「他との差を出来る限り広げておきたい」商社No.1伊藤忠会長が語った“コロナ禍の経営戦略”

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 今年6月、伊藤忠商事は時価総額と株価で三菱商事を抜き、史上初めて総合商社のトップに立った。8月末には子会社であるファミリーマートへのTOB(株式公開買い付け)を成立させ、保有比率を約65%に高めるなど、次なるビジネスに向けて新たな挑戦も行っている。

 コロナ禍で日本企業が大きな打撃を受ける中、伊藤忠がコロナの時代を勝ち抜く秘訣は何か。経営トップとして同社を10年間率いてきた岡藤正広会長CEOに聞いた。


建て替え予定の本社

商社は「人と会ってなんぼ」

「商社マンというのは、現代の商人です。商人が忘れてはいけないのが『お客さん目線』。仕入先も、得意先も、その先の一般の消費者も商社にとってはみんな大事なお客さん。どうやったらお客さんに喜んでもらえるか、これを考えるのが大事です。商人がでんと座っていたら商売にはならない。常に自分から動いて、自分を変えて行かないといけません」

 伊藤忠は緊急事態宣言が出された4月上旬、人命優先と考え原則、在宅勤務を導入した。だが、社内ではコロナ禍における働き方改革が誤解されて、ラクに、自由に働くことが新しい働き方だと勘違いされてしまった面があるという。岡藤氏は「商社が『人と会ってなんぼ』であることを忘れてはあかん」という。

「子会社の婦人服ブランドを担当する、ウチの30歳過ぎの女性社員は、在宅勤務中も様子が気になってお店を見て回ったそうです。銀座三越の店舗に行ったところ、多くの女性スタッフが鏡の前に並んで、どうすればマスクを着けても笑顔が伝わるか、一生懸命研究していたらしい。彼女はその様子を見て、『自分のように若い社員がずっと家にいたらいけない』と目から鱗で、その日は一日中店頭に立って手伝い、応援するために自腹で14万円分の服を買って帰ったそうです。この話を聞いて、これやな、と。この心意気こそ大事なんです」

「ポスト岡藤」はどうなる?

 長年、伊藤忠を率いてきた岡藤氏も今年で71歳を迎える。後継者についてはどう考えているのだろうか。

「毎年、『今年までや』と思っていますが、経営をバトンタッチするタイミングはホンマに難しい。今はトップスピードで駆け上がったところです。次の走者はバトンを渡されたら、すぐにトップスピードで走らないといけません。これはある意味ではかわいそうなこと。次の経営者が今後も勝ち続けられるとは限りません。ウチは体育会系の社員が多い。順風の時はガンガンいくけど、ひとたび逆風になれば、心がポキッと折れるんちゃうかと心配しているんです。ですから一度勝ったからといって、『これでもうええわ』とバトンを渡すのではなく、今の勢いを保ったまま、他の商社との差を出来る限り広げておきたい。そうすれば次の走者も余裕を持って走り始められるでしょう」

「文藝春秋」10月号および「文藝春秋digital」に掲載した「伊藤忠会長 コロナ禍こそ人と会ってなんぼ」では、コロナ禍にも変わらぬ商人の心得に加えて、伊藤忠が力を入れてきたアパレル部門をはじめとした生活消費関連ビジネスの展望や、同社が「アベノマスク」の生産を受注した際の経緯についても明かしている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年10月号)