米ホワイトハウスで記者会見を行うドナルド・トランプ大統領(2020年9月16日撮影)。(c)MANDEL NGAN / AFP

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【AFP=時事】米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを11月の大統領選までに実用化できるかもしれないと述べている。だがそのワクチンは安全かつ有効なのか?

 専門家らは、ワクチンの承認と流通プロセスの監督に責任を持つ世界的に有名な米保健機関が、政治的圧力によっていっそう妥協を強いられつつあり、人の命を犠牲にすることにもなりかねないと懸念している。

 問題の渦中にあるのは、米食品医薬品局(FDA)と米疾病対策センター(CDC)だ。歴史的に派閥対立を超越した存在とみなされてきたこの2つの機関は、世界の科学界から幅広い尊敬を集めてきた。

 だが両機関の専門家らは今、トランプ氏のトップ補佐官らから深い疑念の目で見られている。大統領が進める経済再開策に抵抗しているとみなされているのだ。

 これまで公衆衛生上の危機の際には定例会見を開いてきたCDCの上級科学者らは、今回の新型コロナウイルスに対しても最初に警鐘を鳴らしたが、3月以降は脇へ追いやられている。

 長らく世界基準とみなされてきたCDCの公式ガイドラインにこの夏、不可解な改訂があった。学校の対面授業再開を強く奨励するようになったこと、それからCOVID-19患者との接触者でも無症状であれば検査の必要はないと助言したことだ。

 特に後者の動きが言語道断とみられているのは、科学的根拠が何も示されていないことに加え、トランプ氏が発言している検査数を少なくしたいという意向に沿ったものだからだ。

 米政治ニュースサイト「ポリティコ(Politico)」の報道によると、米保健福祉省広報部門トップのマイケル・カプート(Michael Caputo)氏はここ数か月にわたって、CDCの「週間疾病率死亡率報告(Morbidity and Mortality Weekly Report)」に掲載された新型ウイルス関連の科学報告を見直すよう要求しているという。例えば子どもの接触感染性の水準についてなどだ。

 同報告の編集委員であるウィリアム・シャフナー(William Schaffner)氏はAFPの取材に「米国の政治指導層が、これらの機関の科学的機能を侵犯するのは前代未聞だ」と語った。

■「恐怖の風潮」

 一方、FDAの信頼も損なわれているというのは、米スクリプス・トランスレーショナル研究所(Scripps Research Translational Institute)のエリック・トポル(Eric Topol)所長だ。同氏は医薬品規制機関として世界で最も影響力を持つFDAの信頼性が揺らいでおり、パンデミック(世界的な大流行)に関する最も重要な決定、つまり最初のコロナワクチンをいつ承認するかという決定に大きな影響を及ぼしかねないと警告する。

 トポル氏は重要な出来事があったとして、次の2つを挙げた。まず3月にFDAは、COVID-19への治療効果の証拠がないにもかかわらず、トランプ氏が熱心に推奨する抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの緊急使用を承認した。だが安全性への懸念から、この承認は6月に取り消された。

 またトランプ氏が共和党全国大会へ向けて準備をしていた8月にはFDAは、COVID-19から回復した患者の血漿(けっしょう)を用いた治療を緊急許可した。その発表の際、FDAのスティーブン・ハーン(Stephen Hahn)長官は血漿が生命救助に大きな効果を持つことをデータで示したが、この引用は不正確で、ハーン氏は後に謝罪と撤回に追い込まれた。

 ハーン長官はFDAがホワイトハウス(White House)から圧力を受けているのではないかとの批判を否定し、審査プロセスには独立した専門家らが加わっていると強調している。さらに9月上旬にはツイッター(Twitter)への投稿で「これらの(新型コロナウイルスの)ワクチンやその他のワクチンに関し、われわれの科学に基づく独立した審査に対する国民の信頼を脅かすことはしない。危険すぎることだ」と述べた。

 現在、ワクチンの臨床試験は最終段階にあるが、トランプ氏がいう10月いっぱいまでに十分なデータが入手できる可能性は低い。また実用化のめどが十分に立っていない医薬品で、製薬企業が自社の評判を危うくすることもありそうにない。

 だが専門家らは今も懐疑的だ。彼らが懸念材料として挙げるのは、米医薬品大手ファイザー(Pfizer)の最高経営責任者(CEO)が早ければ数週間以内にも承認申請を行うと、連日のように発言していることだ。

 米ハーバード大学(Harvard University)の疫学者マイケル・ミナ(Michael Mina)氏は、「承認を迫る不穏な圧力運動が起きているのだと思う」と語った。

 スクリプス研究所のトポル氏は、CDCとFDAが「トランプ政権下のホワイトハウスの面々に従属してしまっている」と指摘し、「失職することに対する恐れや、大統領とその支持者らによる敵意あるツイートの標的になることを怖がる『恐怖の風潮』がある」と批判した。

【翻訳編集】AFPBB News

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