインに中間駅の計画はないけれども、瀬谷西高校の南側に駅があると便利だ。平日の通勤通学需要も見込めて事業の採算性が上がると思う。既存のバスに遠慮しているのだろうか。

地平線が見えそうな広い敷地

消防署とガソリンスタンドが並ぶ信号機付きの交差点があり、この先の右側、方角で言えば北東方向が旧上瀬谷通信施設の敷地だ。


上瀬谷小学校東側交差点。上瀬谷ラインはここから地上区間になる(筆者撮影)

上瀬谷ラインはこの付近から地上区間になり、海軍道路の東側を併走する形になる。地表式と高架式の2案が検討され、建設費用、用地、振動、騒音などの要素から、地表案が有力だ。地表に建設される新線は珍しい。旧上瀬谷通信施設全体の土地利用計画の段階で踏切を作る必要はないからだ。

現状でも海軍道路から農地へ向かう道がいくつかあるけれども、農業関係者以外は立ち入りできない。「敷地内について管理者は責任を負わない」という看板があった。米軍基地時代の名残とも言えそうだ。上瀬谷小学校東側交差点付近に終点の上瀬谷駅があり、この駅の関連整備として、両地区を結ぶペデストリアンデッキや立体交差道路ができれば問題ない。


旧上瀬谷通信施設の敷地には広大な農地が広がっている(筆者撮影)

海軍道路の両側はどちらも農地となっていて、ほとんど景色が変わらない。旧上瀬谷通信施設の敷地は広大で、北海道の農場を思わせる。地平線が見えそうだ。その景色のまま、海軍道路は緩やかに右へカーブする。このあたりが車両基地の予定地だ。ここで折り返してもよかったけれど、旧上瀬谷通信施設の外周を歩いてみようと思い立つ。しかし真夏の散歩としては過酷だった。ディズニーワールドより広い敷地だから当然ながら長距離で、旧上瀬谷通信施設を横断して海軍道路に戻ろうにも立ち入り禁止であった。

遠路行軍の収穫としては、保土ヶ谷バイパスに到達した時点で、この地域が東名高速横浜インターに近く、旧上瀬谷通信施設の北側の八王子街道が片側1車線で渋滞していることがわかった。超大型テーマパークを作ったとして、北側からクルマで来訪する人々の動線が気になる。開発に合わせて周辺道路の整備が必要だ。


旧上瀬谷通信施設地区の位置(赤枠)。瀬谷駅を起点とすると南側からの上瀬谷ラインは妥当だが、東名横浜町田インター、国道16号パイバス、東急田園都市線方面からのアクセスも考慮する必要がある(画像:地理院地図を筆者加工)

また、開業後の第2段階として、上瀬谷ラインの北部延伸も検討に値する。環状4号線に沿う形であればJR横浜線の十日市場駅へ。鉄道空白地帯を埋める形になる。さらにそのまま環状4号線を進み、東急田園都市線青葉台まで来てくれると、田園都市線園線からのテーマパーク集客に弾みがつきそうだ。

上瀬谷ラインの開業予定は2026年度。その完成時期を見込んで、横浜市と国は2027年の国際園芸博覧会の招致活動を行っている。超大型テーマパークはその次のプロジェクトだ。ディズニーワールド、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの成功を筆頭に、ムーミンバレーパーク、スヌーピーミュージアムなど海外IPコンテンツの観光施設が作られている。直近ではとしまえん跡地に『ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 -メイキング・オブ ハリー・ポッター』が発表されたばかりだ。

日本コンテンツのテーマパークに期待

さて、これらのライバルに並ぶテーマパークは何になるか。

そろそろサンリオピューロランド、藤子・F・不二雄ミュージアムのような、日本発祥のキャラクターコンテンツがほしいところだ。任天堂スーパーマリオはUSJで展開しているけれど、もっと大規模に横浜で展開できないか。エンジン付きのマリオカートでレースをしてみたい。あるいはガンダムをはじめ、サンライズ、バンダイ系のロボットはどうか。10月3日に東映太秦映画村でエヴァンゲリオン京都基地もオープンする。

相鉄が関わるとしたら、かつて相鉄がコラボレーションした「ウルトラマンシリーズ」がある。現在も新作が制作されているし、海外権利訴訟が起きたことからも、世界的な人気を感じさせた。ウルトラマン関連グッズはバンダイが販売している。海外の人気コンテンツは手っ取り早く成功しそうだけど、日本の人気コンテンツをまとめたテーマパークの実現に期待したい。