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スポーツカー需要は未だアメリカ主導

text:Kenji Momota(桃田健史)

やはり、アメリカを向いている。

日産が2020年9月16日、オンラインで実施した「フェアレディZプロトタイプ」世界初公開を見て、そう感じた日本のユーザーは多かったことだろう。

オンラインで実施した「フェアレディZプロトタイプ」世界初公開のもよう。    日産

内田誠CEOのプレゼンの後、タレントのクリス・ペプラー氏が進行役として、グローバルデザイン担当専務執行役員のアルフォンソ・アルバイサ氏と、次期フェアレディZの商品企画を総括するチーフ・プロダクト・スペシャリストの田村宏志氏が参加したユーザーとのオンライン質疑応答。

最初に登場したのは、アメリカの「Z」愛好家たちが集まるイベントだった。

ワールドプレミアであっても、アメリカを最優先する企業姿勢。

初代(S30)以来、フェアレディZの販売実績を下支えしてきたアメリカのユーザーと、アメリカの日産ディーラーに対する配慮である。

フェアレディZに限った話ではなく、スポーツカーやスーパーカーが企画される時、日系メーカーも欧州メーカーも、アメリカでの市場動向を最重要視するのは、1950〜1960年以降、いまでも変わっていない。

そんなアメリカで、2021年に発売開始される次期「フェアレディZ(北米名は400Z?)」の実質的なライバルになるのは、どういったモデルであろうか?

筆者のアメリカでの実体験を踏まえて、5つのモデルを挙げてみたい。

BMW製 心のハードル逆手に取れる?

まずは、トヨタ「スープラ」

日本人でも、すぐに頭に浮かぶライバルはスープラだろう。

トヨタ・スープラ    トヨタ

新型スープラについては、開発担当で「86」も手掛けてきた、トヨタの多田哲哉氏は、アメリカの86ユーザーの市場動向を調査したうえで、新たなスープラの可能性を確信した。

つまり、86ユーザーがステップアップしようとする際、日系メーカーでスポーツカーを探すとなると、「Z(現行車は370Z)」しか選択肢がない状況にあった。

90年代には、Zに加えて、三菱「3000GT(日本のGTO)」、そしてスープラが日系上級スポーツカー御三家を形成し、アメリカ人たちの関心が高かった。だが、3000GTとスープラが抜け、Zひとりぼっち時代が長らく続いた。

となれば、新型Zのライバルの筆頭がスープラになるのは当然のことだ。

歴代スープラを愛してきたオーナーの一部には、BMW製である現行スープラに対する抵抗感があるのも事実であり、そうした元スープラオーナーたちに対して、北米日産は日産純正としてZの商品力をどこまで上手く訴求できるか?

フェアレディZコンセプトでの説明で、日産関係者が何度か指摘した「ヘリテージ(歴史)」について、スープラに対するZの強みを主張するべきだろう。

マスタングがカマロもライバルになる

アメリカ人にとって、Zは海外メーカーによる輸入車。

となれば、アメリカ国産車でのライバルが存在する。

フォード・マスタング

アメ車の2ドアスポーツカー御三家といえば、フォード・マスタング、GMシボレー・カマロ、そしてダッジ・チャレンジャーだ。

日本人感覚では、これら3モデルには、60年代を彷彿させるマッスルカーのイメージが強く、そのためヨーロピアンテイストを感じさせる初代Z(S30)から続くZの商品性とは大きく違い、Zのライバルと言われてもピンとこないかもしれない。

だが、マスタング、カマロ、チャレンジャーは、ベースモデルはZと同じ3万ドル台(約300万円台)前後。

また、女性ユーザーも比較的多いコンバーチブルの設定という面でも、Zとの商品共通性がある。

ここで気になるのは、ハイパフォーマンス系への対応だ。

マスタングのシェルビーや、チャレンジャーのSRTなど、ドラッグレースのイメージ優先でのハイパワー・ハイトルク型の上級グレードが、アメリカでは根強い人気だ。

ここにニスモ・ブランドとして対抗策を打つのか?

Z33、Z34では、サスペンションやボディスタイリングが主体のメーカー系チューンに徹してきたが、新型Zではそうした旧日産の殻を破ってくるのかどうか?

日本人にとっては意外なライバルも

2ドアスポーツカーといえば、GMシボレー・コルベットがある。新型はリアミドシップ化して、まるでフェラーリにような風貌となったことが日本でも大きな話題だ。

先代までのFRでは、一見するとZのライバルになりそうに思える。だが、コルベットファンのコルベット愛は強く、それはZファンのZ愛も同じだ。両車はライバルというより、お互いの存在を尊重している。そんな間柄であり、実質的にライバルとは言えない。

ポルシェ718ケイマン

一方、日本人にとっては意外かもしれないが、Zのライバルはポルシェだ。

アメリカ国内価格では、「718」がZの約2倍、「911」が約3倍であり、一般的な買い物感覚ではライバルではない。

だが、実際には「Zがとても気になる」というポルシェユーザーが多い。特に、新型Zのフォルムからすると、そうした思いを持つポルシェユーザーはさらに増える可能性がある。

むろん、セレブ層ならば新型Zを買い足してガレージに並べることも十分あり得る。

また、日産側もZ33開発時点で、911をベンチマークとして研究を進めていたことを当時、Z33の開発統括者から直接聞いている。

これは、開発者としての自己満足ではなく、アメリカでの市場調査をもとにした考え方である。

実際、新型Zが日米でどんなモデルとライバル関係になるのか、今後の市場動向を注視したい。