放送作家の高須光聖が、世の中をもっと面白くするためにゲストと空想し、勝手に企画を提案していくTOKYO FMの番組「空想メディア」。9月6日(日)の放送では、先週 https://tfm-plus.gsj.mobi/news/OG21o0sBIU.htmlに引き続き、星野リゾート代表・星野佳路さんが登場しました。


(左から)高須光聖、星野佳路さん



◆社員一人ひとりが楽しく働くことを重視
高須:星野さんが運営されていて“これはいいアイデアだ”って思ったものはありますか?

星野:僕は、細かい業務のことには関与しないようにしているんですよ。

高須:スタッフさんにお任せしているのですね。

星野:リゾートの場合、そこで建てるものは“舞台”でしかないんですね。そして、お客様に満足していただけるように演じるのは、ほかならぬスタッフです。スタッフが作りたいリゾートはハッキリとわかっていますから、自分たちで、考えて行動して変化していくんです。

日本の旅というのは、季節の移ろいを感じることがすごく大きな要素になっています。これは海外のリゾートにはない強みだと思います。四季が変われば食べるものや装飾も変わりますからね。それに、地域の文化を反映することができるのは、地域に住んでいるスタッフじゃないと発想できないことです。ですから、私に何かアイデアが浮かんだとしても、それを“実現してほしい”とはあまり思わないんですね。

高須:向こうにいるスタッフさんにアイデアを託すんですね。でも、それって怖くはないですか? 自分の目が届かなくなる不安が出てきたりしません?

星野:全然怖くないですよ。企業の原点は、“いかに社員一人ひとりが楽しく生き生きと仕事をしてくれるか”ですので。その気持ちが競争力を生み出すエネルギーになりますから、そちらを失うほうが怖いです。

高須:たしかに、楽しくないと本来の力を発揮できないですもんね。

星野:はい。そういう環境を作っていくのが私の仕事であって、細かい業務に口を挟むことはしないですね。

◆全社員が一丸となってコロナと立ち向かう
高須:コロナ禍になって、状況はどのように変化しましたか? このような情勢ですから、旅行をする人自体が減っているとは思うんですよ。

星野:観光事業者は存続の危機を抱えている方が多いと思います。4月・5月は8〜9割の売上減ですからね。8割減だったらいいほうかもしれないですね。

高須:そうなんですか、大変ですね。

星野:需要がなくなったマーケットをうまく乗り越えることは、経営の努力や能力では難しいと思います。なので、1年のあいだにどれぐらい売上を戻せるかが課題になると思います。勝負どころです。

高須:スタッフのモチベーションの問題もありますよね。こういった状況がずっと続くと、段々とやる気が削がれていきますから。

星野:そうですね。ただ、人間はエキサイティングなプロジェクトになると、やる気が出てくるじゃないですか。なので、私たち星野リゾートは現在の状況を“サバイバルゲーム”だと捉えているんですよ。

高須:その発想はいいですね、面白い。

星野:コロナ禍の当初は、社員専用ブログでも「我々はどうなってしまうんだろう……」と一時期はパニック状態でした。ですので、“我々の作戦はこれだ!”とか“18ヵ月生き残る方法”とかを出しながら、アップする頻度を上げて情報発信を心掛けました。そのなかで、倒産確率も算出したんですよ。

高須:そんな数字も出したんですか!?

星野:私が数字モデルを出しました。そうしたら、それが1番社員の反応が大きかったです。

高須:(笑)。すごいですね!

星野:我々がこういう行動をすると、倒産確率はこのように変化する、といったことを記しました。毎月更新して発信しています。

高須:そういうことを発信したことで、“我々は運命共同体だよ”というようなメッセージにもなったのではないでしょうか?

星野:そうですね。それに10年とか20年ぐらい経って、この2年間ぐらいを振り返ると“あのコロナ禍を観光産業で乗り越えたんだ”という経験が、ものすごい勲章になると思うんですよ。将来、また難しい危機がくると思いますが、コロナの時期を乗り越えた経験は、きっと心強い武器になると思います。

◆海外に日本文化を取り入れた温泉旅館を展開
高須:沖縄に外資系のホテルが進出してきていますが、どう思われますか?

星野:外資系の運営会社は、私たちにとって最大の競合です。世界のホテル業界というのは、アメリカのホテル会社が先頭を切り、そこにヨーロッパが追随しています。一方で、日本はおもてなしの国だけれど、ホテルでは後発なんですよ。

高須:なんでなんですかね?

星野:いろいろ理由があったとは思うのですが、簡単に言うと“おもてなし”にこだわった結果、チェーン展開が遅れたことが原因だと考えられます。もう1つの原因は、スタッフのサービスの質ですね。日本は一人ひとりのスキルが高く、そこに依存したサービスができあがっていたので、そのノウハウを世界で展開させることは難しかったんですね。それらの理由を意識した上で、外資のホテルと戦いながら自分たちを成長させる、日本初のホテル運営会社を作っていきたいです。

高須:なるほど。そういう方向で進んでいくんですね。

星野:国内は今のチームに任せて、海外にどんどん進出したいと考えています。2019年に台湾で開業しましたし、バリとハワイでもホテルを運営しています。そして、いずれは北米に温泉旅館をオープンしたいと考えています。

高須:そうですか!

星野:北米は1,000ヵ所以上の温泉地があるんですね。温泉の活用に関しては、日本のほうがうまいと思うんですよね。

高須:“海外の方が好む温泉”というのは、日本と比べてあまり変わらないのでしょうか?

星野:“温泉の入り方”という点でいえば違いはあります。しかし、食事や大浴場といった、日本の温泉旅館文化に海外の方が触れると、みなさん素晴らしく感動してくださるんですよね。私が留学していた1980年代は、生魚を食べることに抵抗していましたけれど、今ではみんなお寿司を食べていますよね。それと同じように、日本の素晴らしい温泉文化も、いつか理解されるものだと信じています。私は温泉旅館出身ですし、温泉旅館でダメなら海外に行かないような覚悟でやりたいと思っています。

高須:なるほど。

星野:台湾でオープンしたのも温泉旅館なんですよ。日本式の大浴場で男女別です。もちろん裸で入ります。台湾の温泉では、水着を着て男女がプールのように入っているんですね。ですが、そのスタイルだと日本らしさが失われてしまうんですよ。

高須:そうですよね、服を脱いで浴衣を着るのが日本の温泉ですもんね。

星野:そうです。そこにこだわって、それがダメなら日本に帰ってくる覚悟で運営をしています。

高須:“ここは譲れない!”っていうポイントをきちんとおさえていかないと、競争には勝てないですもんね。

<番組概要>
番組名:空想メディア
放送日時:毎週日曜 25:00〜25:29
パーソナリティ:高須光聖
番組公式Facebook:https://www.facebook.com/QUUSOOMEDIA/ https://www.facebook.com/QUUSOOMEDIA/