子育てに少し余裕が出たママが、外で働きたいと思ったときに直面する「106万円の壁」「130万円の壁」。また、収入の数字だけにとらわれず、私たちが考えるべきこととは(写真:Domani)

3児の母でありモデル牧野紗弥の人気連載。今回は、扶養される側によく使われる「106万の壁」「130万円の壁」の本当の意味について。さらに、収入の数字だけにとらわれず、私たちが考えるべきことって?

収入が106万円以上になると、手取り額が減るのは事実

先日ママ友と話していたら、


当記事は、Domani(ドマーニ)公式ウェブサイトの提供記事です

「本当はもっと働きたいけど、夫の扶養から外れると社会保険を自分で払うことになるから、月の給料が88,000円を超えないようにして、年間106万円未満で調整しているの」

と言っていました。また別の友人は、

「産休後に職場復帰したけど、頑張って仕事を増やしても、保険料が差し引かれた分手取りが減っちゃった」

とがっかりしている様子。

私も仕事復帰するときに同じ気持ちになったのですが、税金の仕組みが難しくてよくわからないままやり過ごしていたので、これを機会に理解したいと思ったんです。なんだか、扶養から外れると国に納めるお金が増えて損しちゃうんじゃないか!? みたいなイメージだけれど、本当にそうなのかな? 扶養から外れると、手取りの収入って具体的にどう変わるんだろう?

そこで、数字を明らかにすることで、仕事を増やすことを躊躇していたり、復職に悩んでいる人の参考になればと、税理士・AFPの資格を持つ荒川税理士事務所の荒川茂俊さんに詳しくお話を伺ってみました。荒川さんによると、どんな雇用形態であれ、従業員数500人以下の企業では収入が130万円以上になると、従業員数501人以上の企業では106万円以上になると、やはり手取りは下がるそうです。

なぜ手取りが下がるかと言えば、「扶養から外れて『社会保険料』を支払わなければならなくなるから」(社会保険料の詳細は後述します)。扶養される側であれば、扶養する側だケガ支払うものですが、扶養から外れると、支払う義務が発生します。そして、その扶養から外れる年収の金額が、従業員数500人以下、と501人以上で異なり、それぞれ130万円と106万円、だということです。社会保険料を支払うにせよ、支払わないにせよ、その後、所得税・住民税がさらにここから引かれます。

●従業員500人以下の企業の場合、年収130万円以上になると扶養から外れる


(図表:Domani)

●従業員501人以上の企業勤務の場合、年収106万円以上になると扶養から外れる


※1 =社会保険料(厚生年金+健康保険料)を差し引いた額。 ※2 =手取年収(※1)から所得税と住民税を差し引いた額。 ※3 = 年収が103万円を超える場合は超過額に対して約15%の税金が控除される(図表:Domani)

「社会保険料」って何?

こうやって表にしてみると、従業員数501人以上の企業に雇用されている場合、125万円以上の所得がないなら、106万円未満のほうが手取りが多い……。

では、この<社会保険料>っていったい何を指すのかというと……

<社会保険>=<厚生年金保険>+<健康保険>

です。

<厚生年金保険>とは…

これに加入すると、将来受け取る全国民共通の基礎年金に加えて、支払った分だけ<厚生年金>を受け取ることができます。それだけでなく、遺族基礎年金ほか、より手厚い保障を受けることができるのも特徴です。この厚生年金、全額を本人が払うわけではなく、雇用している会社が半分支払うシステムになっているので、軽い負担額で将来の厚い保証が得られるのがメリットです。

※社会保険加入には、企業によって勤務時間数など細かな条件がある場合があります。

<健康保険>とは…

私たちが病院にかかったときに払う医療費に充てられるもの。これがあるので、病院で支払う私たちの医療費は3割で済む(高齢者の場合は2割、1割になることが多い)わけです。残りの7割は都道府県や健康保険組合がまかなってくれています。扶養に入っているときは、<国民健康保険>または配偶者の<健康保険>に加入することになります。そのときも医療費は3割負担で同じです。

ただ、自身が<健康保険>に加入していると、病気やケガ、出産などで仕事を休む場合には、傷病手当金や出産手当金として、賃金の3分の2程度の給付を受け取れるなど、働く人のためのサポートが得られます。

収入が年間106万円以上になったら手取りが減る。「頑張ったのに損した気分になっちゃう!」という友人たちの言葉の意味がすごくよくわかりました。扶養に入っていれば支払わなくていいものを、手取りを減らしてまで支払うことにどんな意味があるのだろう? そう思ってしまいますよね。

とくに子どもが小さなうちは、子どもとの時間を大切に考えたいし、夫と話し合う労力も相まって、どの程度仕事に重心を置くか、悩むのだと思います。

人生100年時代のキャリアと収入を考えて

ただ、今回<社会保険>について調べたことで、長く働くことを前提に考えればメリットの大きいものだということがわかりました。

つい目先の状況にとらわれてしまいがちですが、どれだけ年金を得て、どんな生活をするか、先々のことも考えたうえで、働き方を決める必要があるのでがないでしょうか。

とくに30代、40代のキャリアは、そのときでなければ得られないものもあると聞きます。私も以前と比べると仕事に対する姿勢が変わり、もらう仕事だけではなく、提案し自ら動いていくことも増えました。ママが存分に仕事をするには家族の理解が必要不可欠です。家を空ける時間も増え、夫に頼る機会が格段に増えましたが、その分、家族と小まめに連絡を取り合い、仕事の状況やそれに対する思い、そして感謝の気持ちを伝えようという意識も強くなりました。

こんなふうに大変なことはあっても、私自身、産後の金銭的な自立を目指したことで、精神的な自立にもつながったと感じています。さらには、60代以降のサードキャリアや定年後の暮らしも意識するようになりました。

状況を変えたいタイミングは人それぞれです。自分にそのときがきたら、壁のその先について家族みんなで話し合ってみてはいかがでしょうか。

(監修/荒川茂俊〈税理士・ファイナンシャルプランナー〉)

牧野紗弥(まきの さや)/愛知県出身。小学館『Domani』を始め、数々のファッション誌で人気モデルとして抜群のセンスを発揮しながら、多方面で活躍中。キャンプやスキー、シュノーケリングなど、季節に合わせたイベントを企画し、3人の子どもとアクティブに楽しむ一面も。今年は登山に挑戦する予定。自身の育児の経験や周囲の女性との交流の中で、どうしても女性の負担が大きくなってしまう状況について考えを深めつつ、家庭におけるジェンダー意識の改革のため、身を持って夫婦のあり方を模索中。