第11回のテーマは「女性アスリートの三主徴」について

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連載「女性アスリートのカラダの学校」第11回―「女性アスリートの三主徴」について

 スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第11回は「女性アスリートの三主徴」について。

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 2014年、報道情報番組で、10代の女性アスリートの健康問題が特集されました。

 番組内で流れたのは、2012年女子新体操W杯でのフェアリージャパン(新体操日本代表)の映像。団体の演技中、突然、選手の一人、遠藤由華さんが倒れ込みます。このとき、遠藤さんは左足大腿骨頸部を骨折。何度も立ち上がろうとするも、その場で崩れてしまい、演技は中断されました。遠藤さんはこの骨折で、同年、控えていたロンドン五輪に出場できず、競技生活に戻ることもできなかったそうです。

 当時、私が勤める日本体育大学では、学生アスリートの競技力向上をサポートするシステムを構築中でした。この番組の放送後、すぐさま当時の学長、副学長に「話が聞きたい」と呼ばれて、女性アスリートの現状、問題などをヒアリング。大学側は素早く動き、学内に女性アスリート専門のサポートチームを設立するに至りました。

 このケガの原因には、女性特有の健康障害があります。

 つい数年前の話ですが、当時は女性アスリートの体の問題について、メディアなどに大きく取り上げられることはほとんどありませんでした。早くから女性アスリートのための研究をすすめたり、専門外来を設置したりする大学や病院もある一方、トップアスリートを除き、現場で語られる機会も今ほど多くなかった。現場で指導される方、そしてアスリート本人も、女性特有の健康問題の深刻さに気づいていなかったと感じます。
 
 皆さんは「女性アスリートの三主徴」という言葉を聞いたことはありますか?

 女性アスリートによくある三つの健康障害を表す言葉で、私は学生たちにコンディショニングについて講義をする際、この単語を最初に教えています。

「女性アスリートの三主徴」は、1992年、アメリカスポーツ医学会が女性特有の健康障害として定義したものです。「主徴」という言葉は聞き慣れない方が多いと思いますが、「主な症状」を意味すると考えてください。

 その「三つの症状 (主徴)」とは、

1:利用可能エネルギー不足
2:視床下部性無月経
3:骨粗しょう症

 です(2007年以前は利用可能エネルギー不足ではなく、摂食障害とされていました)。

「女性アスリートの三主徴」はスポーツをする女性にとても大切な話

 三主徴の発端になるのは、1の利用可能エネルギー不足です。

 利用可能エネルギー不足とは、運動によるエネルギー消費量に見合ったエネルギーを、食事から確保できていない状態、またはオーバートレーニングの状態であること。視床下部性無月経も骨粗しょう症も、そもそもは利用可能エネルギー不足によって引き起こされます。

 また、三主徴はどれか一つではなく、二つ、三つ、同時に発症しているケースが多くみられます。例えば、エネルギー不足から視床下部性無月経になり、女性ホルモンの分泌が低下。すると、骨粗しょう症になってしまう……という具合です。つまり、3つの健康障害には相互関係があり、一つ症状が出てしまえば2番目、3番目の障害も引き起こされる。しかも、長期間放置すると、カラダを「治療が必要な状態」に変化させて、回復までに長い年月がかかる場合もあります。

 以前、体育会系女子大学生の現状を知るために、三主徴に関係するアンケートを実施したことがあります(対象者:1711人)。本人は骨粗しょう症かどうかは判断できないため、「疲労骨折の経験」の有無などを設問にして調査。疲労骨折については21%が「経験あり」と回答しました。また、「経験あり」の人に「疲労骨折時に月経は順調にきていたか」を問うと、「順調」が32%、「不順」は21%、そして42%が「覚えていない」という結果でした。

 利用可能エネルギー不足や骨粗しょう症は、医師や専門家ではないと気づけません。しかし、生理をみれば三主徴の兆候にも気づけます。もしも、疲労骨折が生理不順や無月経と関係していると知っていれば、「覚えていない」と回答する人数もグッと減ると思います。

 3か月以上、生理が止まってしまったら(※1)、「骨が折れちゃうかもしれない」と気づいてほしい。その気づきが、重症化を防ぐのです。

 教科書には載っていませんが、「女性アスリートの三主徴」はスポーツをする女性にとって、とても、とても、大切な話です。男女を問わず、アスリートにはケガはつきもの。しかし、なかには女性に多いもの、男性とは異なる原因によって発生するものもあると、知って欲しいと思います。
次回は三主徴の発端となる利用可能エネルギー不足について、もう少し、詳しくお話ししていきましょう。

(※1)月経が3か月以上ない場合、三主徴にあたる視床下部性無月経の疑いがあります。1〜2か月、生理がないというときは、多くの場合、問題はありません。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

須永 美歌子
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『1から学ぶスポーツ生理学』(ナップ)