販売が好調なダイハツ「ロッキー」(写真:ダイハツ

ダイハツは以前から軽自動車と併せて登録車(小型/普通車)をラインナップしてきたが、販売台数は少なかった。ダイハツが開発と生産を行う小型車はトヨタにも供給され、ダイハツは軽自動車の販売に徹していたからだ。

ところが、最近はこの役割に変化が生じている。ダイハツの小型車であるコンパクトSUVの「ロッキー」が売れ行きを伸ばし、2020年上半期(1〜6月)には、コロナ禍の影響を受けながらも1カ月平均で2909台を登録した。

この販売実績は、ロッキーのライバルとなるホンダ「ヴェゼル」(1カ月平均3015台)、トヨタ「C-HR」(同3065台)に迫る。ロッキーの売れ方は、従来のダイハツの小型車とは明らかに異なるのだ。


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ロッキーはトヨタにもOEM車として供給され、「ライズ」の名称で販売されている。ライズは2020年上半期に1カ月平均で9749台を登録したから、ロッキーに比べれば格段に多いが、トヨタ「パッソ」/ダイハツ「ブーン」などこれまでのOEMモデルの販売状況と比べると、その格差は縮まっているのだ。

「ライズ」にはない「ロッキー」の強みと商品力

なぜロッキーはこれほど売れるのか、ライズとは競争するのか。ダイハツの販売店に尋ねると、以下のような返答だった。

「ロッキーは売れ筋カテゴリーのコンパクトSUVなので、注目度が高いです。ライズと競争することもありますが、値引きなどの条件はロッキーの方が若干、上まわります。ライズは人気が高く、納期に3カ月を要しますが、ロッキーなら2カ月で納車できます。このほか、ロッキーには最上級グレードのプレミアムが用意され、ボディカラーにも専用のコンパーノレッドがラインナップされるなど、ライズとは違う特徴があります」


「ロッキー」の専用色であるコンパーノレッド(写真:ダイハツ

ロッキーは、納期が短い販売面のメリットに加え、ライズと異なるグレードやボディカラーを揃えることで、ダイハツの小型車ながら売れ行きを伸ばした。

前述のロッキープレミアムは、安全装備のブラインドスポットモニターなどを標準装着し、シート生地はライズでは選べないソフトレザー調となる。なぜロッキーには、ライズとは違う上級グレードを用意したのか。この点は開発者に尋ねた。

「今までダイハツとトヨタで販売するOEM関係にあるクルマは、基本的に同じ仕様でした。そうなると、両車でお客様を奪い合います。しかし、同じクルマでも、実際にはダイハツとトヨタでお客様のニーズが違うのです。トヨタのライズは、ミドルサイズのSUVやミニバンからダウンサイジングするお客様が中心となりますが、ロッキーは質感を高めた最近の軽自動車から、さらに上級移行するアップサイジングのお客様が多くいます。軽自動車から小型車に乗り替えるお客様は、価格が少し高くても上質なクルマを求めるため、ロッキーには上級グレードのプレミアムを設定しました」

ダイハツでは、軽自動車から小型車にアップサイジングするユーザーも多く、その事情に合わせた綿密な商品開発が行われていたのだ。ダイハツの小型/普通車の売れ行きを振り返ると、実際に近年になって増加傾向にあることがわかる。

ポイントはトヨタ完全子会社となった2016年

2010年のダイハツは、日本国内で60万台を超える軽自動車の届け出をしながら、小型/普通車の登録台数は1年間でわずか5825台だった。2015年はさらに減って1654台だ。1カ月平均なら138台にとどまる。軽自動車は1年間に61万台以上を届け出したから、この時代のダイハツは、小型/普通車をほとんど販売していなかったといえる。

ところが2016年には、小型/普通車の登録台数が前年の4倍以上に相当する6930台に増えた。この年は、4月にブーンが現行型へフルモデルチェンジされ、11月にはスライドドアを持つコンパクトワゴンの「トール」も登場した。


広い室内空間で人気のダイハツ「トール」(写真:ダイハツ

いずれもOEM車としてトヨタも扱う小型車だが、ブーンやトールもテレビCMを活発に放送して、販売促進に力を入れた。その結果、売れ行きが伸びたのだ。

2016年には、トヨタがダイハツの株式を100%取得して、完全子会社化している。それまでのダイハツは、販売面では実質的に軽自動車だけを扱っていたが、トヨタの完全子会社になった年から小型車にも力を入れ始めた。

このあと、ダイハツの小型/普通車の登録台数は、2017年に2万8113台になり、前年の4倍以上に増えた。2018年は3万5305台、2019年は4万3695台とさらに増加。ダイハツの小型/普通車登録台数は、2015年から2019年までのわずか4年間で、26倍に急増しているのだ。

ここまでダイハツの小型/普通車が増えた背景には、どのような事情があったのか。ダイハツの販売店に改めて尋ねた。

「現行型のブーンとトールが発売されてから、ダイハツは小型車の販売にも力を入れています。販売店の試乗車も充実しました。小型車に力を入れる理由は、軽自動車の好調な売れ行きが、今後も長く続くとは限らないからです。そこで軽自動車から小型車に上級移行するお客様にも、目を向けるようになりました。税制も変わり、軽自動車税が上がった一方で小型車の自動車税は下がったので、差額も縮まりました」

軽自動車税は、2015年4月の届け出以降、従来の年額7200円から1万800円となった。自動車税は、2019年10月1日の登録から、逆に値下げされている。特に排気量が1リッター未満の車種は、年額2万9500円から4500円下がり、2万5000円になった。

そのため、1リッター車の自動車税と軽自動車税の差額は、以前は年額2万2300円だったが、今は1万4200円に縮まった。軽自動車には不利な条件で、ダイハツが小型車に力を入れる一因になっている。なお、ロッキー、トール、ブーンはいずれも1リッター車だ。

トヨタからのOEMは増やさない

今後は、ミドルサイズセダン「カムリ」のOEM車である「アルティス」のように、ダイハツがトヨタから小型/普通車の供給を受けることもあるのか。この点も販売店に尋ねた。

ダイハツがトヨタからの供給台数を増やすことはありません。ダイハツが販売に力を入れるのは、あくまでも自社で開発と生産を行う車種です。今はロッキー、トール、ブーンの3車で、エンジン排気量はすべて1リッターです。また新たに小型商用車の『グランマックス』も加えました。このクルマはトヨタ『タウンエース』の姉妹車ですが、インドネシアにあるダイハツの工場で生産される輸入車です」


「グランマックス」はインドネシアの「アストラ・ダイハツ・モーター」で生産される(写真:ダイハツ

要は、今後のダイハツは軽自動車に加えて、1リッターエンジン搭載のコンパクトカーにも力を入れるということだ。1.5リッターエンジンを用意する「ヤリス」までは取り扱いを広げないが、ロッキー(トヨタ版はライズ)、トール(同ルーミー&タンク)、ブーン(同パッソ)は、両ブランドで扱う。

パッソの機能と価格帯は、ヤリスと重複する。ルーミー&タンクも、今後発売されるといわれるヤリスをベースにした背の高いコンパクトカーに近い。従って、ダイハツのコンパクトカーが好調に売れると、トヨタへのOEMを行わないダイハツ専用の小型車が出てくることも考えられる。

なぜなら、ダイハツが1年間に小型/普通車を10万台以上売るには、トヨタ車と競わない以前の「シャレード」のような専売車種が必要になるからだ。


「シャレード」はかつて販売していたダイハツオリジナルの小型車(写真:ダイハツ

2019年にダイハツは小型/普通車を4万3695台登録したが、スズキは12万2031台に達した。これに対抗するには、ダイハツにもスズキと同様、専売の小型車が必要だ。

ダイハツ、トヨタ、レクサスの棲み分け戦略

現行ブーンとトールが発売され、なおかつダイハツがトヨタの完全子会社になった2016年を境に、両社の関係と国内に向けた販売戦略は大きく変わった。

今ではトヨタとダイハツは実質的に一体で、レクサスも含め、3つの乗用車ブランドを国内展開している。トヨタブランドの価格帯は、実質的にヤリス1.5X(CVT)の159万8000円が下限で、これより安い領域と軽自動車がダイハツの守備範囲だ。トヨタブランドの実質的な上限は、「アルファード ハイブリッドS」の479万9000円あたりだろう。500万円以上は、今は商品力が弱いものの、レクサスブランドの価格帯になる。

今のトヨタは、小型/普通車では約50%の国内シェアを得ているが、ホンダや日産も軽自動車に力を入れているから、市場全体の占有率は約30%にとどまる。ダイハツと日野を加えたグループ全体でも、45%だ。今後のトヨタは、ダイハツとの連携を強めて合理化を図りながら、国内シェアを50%以上に高める方向へ進む。

トヨタから独立性を強めたダイハツが、ロッキーのような魅力を備えた1リッター車を投入すると、日本のコンパクトカー市場はさらに楽しく活性化するだろう。1リッターディーゼルターボを搭載した往年のシャレードのような、ユニークな商品の登場にも期待したい。