無欲でつかんだ初完投、完封勝利・鹿児島水産鹿水産・篭原

 市民球場の開幕戦は鹿児島水産の1年生右腕・篭原陽翔、指宿商の2年生左腕・黒岩理登が淡々と投げ続け、6回まで両者無得点の投手戦を繰り広げた。

 鹿児島水産は2回、先頭の4番・井上海星(2年)がショートゴロ悪送球で出塁し、三塁まで進んで6番・篭原のサードゴロが本塁悪送球となる間に1点を先制する。篭原は9回二死まで無安打投球。二死から4番・内薗琉音(2年)にフェンス直撃の二塁打を浴びて、ノーヒットノーランは逃したが、後続を断ち虎の子の1点を守り抜いて完封した。

 「まさかこんな展開になるとは思ってもみませんでした」。

 鹿児島水産・森園健太監督が正直な心境を語る。主将、エース、3番打者、チームの主力3人を遠洋航海の実習で欠く苦しい台所事情の中で、投手経験のほとんどない、公式戦初先発の1年生右腕があわやノーヒットノーランの快投を演じたのだから無理もない。

 勝ち負けを考える前に「誰を投げさせれば試合が作れるか?」で2人の1年生を候補に挙げた。篭原の本来のポジションはショート。中学時代はセカンドでマウンド経験はない。高校では「練習試合で2、3試合投げた」程度だが「ストライクがとれる」のに加えて「くよくよしないで淡々と投げられる」篭原に白羽の矢を立てた。

 打たれてOK、点を取られて当たり前。そんな無欲さ、開き直りがかえって功を奏し、1人1人の打者に丁寧に投げ続けた。「直球がいつもより走っていたので、思い切って投げることができた」。純然たる直球というよりは、手元で微妙に変化する分、相手のタイミングを微妙に狂わせていた。

 疲れが出始める6、7回は先頭打者をいずれも四球で出し、盗塁などで揺さぶられ、三塁まで進められたが、次の打者をおさえることに集中できた。9回二死から長打を浴びたが、最後まで無欲の投球を貫いた。

 ノーヒットノーランはいうまでもなく、9回を完投するのも初めて。「マウンドで投げるのは本当に大変だと分かりました」と164センチの小柄な体に人懐っこい笑顔を浮かべて振り返っていた。

(文=政 純一郎)