コロナ後の世界を語る(朝日新聞出版)

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 「コロナ後」という言葉がちょっとしたブームになっている。「コロナ後の経済」とか「コロナ後の日本」とか・・・。本書『コロナ後の世界を語る――現代の知性たちの視線』 (朝日新書)もその一つ。私たちは、何を基準にどう生きるべきか。世界はどう変わっていくのか。内外の有名人22人が語っている。

政治の重要性を強調

 登場するのは以下の22人。イアン・ブレマー、磯野真穂、伊藤隆敏、大澤真幸、荻上チキ、角幡唯介、鎌田實、五味太郎、斎藤環、坂本龍一、ジャレド・ダイアモンド、東畑開人、中島岳志、福岡伸一、藤原辰史、ブレイディみかこ、藻谷浩介、山本太郎(医学・国際保健学者)、柚木麻子、ユヴァル・ノア・ハラリ、養老孟司、横尾忠則。

 さまざまな立場やジャンルの人が入り混じっている。世界レベルの知性も目に付く。その代表格は、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏だろう。大著『サピエンス全史』で有名だ。1976年、イスラエル生まれ。ヘブライ大学教授。人類史を問い直し、未来を大胆に読み解く著作で知られる。

 感染拡大で私たちはどのような課題に直面しているのか――。ハラリ氏は「世界は政治の重大局面にある」と、政治の重要性を強調する。

 「すべてにおいて決まった答えはなく、政治に委ねられます。だから私は現状が医療だけでなく政治の重大局面だと定義するのです」

 コロナ拡大防止のために私権を制限するのか。経済活動とのバランスをどうするのか。他国と協調するのか、独自路線か。すべては政治が関与する判断になるというわけだ。つまり政治の力が試され、民主主義が試されるということだろう。そしてこんなことも指摘する。

 「我々にとって最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔です。憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると、人々は互いを憎み合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金もうけを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる。これらが最大の危険です」

「世界レベルのアイデンティティー」

 もう一人、日本でもよく知られた世界的な知性も登場する。生物学者のジャレド・ダイアモンド氏だ。1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部教授などをつとめた。こちらは、生態学、地理学などの知見を駆使して人類の歴史を解き明かした名著『銃・病原菌・鉄』などで知られる。日本でもロングセラーになっている。

 ダイアモンド氏は「重要なポイント」として、5つを挙げている。まず国家が危機的な状況にあるという事実を認める。第二に、自ら行動する責任を受け入れる。第三に、他国の成功例を見習う。第四は他国からの援助を受け入れる。最も重要な第五のポイントは、このパンデミックを将来の危機に対処するためのモデルとすることだと強調している。

 そしてコロナがもたらすかもしれない変化として「世界レベルのアイデンティティー」を挙げている。私たちにはこれまで「米国人」「日本人」という国レベルのアイデンティティーはあっても、「この世界の一員」というアイデンティティーはなかった。

 「気候変動問題で人がすぐに死ぬことはありませんが、新型コロナは違う。誰にとっても明らかな脅威です。私たちがなすべきことは、新型コロナが全世界への脅威だと認識し、このパンデミックを通じて世界レベルのアイデンティティーを作り上げること。それができれば、この悲劇から望ましい結果を引き出せます」

トランプ大統領批判

 2人に共通していることがある。手厳しいトランプ大統領批判だ。ハラリ氏は4月15日段階で以下のように語っている。

 「トランプ大統領が世界保健機関(WHO)を非難し、資金拠出をやめると脅したことには失望しました。トランプ氏は、米国で惨事が起き始めていることに気付いているのでしょう。いずれ、誰かが失敗の責任を問われることになる。中国や日本よりも長い準備期間があったのに、米国は何もしなかったからです。グローバルな対策だけでなく、自国のためにも無策だった。トランプ氏は非難されることを恐れ、スケープゴートを探しています。WHOを責め、自身への非難を避けようとしているだけです」

 ダイアモンド氏は、「人類と新型コロナとの闘いに、何が大きな影響を与えるか」という問いに、「やはり、政治的なリーダーシップです」と即答。米国の政治家をまな板に上げている。

 「フロリダ州の知事はひどいし、ミシシッピ州の知事はさらに悪い。そして私たちの大統領は最悪です。団結こそが必要な時に、彼は世界中に不統一、不和をばらまいているのです」 「彼が再選されれば、米国における民主主義は終わるかもしれない、と危惧しています」

類書がせめぎ合う

 本書は以下の構成。

 第1章:人間とは 生命とは 第2章:歴史と国家 第3章:社会を問う 第4章:暮らしと文化という希望

 本書は、「朝日新聞デジタル」に掲載されている「コロナ後の世界を語る――現代の知性たちの視線」というシリーズから、22氏のインタビューや寄稿を取り出し、ジャンル別に整理してまとめたものだ。シリーズはまだ続いているので続編が出るかもしれない。

 類書は何冊か出ている。『コロナ後の世界』 (文春新書)は7月20日発売。やはり世界的な知性6人に緊急インタビューしたもので、ベストセラーになっている。

 『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』(岩波新書)は7月22日発売。各界の第一人者24人の提言を掲載している。すでに4刷。

 『コロナ後の世界 ――いま、この地点から考える』(筑摩書房)は9月3日発売。免疫学、精神医学、社会学、哲学・現代思想、経済学、医学史、政治学、科学史など、第一線で活躍する12人による論集。

 BOOKウォッチは関連して、『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)、『観光ビジネス大崩壊 インバウンド神話の終わり』(宝島社)、『新興衰退国ニッポン』 (現代プレミアブック)、『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)なども紹介済みだ。

書名:  コロナ後の世界を語る
サブタイトル: 現代の知性たちの視線
監修・編集・著者名: 養老孟司、ユヴァル・ノア・ハラリ、福岡伸一、ジャレド・ダイアモンドら22人 著
出版社名: 朝日新聞出版
出版年月日: 2020年8月11日
定価: 本体790円+税
判型・ページ数: 新書判・208ページ
ISBN: 9784022950949


(BOOKウォッチ編集部)